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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第1章学園篇前半
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第23話

「この気配は……」


魔王オブスキュリタスの顔から笑みが消える。


「まさか……」


重苦しい空気が、古い資料室を満たした。

その場にいた黒いローブの男もまた、魔王の存在に気付いたようだった。


「おや」


「気付かれてしまったか」


男は振り返る。

フードの奥。

赤く光る瞳。

そして。

不自然なほど白い肌。


「何者だ」


オブスキュリタスの声に威圧が混じる。

だが男は笑った。


「初対面ですね」


「現代の魔王」


「質問に答えよ」


「名乗るほどの者ではありません」


「ただ……」


男は一冊の本を持ち上げる。


「昔話が好きなだけですよ」


「……」


「特に」


「紫炎の魔法使いの物語がね」


その瞬間。

オブスキュリタスの目が細くなった。


「何故、その話を知っている」


「知っている?」


男はくすくすと笑う。


「知っているどころじゃありませんよ」


「私は――」


次の瞬間。

男の姿が掻き消えた。


「!」


「遅い」


声は背後。

オブスキュリタスは即座に振り向く。

黒い影。

だが。


「甘い」


闇魔法。

影から無数の槍が現れ、男を貫く。


ズドン!!


資料室の壁が吹き飛ぶ。

しかし。


「うーん」


煙の中。

男は無傷だった。


「やっぱり強いなぁ」


「歴代最強の魔王は」


「……」


オブスキュリタスは動揺していない。

だが。

胸の内では警戒が最大まで高まっていた。


(傷一つない……?)


(何だコイツは)


「今日は喧嘩しに来たわけじゃないんですよ」


男は笑う。


「ちょっと顔を見に来ただけです」


「何のために」


「決まってるじゃないですか」


男の笑顔が深くなる。


「紫炎の後継者を」


「……!」


「アギト君」


「可愛いですよねぇ」


ゴゴゴッ……


空気が重くなる。

魔王から溢れる殺気。


「貴様」


「その名を口にするな」


男は肩をすくめる。


「怖い怖い」


「でも」


「彼はきっと、素晴らしい絶望を見せてくれますよ」


「何?」


「前の彼よりも」


その言葉。

前の彼。

その瞬間。

オブスキュリタスの瞳に驚愕が走る。


「貴様……」


「まさか」


「知っているのか」


男は笑った。


「知っていますとも」


「全部」


「だって――」


「私は見ていましたから」


ゾクリ。


魔王の背筋に寒気が走る。

その時。


バン!!


資料室の扉が吹き飛んだ。


「魔王様!」


駆け込んできたのはクルデーリスだった。


「侵入者は……!」


「おや」


男は笑う。


「銀髪君も来ましたか」


「貴様」


クルデーリスの周囲に雷が走る。

だが。


「今日は帰ります」


男の身体が黒い霧へと変わり始める。


「待て!」


オブスキュリタスが叫ぶ。

しかし。


「また会いましょう」


「現代の魔王」


「そして――」


「紫炎のアギト君」


「ふふふ」


男は完全に消えた。

静寂。

壊れた資料室。

重い沈黙。


「魔王様」


クルデーリスが声をかける。

しかし。

オブスキュリタスは返事をしなかった。

ただ。

消えた場所を睨み続けている。


「……ありえん」


小さく呟く。


「奴は死んだはずだ」


「?」


クルデーリスが顔を上げる。


「心当たりが?」


「……」


魔王は答えない。

ただ。

数百年前。

血と炎に染まった戦場。

そして。

紫炎に包まれながら笑う、一人の男の姿が脳裏をよぎる。


「まさか……」


「いや」


「ありえん」


その声は。

わずかに震えていた。



一方その頃。

寮。

ぐっすり眠っていたアギトは。

夢を見ていた。

燃え盛る街。

泣き叫ぶ人々。

紫色の炎。

そして。

自分によく似た誰か。


『また会ったな』


その男は優しく笑った。


『俺の後継者』


「……え?」


アギトが目を見開く。

男の顔。

それは。

まるで鏡を見ているかのように。

どこか自分と似ていた――。

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