第39話
午後の日差しが図書館の窓から差し込み、木製の机を優しく照らしていた。
静かな空間に、ページをめくる音と、時折漏れる小さな笑い声だけが響いている。
「これ美味しい!」
ファウラが目を輝かせる。
「本当?」
アクアが嬉しそうに微笑んだ。
「うん!」
「甘さがちょうどいい!」
「へへっ」
「頑張った甲斐あった」
「アクアさん、お菓子作れるんですね」
「簡単なのだけだけどね」
「十分すごいですよ」
アギトがそう言うと、アクアは少し照れたように笑った。
一方。
「……」
ウェントスは静かにクッキーを口に運ぶ。
「どう?」
「普通」
「えー!」
ファウラが頬を膨らませる。
「もっとこう、あるだろ!」
「美味しいとか!」
「……」
ウェントスは少し考えた。
「美味しい」
「最初から言え!」
「聞かれたから答えた」
「不器用すぎる!」
「そう?」
アクアはくすくすと笑う。
「でも、ありがとう」
「……どういたしまして」
少しだけ。
ウェントスの耳が赤くなった。
「お?」
「照れてる!」
「違う」
「図星だ!」
「ファウラ」
「ごめん」
「条件反射になってません?」
アギトは思わず吹き出した。
平和だった。
こんな時間がずっと続けばいい。
そう思ってしまうほどに。
――カラン。
その時。
どこかで本が落ちる音がした。
「?」
「誰かいるのか?」
ファウラが振り向く。
すると。
本棚の陰から、小さな人影が飛び出した。
「うわっ!」
「きゃっ!」
少女は慌てて本を抱え直す。
茶色の髪。
小柄な体。
肩には自分の背丈ほどもあるハンマー。
そして、少し尖った耳。
「ご、ごめんなさい!」
「本落としちゃった!」
「大丈夫ですか?」
アクアが駆け寄る。
「うん!」
「ありがと!」
少女は満面の笑みを浮かべた。
「……ドワーフ?」
ウェントスが呟く。
「珍しいな」
「えへへ」
「よく言われる!」
少女は胸を張った。
「テラ!」
「一年C組!」
「土属性!」
「趣味は鍛冶!」
「あとご飯!」
「おー!」
ファウラが目を輝かせる。
「仲間!」
「どこがですか」
「ご飯好き!」
「そこ!?」
「お前、いい奴だな!」
「ほんと!?」
「うん!」
「じゃあ友達!」
「早っ!」
アギトが思わず突っ込む。
「ファウラ君、毎回それだね」
「運命だからな!」
「重いです」
「ひどい!」
テラはきょとんとした後。
「あはは!」
腹を抱えて笑い出した。
「面白い人たち!」
「気に入った!」
「よし!」
「今日から友達!」
「いや早いって!」
「え?」
「駄目?」
金色の瞳が少し不安そうに揺れる。
「……いや」
アギトは苦笑した。
「別に駄目じゃないです」
「ほんと!?」
「やったー!」
その笑顔は太陽のように明るかった。
そして。
少し離れた場所で。
ウェントスが小さく呟く。
「……騒がしい」
「でも」
「悪くない」
誰にも聞こえないほどの小さな声。
しかし。
アクアだけは、その呟きを聞いていた。
「ふふっ」
「?」
「なんでもない」
アクアは優しく微笑んだ。
窓の外では、夕暮れの風が木々を揺らしている。
知らない。
誰も知らない。
この笑顔が。
この賑やかな日々が。
いつか、かけがえのない宝物になることを。




