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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
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第20話

翌日。

朝日が昇る頃、俺は訓練場へ向かっていた。

昨日のグレイさんとの会話が頭から離れない。


「怖いのは火じゃない」


「自分だろ?」


図星だった。

紫色の炎。

暴走。

監視対象。

そんな言葉が頭をよぎるたび、どうしても恐怖が先に立ってしまう。

だが。


(変わらないとな)


せっかくここまで来たんだ。

逃げるわけにはいかない。

訓練場に着くと、そこにはすでにグレイさんがいた。


珍しく酒瓶はない。


「お」


「おはようございます!」


「早いな」


「グレイさんこそ」


「二日酔いで寝れなかった」


「理由!」


思わずツッコミを入れる。

するとグレイさんは少し笑った。


「今日は本気出す」


「昨日も聞きました」


「今日はホント」


怪しい。

めちゃくちゃ怪しい。


「さて」


グレイさんは木箱を指差した。


「中身出して」


中には木刀が二本。


「剣ですか?」


「いや」


グレイさんは一本を持ち上げる。


「これで殴る」


「え?」


「魔法使いだって近づかれたら終わり」


「だから最低限、自衛は覚えろ」


なるほど。

確かに、遠距離攻撃しかできないなら接近されたら終わりだ。


「じゃ、かかってこい」


「え?」


「え?じゃない」


「俺を殴れ」


「無理ですよ!」


元第一部隊隊長だぞ!?


「大丈夫」


「死なない程度に手加減する」


「死ぬ可能性あるじゃないですか!」


「はよ」


理不尽だった。

仕方なく木刀を構える。


(当たる気しないな……)


意を決して踏み込む。

振る。

しかし。


「遅い」


気づけば。

グレイさんが後ろにいた。


「え?」


「隙だらけ」


コン。


軽く頭を叩かれる。


「いった!」


「もう一回」


その後。


十回。


二十回。


三十回。

全て避けられた。


「はぁ……はぁ……」


息が上がる。

対するグレイさんは欠伸をしていた。


「うーん」


「50点」


「低っ!」


「最初だからそんなもん」


そう言って木刀を地面に立てる。


「じゃあ次」


「まだあるんですか?」


「魔法」


「!」


「火を出せ」


緊張が走る。

昨日よりは落ち着いている。

だが。

紫色になったら。

そう思うと、手が震えた。


「……」


グレイさんは何も言わない。


「どうした」


「いや……」


「怖いです」


「うん」


「また紫になったら」


「うん」


「暴走したら」


「うん」


「皆に迷惑かけたら……」


そこまで言った時だった。


ゴン。


「痛っ!?」


額に何かが当たった。

見ると、小石。

投げたのはグレイさんだった。


「ぐ、グレイさん!?」


「うるさい」


「え?」


「まだ何も起きてない」


赤い瞳がこちらを見る。


「起きてもない未来に怯えて」


「起きてもない失敗にビビって」


「何もしないのが一番ダサい」


「……」


「暴走したら止める」


「え?」


「俺がいる」


「でも」


「魔王様もいる」


「……」


「クルデーリスもいる」


「……」


「アウラもいる」


「……」


「一人で抱えんな」


その言葉に。

胸の奥が少し熱くなった。


「……はい」


小さく頷く。

そして。

右手を前に出した。

意識を集中する。

昨日より少しだけ。

恐怖を押しのけて。


ぽっ。


小さな炎が生まれる。

赤い炎。

安定している。


「よし」


グレイさんが頷く。


「それでいい」


その時だった。


ドゴォォォン!!


訓練場の奥から爆発音が響く。


「!?」


煙が立ち上る。

悲鳴。

そして。


「助けて!」


誰かの叫び声。


「……チッ」


グレイさんの表情が変わった。

気だるげだった目が、一瞬で鋭くなる。


「アギト」


「はい!」


「初実戦だ」


「え?」


「走るぞ」


そう言って駆け出すグレイさん。

俺も慌てて後を追う。

しかし。

この時の俺はまだ知らなかった。

その爆発が。

ただの事故ではないことを。

そして。

その事件が、俺の「紫色の炎」に関わる運命を大きく動かし始めることを──。

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