表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
23/65

第22話

「へぇ……」


「紫炎の子か」


「見つけた」


誰にも聞こえない呟き。

訓練場の屋根の上。

黒いローブを纏った人物は、フードの奥から静かにアギトを見つめていた。

その赤い瞳には、狂気にも似た喜びが宿っている。


「ふふ……」


「やっとだ」


そう呟くと、男は闇の中へ姿を消した。

誰一人として、その存在に気付くことはなかった。


――――――――――


「という訳で、今日は終わり!」


メディクスの声が響く。

暴走した生徒は医務室へ運ばれた。

幸い命に別状はなく、周囲の生徒も軽傷で済んだらしい。

教室では、事件の話で持ちきりになっていた。


「すごかったよな」


「風魔法が暴走するなんて……」


「でもグレイ先生強すぎない?」


「拳骨で止めるとか意味分かんねぇよ」


あちこちでそんな会話が飛び交う。

俺は窓の外を眺めていた。


(暴走しても終わりじゃない……か)


グレイさんの言葉が頭をよぎる。


『安心して壊れろ』


変な言葉だ。

でも。

不思議と嫌な気はしなかった。


「アギト君」


「ん?」


振り向くと、アウラが教室の入り口に立っていた。


「帰ろ」


「あ、はい」


一緒に廊下を歩く。

するとアウラが、ちらりとこちらを見る。


「何かあった?」


「え?」


「顔」


「そんな変ですか?」


「ちょっと考え事してる顔」


さすがに鋭い。


「今日、暴走した人がいたじゃないですか」


「うん」


「怖かったです」


「……うん」


「でも、グレイさんが止めてくれて」


「うん」


「暴走しても終わりじゃないんだなって」


アウラは少し驚いたような顔をした。


「へぇ」


「?」


「グレイがそんなこと言ったんだ」


「はい」


「珍しいなぁ」


そう言って小さく笑う。


「昔のあの人なら絶対言わなかった」


「昔?」


「あ」


アウラは慌てて口を押さえた。


「何でもない」


「?」


「忘れて」


どうも最近のアウラは、時々変なことを言う。

何か隠しているような。

そんな感じ。


「そういえば」


アウラが話題を変える。


「今度の週末、街に行かない?」


「街?」


「うん」


「魔王城の近くにある街」


「普通に人も魔人も住んでるよ」


「へぇ」


「美味しいお菓子屋さんあるし」


「それが目的ですか」


「それが目的」


思わず笑ってしまう。


「じゃあ行きます」


「やった」


アウラが嬉しそうに笑った。

その笑顔を見ていると、自然と気持ちが軽くなる。


(いい人だな)


本当に。

この人には助けられてばかりだ。


――――――――――


その夜。

アギト達が眠りについた頃。

魔王城最下層。

誰も近寄らない古い資料室。

一人の男が立っていた。


「……ふむ」


黒いローブ。

赤い瞳。

昼間、訓練場を見下ろしていた人物。

男は一冊の古びた本を開く。

ページには一人の男の絵。

優しそうな顔立ち。

そして。

その周囲には紫色の炎。


「やはり似ている」


男は不気味に笑った。


「本当に、よく似ている」


パタン。


本を閉じる。

表紙にはこう書かれていた。


『災厄の魔人』


「アギト君」


「君はどこまで辿り着けるかな?」


「それとも――」


赤い瞳が細められる。


「また、同じ結末かな?」


静かな資料室に、男の笑い声だけが響いた。

そして。

その部屋の扉の向こう。

暗闇の中で。

一つの影が静かに目を開く。


「……誰だ?」


低く響く声。

その主は。

魔王オブスキュリタスだった。


「この気配は……」


その表情から笑みが消える。


「まさか……」


初めて。

魔王の顔に緊張が走った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ