第43話
春の暖かな風が吹き抜ける朝。
まだ太陽が高く昇りきる前だというのに、学園の正門前には多くの生徒たちが集まっていた。
初めての校外実習。
一年生たちの表情には、不安と期待が入り混じっている。
そんな中。
「うおぉぉぉ!」
「校外実習だぁぁぁ!!」
一際大きな声が響いた。
「ファウラ君、朝から元気だね」
「元気しか取り柄がないからな!」
「もっと胸張るところあると思います」
「そうか!」
「そうです」
アギトは苦笑する。
一方。
「……眠い」
ウェントスは珍しく目を擦っていた。
「寝不足ですか?」
「昨日、本読んでた」
「何時まで?」
「三時」
「馬鹿ですか」
「否定できない」
「できないんだ……」
隣では。
「えへへ」
「みんなでお出かけ!」
テラが嬉しそうに飛び跳ねていた。
「楽しみ!」
「楽しみだね」
アクアも微笑む。
そして。
「お弁当作ってきたんだ」
「おお!」
「アクア最高!」
「お昼が楽しみですね」
「だろ!」
「お前作ってないだろ」
「気持ちは込めた!」
「込めただけか」
ウェントスが呆れたようにため息を吐く。
しかし。
その表情は穏やかだった。
いつものように。
賑やかで。
少し騒がしくて。
そんな五人の日常。
「全員整列!」
低く響く声。
ざわついていた生徒たちが一斉に静まる。
壇上に立っていたのは。
銀髪の男。
クルデーリスだった。
「本日より三日間」
「校外実習を行う」
「諸君らの目的は競争ではない」
「生存だ」
厳かな声。
先程まで浮かれていた生徒たちの表情が引き締まる。
「魔物を侮るな」
「慢心するな」
「仲間を見捨てるな」
「以上だ」
短い言葉。
だが。
その一つ一つに重みがあった。
「では」
「出発」
その瞬間。
歓声が上がる。
「行くぞぉぉ!」
「おー!」
「ファウラ君、近い!」
「楽しみだな!」
「押さないでください!」
「わっ!」
「テラさん!」
「転ぶ!」
「危ない!」
アクアが慌てて支える。
「ありがと!」
「気を付けてね?」
「うん!」
「……騒がしい」
ウェントスが呟く。
だが。
アギトは気付いていた。
その口元が。
少しだけ笑っていることに。
(楽しいな)
不意に。
そんな言葉が頭をよぎる。
少し前まで。
友達なんて必要ないと思っていた。
一人でいい。
そう思っていた。
けれど。
今は違う。
ファウラ。
アクア。
ウェントス。
テラ。
この四人と過ごす時間が。
たまらなく愛おしかった。
「アギト!」
「何ぼーっとしてんだ!」
「置いてくぞ!」
「今行きます!」
アギトは笑いながら駆け出した。
五人の影が朝日に照らされる。
誰も知らない。
この校外実習が。
彼らにとって初めての試練となることを。
そして。
さらに遠く。
誰も近寄らない森の奥。
「……始まったか」
木の上に座る獣人の男。
五百年を生きる獣族。
グリフォン。
赤い瞳が遠くを見つめる。
「さて」
「どんな風に育つかねぇ」
風属性の魔力が木々を揺らす。
その口元には。
どこか楽しそうな笑みが浮かんでいた。
しかし。
その視線の先。
森のさらに深く。
誰も知らない場所で。
漆黒の瘴気を纏った一体の魔物が。
ゆっくりと目を開いていた。




