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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
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第21話

訓練場の奥から立ち上る黒煙。

悲鳴。

焦げ臭い匂い。

俺とグレイさんは全速力で駆けていた。


「何が起きたんですか!?」


「知らん!」


グレイさんの返事は短い。

だが、その顔からはいつもの気だるさが完全に消えていた。

元第一部隊隊長。

その異名に相応しい鋭い眼差し。

そして。

現場に着いた瞬間、俺は息を呑んだ。


「……え」


地面が抉れている。

焦げた石畳。

倒れている生徒たち。

そして中央には、一人の男子生徒が立っていた。


「う……あ……」


全身を震わせている。

顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

胸元の魔性紋が赤黒く光っている。

周囲には風の刃が無差別に飛び回っていた。


「暴走……」


俺は呟いた。

昨日、メディクス先生が話していた。

負の感情。

暴走閾値。

制御不能。

その全てが目の前にあった。


「近づくな!」


教師らしき男性が叫ぶ。


「まだ人が取り残されているんです!」


「分かってる!」


だが、近づけない。

風の刃が次々と地面を切り裂いていく。


「嫌だ……」


男子生徒は泣いていた。


「嫌だよ……」


「やめてくれ……!」


「止まれよぉ……!」


その声を聞いて。

胸が締め付けられる。


(あれ……)


(俺かもしれなかった)


もし紫色の炎が暴走したら。

もし制御できなくなったら。

きっと。

俺も同じ顔をする。


「グレイさん!」


「分かってる」


グレイさんは前に出る。


「お前は下がってろ」


「でも!」


「いいから」


その瞬間。

風の刃が飛んできた。

しかし。

カンッ!!


「え?」


グレイさんが木刀で弾き飛ばした。


「なっ……」


「ぼーっとすんな」


「こいつぁ暴走してるだけだ」


「敵じゃねぇ」


そう言うと。

グレイさんは迷わず突っ込んだ。


「や、やめろ!」


教師が叫ぶ。


「危険です!」


「危険だから何だ」


風の刃が襲う。

一つ。

二つ。

十。

二十。

だが。

全部。

避ける。

避ける。

避ける。


「すげぇ……」


まるで風が当たる未来を知っているかのようだった。


「うあああああ!!」


暴走した生徒が叫ぶ。

巨大な風の塊。

周囲の空気が唸る。


「死ぬ!」


誰かが叫んだ。

しかし。


「うるせぇ」


ドンッ!!


一瞬だった。

グレイさんの姿が消える。

次の瞬間。

暴走した生徒の懐に入り込み。


ゴッ。


拳骨。


「いてぇっ!」


情けない声が響く。

風が止まった。


「……え?」


暴走していた生徒も。

教師たちも。

俺も。

全員が固まる。


「……止まった?」


男子生徒が呆然とする。

グレイさんはしゃがみ込み。


「落ち着いたか」


「……」


「泣くな」


「……ひっく」


「暴走なんて誰でもする」


その言葉に。

男子生徒は堰を切ったように泣き出した。


「ごめんなさい……!」


「ごめんなさい……!」


「怖かった……!」


「うん」


「止まらなくて……!」


「うん」


「皆を傷つけて……!」


「うん」


グレイさんは怒らなかった。

責めなかった。

ただ。


「よく頑張ったな」


そう言って頭を撫でた。


「!」


男子生徒の涙が溢れる。

その光景を見て。

俺は言葉を失った。


(暴走したら終わりじゃない……)


(止めてくれる人がいる)


(受け入れてくれる人がいる)


「……」


グレイさんが振り向く。


「アギト」


「はい」


「よく見とけ」


赤い瞳が真っ直ぐ俺を見る。


「お前もいつか暴走する」


「!」


「百パーセントだ」


「……」


「魔人だからな」


心臓が跳ねる。


「でもな」


グレイさんは笑った。


「暴走したら終わりじゃない」


「仲間が止める」


「教師が止める」


「俺が止める」


「魔王様が止める」


「だから安心して壊れろ」


「……え?」


「一人で壊れんな」


その言葉が。

胸の奥に深く刺さった。

だが。

誰も気づいていなかった。

遠く。

訓練場の屋根の上。

フードを被った何者かが。

静かに笑っていたことに。


「へぇ……」


「紫炎の子か」


「見つけた」


不気味な声が風に溶ける。

その瞳は。

人間のものとは思えないほど、赤く染まっていた――。

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