第44話
校外実習初日。
生徒たちは森の中を進みながら、簡単な魔物討伐や薬草採集を行っていた。
幸い、大きな問題は起きていない。
「うーん!」
「自然っていいな!」
ファウラが大きく伸びをする。
「さっき木に頭ぶつけてましたけどね」
「それは自然が悪い!」
「理不尽」
ウェントスが呟く。
「自然に謝れ」
「自然ごめん!」
「素直!」
「良いことですね」
アクアが笑う。
そんなやり取りをしながら、五人は夕方まで実習を終えた。
そして。
「よし!」
「野営だ!」
「おー!」
広場では各班がテントを張り始めていた。
「任せろ!」
「俺、こういうの得意!」
ファウラが自信満々に胸を叩く。
三十分後。
「なんで逆さまなんだよ!」
「知らん!」
「得意とは」
「言ってない!」
「言いました」
「言ったね」
「言った」
「うぅ……」
四対一である。
「ふふっ」
アクアが思わず吹き出した。
「じゃあみんなでやろう?」
「賛成!」
「おー!」
「……」
ウェントスも無言で手伝い始める。
「ありがとう!」
テラが笑顔を向ける。
「別に」
「早く終わらせたいだけ」
「優しい!」
「違う」
「最近そればっかだな!」
「違うものは違う」
「でも、手伝ってくれてる」
アクアが微笑む。
「……」
ウェントスは少しだけ目を逸らした。
「放っておけないだけ」
「素直じゃないなぁ」
テラがにこにこ笑う。
「……うるさい」
しかし。
その顔はどこか照れていた。
⸻
夜。
焚き火がぱちぱちと音を立てている。
頭上には満天の星。
街では見られないほどの、美しい夜空だった。
「綺麗……」
アクアが見上げる。
「すごい!」
「星がいっぱい!」
テラも目を輝かせる。
「平和だなぁ」
ファウラが寝転がる。
「そうですね」
アギトも夜空を見上げた。
こんな時間が。
ずっと続けばいい。
そんなことを思ってしまう。
「……」
ウェントスも静かに空を見上げていた。
「好きなんですか?」
アギトが尋ねる。
「星」
「嫌いじゃない」
「昔」
「よく見てた」
「家族と?」
「……うん」
短い返事。
しかし。
今までなら話を切っていたはずのウェントスが。
少しだけ。
自分のことを話していた。
「!」
アギトは少し驚く。
「そうなんですね」
「綺麗ですもんね」
「……うん」
そして。
その時だった。
「ん?」
ファウラが立ち上がる。
「なんか聞こえね?」
「え?」
ガサッ。
森の奥から。
何かを引きずるような音。
「魔物?」
アギトが立ち上がる。
「いや」
ウェントスの表情が変わる。
「変だ」
「気配が……おかしい」
次の瞬間。
森の奥で。
赤い瞳が。
一つ。
また一つ。
さらに一つ。
暗闇の中で。
無数の瞳が。
五人を見つめていた。
「……!」
「全員」
ウェントスの声が低くなる。
「戦闘準備」
穏やかな星空の下。
校外実習最初の夜。
五人にとって初めての試練が。
静かに幕を開けようとしていた。




