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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
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第19話

翌朝。

まだ日が昇りきっていない時間。

窓から差し込む薄い光で目が覚めた。


「……眠い」


昨日の魔王様との会話が頭に残っている。

特別授業。

そして、新しい教師。

元魔王軍第一部隊隊長、グレイ。


(どんな人なんだろう)


厳しい人だろうか。

それとも、クルデーリスさんみたいな無口な人だろうか。

そんなことを考えながら支度をしていると、上のベッドからアウラが顔を出した。


「おはよー」


「おはようございます」


「今日は早いね」


「魔王様に呼ばれてた件で、特別授業を受けることになりまして」


「へぇ?」


アウラの目が少し見開かれる。


「誰?」


「グレイさんって人らしいです」


その瞬間。

アウラの表情が固まった。


「……え?」


「元第一部隊隊長の」


「マジ?」


「はい」


「うわぁ……」


何とも言えない顔をするアウラ。


「知ってる人なんですか?」


「知ってるも何も有名人」


「強いんですか?」


「強い」


「めちゃくちゃ?」


「うん、めちゃくちゃ」


「じゃあ良い先生なんですね」


すると、アウラは視線を逸らした。


「……強いのと良い先生かは別かなぁ」


「?」


「まあ、頑張って」


嫌な予感しかしない。


訓練場。

朝の空気は少し冷たく、人影もまばらだった。

その中央に、一人の男が寝転がっている。


「……」


ボサボサの灰色の髪。

黒いコート。

そして。

酒瓶。


(え?)


思わず二度見した。


「あの……」


男は返事をしない。

近づく。


「グレイさん……ですか?」


「んぁ?」


片目だけ開く。

赤い瞳。

どこか気だるそうな目。


「……誰?」


「アギトです」


「アギト?」


男は数秒考え込んだ。


「……ああ」


「魔王様の」


「面倒くさいガキか」


第一印象最悪だった。


「よろしくお願いします」


一応頭を下げる。


「んー」


グレイはゆっくり立ち上がった。

背は高い。

だらしない雰囲気なのに、不思議な威圧感があった。

まるで。

鞘に収まった剣。

何もしなくても、そこにあるだけで危険だと本能が告げてくる。


「とりあえず」


グレイは欠伸をする。


「火ぃ出してみ」


「え?」


「業火魔法だろ?」


「はい」


「見せて」


簡単に言う。


「えっと……」


両手を前に出す。

集中する。


ぽっ。


小さな炎が生まれる。


「……」


グレイは無言。


「どうですか?」


「下手」


「え」


「赤点」


「えぇ……」


「才能はある」


「お?」


「でも下手」


「そんなぁ……」


「てか」


グレイは俺の目を見た。


「怖がりすぎ」


「え?」


「火を出す前からビビってる」


図星だった。


「だって……」


紫色になったら。

暴走したら。

そう思うと。


「はぁ」


グレイは頭を掻いた。


「だからダメなんだよ」


「?」


「お前」


「火を怖がってる」


「はい」


「違う」


「え?」


「怖いのは火じゃない」


赤い瞳が真っ直ぐこちらを見る。


「自分だろ?」


心臓が跳ねた。

何も言えない。


「ま、いいや」


グレイは突然笑う。


「今日は終わり」


「え?」


「早くないですか!?」


「俺、朝弱い」


「そんな理由!?」


「眠いし」


「いやいや!」


「明日から本気出す」


「絶対出さない人の台詞ですよそれ!」


初めて。

グレイが笑った。


「はは」


「面白いな、お前」


その笑顔を見た瞬間。

一瞬だけ。

本当に一瞬だけ。

グレイの目が、ほんの少し寂しそうに見えた。

まるで。

昔、誰かを思い出したように。



その頃。

魔王城最上階。

窓辺に立つオブスキュリタス

その隣にはクルデーリスが控えていた。


「本当にグレイで良かったのですか」


「うむ」


魔王は静かに頷く。


「アイツ以上に適任はおらん」


「しかし……」


「分かっておる」


赤い瞳が細められる。


「だからこそじゃ」


そして誰にも聞こえない声で呟いた。


「頼むぞ、グレイ」


「今度こそ……」


その言葉に込められた意味を。

まだアギトは知らない。

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