第27話
休日。
魔王学園に入学してから初めての完全な休みだった。
窓から差し込む朝日で目を覚ましたアギトは、ゆっくりと身体を起こす。
「ん……」
珍しく上のベッドから寝息が聞こえる。
「アウラ先輩?」
覗き込むと、毛布にくるまったアウラが気持ちよさそうに眠っていた。
「……珍しい」
いつもなら自分より先に起きているのに。
昨日のこともある。
疲れているのだろう。
「起こさない方がいいかな」
そう思った時。
「ふぁ……」
アウラが目を開けた。
「おはよー……」
「おはようございます」
「……あと五分」
「寝坊ですよ」
「うぇっ!?」
飛び起きるアウラ。
「街!」
「行くんだった!」
慌てて支度を始める姿に、思わず笑ってしまう。
「そんなに楽しみだったんですか?」
「当たり前!」
「ケーキ!」
「クッキー!」
「パフェ!」
「食べ物ばっかりですね」
「失礼だなぁ」
アウラは頬を膨らませた。
「ちゃんと案内もするよ?」
「半分くらい」
「半分なんだ……」
そんな他愛もない会話をしながら、二人は城を出た。
魔王城の近くにある街。
「おお……!」
アギトは思わず声を漏らした。
人。
人。
人。
露店。
噴水。
行き交う馬車。
人間も魔人も獣人も。
誰も彼もが普通に暮らしている。
「すごい……」
「驚いた?」
「はい」
「もっと怖い場所かと思ってました」
アウラは少し笑う。
「魔王領って、そんなに悪い場所じゃないんだよ」
「外からは色々言われるけど」
そう言って歩き出す。
「あ」
「まずはケーキ屋さん!」
「やっぱりそれなんですね」
店内は甘い匂いで満たされていた。
「いらっしゃいませー」
店員の女性が笑顔で迎える。
「いつもの!」
「アウラちゃん、今日はお友達?」
「うん!」
「ルームメイト!」
嬉しそうに紹介され、アギトは少し照れる。
「アギトです」
「よろしくね」
店員も優しく笑った。
「相変わらず可愛い子ねぇ」
「でしょー?」
「自分のことじゃないですよ?」
「分かってるよー」
アウラは楽しそうだった。
本当に。
昨日泣いていた人とは思えないくらいに。
(無理してるのかな……)
そんな考えがよぎる。
だが。
今は楽しい時間を壊したくなかった。
「美味しい……」
「でしょ?」
ケーキを食べながらアウラが満足そうに頷く。
「幸せ……」
「大げさですね」
「大げさじゃないもん」
そんな時だった。
ガタン。
店の奥から大きな音が聞こえる。
「きゃっ!」
「危ない!」
棚が倒れそうになっていた。
反射的にアギトが立ち上がる。
「危ない!」
店員の女性の娘だろうか。
小さな女の子が倒れる棚の近くにいた。
「!」
間に合わない。
誰もがそう思った瞬間。
ヒュッ。
優しい風が吹いた。
倒れるはずの棚が、ふわりと元の位置に戻る。
「え?」
店内が静まり返る。
「大丈夫か?」
そこに立っていたのは。
赤い瞳。
長い耳。
そして。
獣人の男。
「怪我はねぇか?」
女の子はこくこくと頷く。
「よし」
男は安心したように笑った。
その笑顔を見て。
アギトは思った。
(優しそうな人だな)
だが。
隣で。
ガタッ。
アウラが立ち上がる。
顔が真っ青になっていた。
「……なんで」
震える声。
「なんでいるの」
男が振り向く。
そして。
驚いたように目を丸くした。
「おっ」
「チビ助」
「また会ったな」
「グリフォン……!」
店内の空気が凍りついた。
しかし。
グリフォン本人だけは。
昔の友人に再会したかのように。
どこか嬉しそうに笑っていた。




