第32話
「アギト!」
「勝負だ!」
「なんでそんなに元気なんですか!?」
「楽しいから!」
「理由が子供なんですよ!」
「褒め言葉だ!」
「褒めてません!」
周囲から笑い声が起こる。
「良い機会だ」
クルデーリスが腕を組む。
「互いに加減を学べる」
「許可する」
「よっしゃ!」
ファウラが拳を握った。
「燃えてきた!」
「もう燃えてるじゃないですか」
「上手いこと言うな!」
「言ってません!」
メディクスも苦笑する。
「怪我だけはしないようにね」
「大丈夫です!」
「多分!」
「多分!?」
⸻
訓練場中央。
「ルールは簡単!」
ファウラが木剣を肩に担ぐ。
「降参したら終わり!」
「危なくなったら先生たちが止める!」
「それでいいですか?」
「いいぞ」
クルデーリスが頷く。
「では始め」
「うおおおお!」
開始と同時に、ファウラが突っ込んできた。
「速っ!」
ガキン!
木剣と炎を纏った腕がぶつかる。
「やるじゃん!」
「そっちこそ!」
熱い。
速い。
そして何より。
「楽しい!」
ファウラが笑う。
「は?」
「戦うの好きなんだよ!」
「変わってますね!」
「よく言われる!」
再び剣が振るわれる。
アギトは後ろへ飛んだ。
「『フレイムショット』!」
三つの火球。
「うわっ!」
ドン!
ドン!
ドン!
土煙が舞う。
「避けるなよ!」
「当たったら熱いじゃないですか!」
「そりゃ火だし!」
「当たり前ですよ!」
周囲から笑い声。
「ファウラ君、楽しそうだね」
メディクスが微笑む。
「ええ」
グレイも頷く。
「友達ができたみたいです」
「……そうだな」
クルデーリスの目が僅かに細まる。
「まだまだ!」
ファウラの足元から火花が散る。
「『フレイムステップ』!」
一気に距離を詰める。
「!」
速い。
さっきより。
「はぁ!」
剣が迫る。
(間に合わない!)
反射的に。
魔力が溢れた。
紫色。
「っ!」
ボォッ!!
「!?」
ファウラが咄嗟に飛び退く。
アギトの周囲を紫炎が包む。
「……」
静寂。
「あ」
アギトの顔が青ざめる。
「ご、ごめんなさい!」
「大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ろうとする。
しかし。
「ははっ」
「?」
ファウラが笑っていた。
「やっぱすげぇな!」
「え?」
「綺麗だ!」
「……怖くないんですか?」
「ん?」
ファウラは不思議そうな顔をした。
「なんで?」
「いや……」
「みんな気味悪がるかなって」
「誰が?」
「え?」
「少なくとも俺は好きだぜ!」
太陽みたいな笑顔。
「強くて綺麗で」
「かっけぇじゃん!」
「……」
「だから!」
木剣を肩に担ぐ。
「次は負けねぇ!」
「え?」
「またやろうぜ!」
アギトは呆然としていた。
そして。
少しだけ。
本当に少しだけ。
胸の奥のざらつきが薄れた気がした。
「……はい」
「次は負けません」
「おう!」
「それでこそだ!」
二人は笑った。
その光景を。
遠く塔の上から。
赤い瞳の獣人が見ていた。
「いい顔するじゃねぇか」
風が吹く。
「お前もそうやって笑ってたよな」
五百年前の親友を思い出しながら。
グリフォンは静かに目を閉じた。
そして。
誰にも聞こえないほど小さな声で。
「……長生きしろよ」
そう呟いた。




