第26話
「今度は前より面白くなる」
その言葉を聞いた瞬間。
アウラの全身を怒りが駆け巡った。
「……ふざけるな」
「ん?」
「ふざけるな!!」
バキッ!
足元の石畳が砕ける。
空気が震える。
グリフォンが少し目を見開いた。
「おー、怖い怖い」
「何が面白いの!」
「アイツがどれだけ苦しんだと思ってるの!?」
「どれだけ悩んで!」
「どれだけ一人で抱え込んで!」
「最後まで笑ってたんだよ!?」
涙を流しながら叫ぶアウラ。
しかし。
グリフォンは静かに聞いていた。
「……そうか」
「そうかよ」
「お前は最後まで見てたんだな」
「当たり前だよ!」
「幼馴染なんだから!」
しばらく沈黙が流れる。
そして。
「悪かったな」
「……え?」
「俺は最後まで見てねぇ」
アウラの目が見開かれる。
「勇者との決戦の前」
「アイツと喧嘩してな」
「だから最後は知らねぇ」
「……」
「気付いたら五百年経ってた」
「だから」
グリフォンは笑う。
「興味があるんだ」
「今度の紫炎使いがどこまで行くのか」
「そんな理由で……!」
「そんな理由じゃねぇ」
赤い瞳が細くなる。
「俺はアイツに勝てなかった」
「?」
「最後まで」
「考え方も」
「生き方も」
「強さも」
「全部負けた」
アウラが息を呑む。
「だから今度こそ」
「俺の答えを証明したい」
「……狂ってる」
「知ってる」
「お前、昔はそんな奴じゃなかった!」
その言葉に。
グリフォンの笑顔が止まった。
「……昔か」
「そうだな」
「昔は違った」
少しだけ。
本当に少しだけ。
寂しそうな顔。
「五百年って長ぇんだよ」
次の瞬間。
シュン。
姿が消える。
「!」
気付けば目の前。
「アウラ」
「!」
「お前」
「全然変わってねぇな」
頭をぽんぽんと叩く。
「なっ!?」
「じゃあな」
「待て!」
しかし。
グリフォンの身体は風となって消えていった。
「……っ!」
一人残されるアウラ。
「なんなの……」
「なんなのさ……」
五百年前。
一緒に笑った日々。
喧嘩ばかりしていた二人。
優しかった幼馴染。
そして。
戦場で出会った獣族の男。
全部。
終わったはずだった。
「なんで今さら……」
涙が止まらなかった。
⸻
一方。
寮では。
「へぇー」
「街?」
昼食を食べながらアギトが聞き返す。
「うん」
アウラはいつも通り笑っていた。
だが。
どこか無理しているように見える。
「週末行く約束だったでしょ?」
「あ、そうでした」
「忘れてた?」
「少し」
「酷いなぁ」
アウラは頬を膨らませる。
しかし。
アギトは気付いていた。
目元。
少し赤い。
「……泣きました?」
「!」
一瞬だけ。
アウラの笑顔が固まる。
「泣いてないよ」
「でも」
「泣いてない」
「……」
「泣いてないったら」
「分かりました」
追及しない。
それが正しい気がした。
すると。
「アギト君」
「はい?」
「もし」
「もしだよ?」
「?」
「昔の知り合いが急に現れたらどうする?」
不思議な質問だった。
「嬉しいと思います」
「……そっか」
「嫌いな人だったら困りますけど」
「ふふっ」
アウラが少し笑う。
「そうだよね」
「普通そうだよね」
だが。
アウラは言えなかった。
その知り合いが。
五百年前に死んだはずの男で。
そして。
アギトの運命を狂わせる存在だということを。
⸻
その夜。
魔王城最下層。
誰もいない地下深く。
そこに一つの巨大な扉があった。
幾重もの鎖。
無数の封印。
近付くだけで寒気を覚える。
そして。
扉の向こうから。
『……』
何かが笑った。
『面白い』
低く。
不気味な声。
『紫炎』
『風』
『勇者』
『魔王』
『全てが揃いつつある』
闇の中で。
二つの赤い瞳が開く。
『あと少しだ』
『あと少しで』
『我が王が目覚める』
その声は。
人間でも。
魔人でも。
獣族でもない。
悪魔だった。




