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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第1章学園篇後半
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第45話

静寂。

夜の森に、焚き火の弾ける音だけが小さく響いていた。

満天の星

涼しい風。

つい先程まで、五人は他愛もない話で笑い合っていた。

そんな穏やかな時間を。


ガサッ。


不意に響いた物音が破った。


「ん?」


最初に反応したのはファウラだった。


「なんか聞こえね?」


その一言に、全員の視線が森へ向く。

次の瞬間。

暗闇の奥で。

赤い光が一つ。

また一つ。

さらに一つ。


「……!」


アクアが息を呑む。

それは目だった。

無数の赤い瞳が、闇の中から五人を見つめている。

まるで獲物を狙うように。


「狼型か……?」


アギトが呟く。


「いや」


ウェントスの声は低かった。


「多すぎる」


「二十三体」


その表情に、いつもの余裕はない。


「群れの規模がおかしい」


「先生を呼ぶ?」


アクアが不安そうに尋ねる。


「間に合わない」


ウェントスの目が細くなる。


「来る!」


一頭の狼型魔物が飛び出した。


「おおおお!」


ファウラが炎を纏った拳を振るう。

轟音。

魔物は地面を転がった。


「一匹!」


しかし。


「グルルル……」


「は?」


倒れない。


「硬ぇ!」


「普通のウルフじゃない!」


その全身から、黒い霧のようなものが立ち昇っていた。


「瘴気……!」


ウェントスの顔色が変わる。


「全身に瘴気を纏ってる!」


「瘴気?」


「魔力の質がおかしい」


「気を付けて!」


アクアの水魔法が狼の足を拘束する。


「今!」


「おりゃあ!」


ファウラの炎。


「風刃」


ウェントスの風。

二つの攻撃が重なり、ようやく一頭が倒れた。

しかし。

闇の奥から。

さらに。

さらに。


「嘘だろ……」


二十。

三十。

異常な数の魔物が押し寄せる。


「こんなの実習じゃねぇ!」


ファウラが叫ぶ。


「落ち着いて!」


アクアが回復魔法を展開する。


「怪我した人はいない!?」


「こっちは大丈夫!」


テラもハンマーを握り直す。

アギトは炎を構えながら周囲を見渡した。


(変だ)


数もおかしい。

だが。

何より。

ぞくり。

背筋を冷たいものが走った。


「……?」


誰かに見られている。

そんな感覚。


「アギト!」


「危ない!」


巨大な影。

他の個体より一回り大きな狼が飛び出した。


「うおお!」


アギトは咄嗟に業火を放つ。

だが。


バキッ。


「……え?」


狼が。

炎を。

噛み砕いた。


「は?」


ファウラが固まる。


「炎を……食った?」


「そんな……」


ウェントスの顔色が変わる。


「異常個体」


「資料でしか見たことない……」


巨大狼の赤い瞳。

その奥で。

一瞬だけ。

紫色の光が揺らめいた。


ドクン。


「っ……!」


アギトの胸が痛む。

左胸。

魔性紋が微かに熱を帯びる。


「アギト!?」


アクアが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「平気……です」


だが。

平気なはずがない。

何故だ。

何故。

あの魔物を見た瞬間。


『助けて』


そんな声が聞こえた気がした。



--その頃。


「異常個体だと?」


報告を受けたクルデーリスの表情が変わる。


「馬鹿な」


「この地域に出現するはずがない」


「数は三十以上です!」


「……!」


銀髪の男は立ち上がった。


「全教師に通達」


「生徒の保護を最優先」


「私も出る」


「クルデーリス様自ら!?」


「当然だ」


紅い瞳が鋭く細まる。


「嫌な予感がする」



同時刻。

森の奥。

巨大な木の枝の上。

風に揺れる獣耳。

五百年を生きる獣族。

グリフォンは腕を組みながら、遠くを眺めていた。


「ほう」


「異常個体か」


赤い瞳が細くなる。


「懐かしいな」


「だが……」


「これは自然発生じゃない」


木々を揺らす風。

その中で、男は小さく笑った。


「デーモンキング」


「余計な真似をしてくれる」


その顔には焦りも恐れもない。

ただ。

長い時を生きた者だけが持つ、静かな威圧感があった。


--

遥か魔界。

漆黒の玉座。


「ククク……」


玉座の前で、一体の悪魔が跪く。


「実験体三号」


「順調です」


「そうか」


黄金の瞳が細められる。


「人間共の反応を見るとしよう」


「第一次実験」


「開始だ」


再び。

星空の下。


「グルルル……」


巨大な異常個体。

そして。

その後ろ。

闇のさらに奥。

森そのものが揺れる。

ウェントスの顔から血の気が引いた。


「……嘘だろ」


「まだいるのか」


彼の震える声に。

全員が振り向く。

そして。

森の奥。

二つの巨大な赤い瞳が。

静かに。

開かれた。

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