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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
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第18話

クルデーリスの後ろを歩きながら、俺は落ち着かない気持ちを抑えられずにいた。

夜の魔王城は昼間とは違う顔を見せる。

窓から差し込む月明かり。

静まり返った長い廊下。

壁に設置された魔道具の灯りだけが、ぼんやりと周囲を照らしていた。


(魔王様が、俺を……?)


嫌なことをした覚えはない。

だが、思い当たることが全くないわけでもなかった。

紫色の炎。

監視対象。

そして、アウラの言っていた「侵食」。

考えれば考えるほど、不安が大きくなっていく。


「……クルデーリスさん」


「何だ」


「俺、何かしましたか?」


前を向いたまま、彼は答える。


「知らん」


「え?」


「魔王様から直接呼び出しだ。それ以上のことは聞いていない」


相変わらず感情の見えない声だった。


「そう……ですか」


「一つだけ言える」


クルデーリスは足を止めないまま続ける。


「魔王様は理由もなく人を呼ばん」


それだけ言うと、再び沈黙した。

やがて、俺たちは見覚えのある巨大な扉の前にたどり着いた。

玉座の間。

初めて魔王と会った場所。

クルデーリスが扉を開く。


「アギトをお連れしました」


「うむ」


低く響く声。

オブスキュリタスさんは玉座に腰掛けていた。


「ご苦労。下がってよい」


「はっ」


クルデーリスは一礼すると部屋を出ていった。

広い玉座の間に、俺と魔王だけが残される。


「近う寄れ」


「は、はい」


緊張しながら前に進む。

魔王はしばらく俺を見つめていた。

その視線には威圧感こそあるものの、不思議と恐ろしさはなかった。


「緊張しておるな」


「そ、それは……」


「無理もない」


オブスキュリタスさんは小さく笑った。


「そう構えるな。説教をするために呼んだわけではない」


少しだけ肩の力が抜ける。


「お主の炎のことは聞いておる」


やはり、その話か。


「すみません……」


「謝るでない」


予想外の言葉だった。


「まだ何も分かっておらん」


魔王はゆっくり立ち上がる。


「分からぬものを恐れるのは当然だ」


そう言うと、窓際へ歩いていった。


月明かりが、その背中を照らす。


「アギト」


「はい」


「お主は、力を恐れておるか?」


突然の質問だった。


「……少し」


「少し、か」


「正直、よく分からないんです」


言葉が自然と出てくる。


「俺、魔法なんて使ったことありませんでしたし」


「家を追い出されて」


「組合に来て」


「学園に入って」


「気づいたら、自分でも分からない炎が出て」


「みんなと違うかもしれないって言われて……」


拳を握る。


「怖いです」


「俺が俺じゃなくなるのが」


玉座の間に沈黙が落ちる。

しばらくして、魔王は静かに頷いた。


「そうか」


短い言葉だった。

だが、その一言には不思議な温かさがあった。


「ならば安心せよ」


「え?」


魔王は振り返る。

その赤い瞳は真っ直ぐ俺を見ていた。


「お主が何者であろうと」


「魔人であろうと」


「怪物であろうと」


「世界の敵になろうと」


「ワシはお主を見捨てぬ」


思わず目を見開く。


「魔王とはそういうものだ」


「居場所のない者に居場所を与える」


「それがワシの役目だからな」


胸の奥が熱くなる。


気づけば、目頭が少し熱くなっていた。


「……ありがとうございます」


魔王は小さく笑った。


「礼を言うのはまだ早い」


「?」


「明日から特別授業を受けてもらう」


「特別授業?」


「うむ」


「担当は──」


そこで、魔王は少しだけ嫌そうな顔をした。


「アイツか……」


珍しく歯切れが悪い。


「癖の強い男だが、実力は確かだ」


「今頃、酒でも飲んでおるじゃろう」


「……まったく」


そう呟いた魔王の表情には、どこか呆れたような色が混じっていた。


「お主の新しい教師になる男の名は──」


「グレイ」


「元・魔王軍第一部隊隊長じゃ」


その頃。

城の地下酒場では。


「んぁ?」


机に突っ伏していたボサボサ頭の男が、欠伸をしながら顔を上げた。


「ガキの面倒ぉ?」


隣にいた店主が苦笑する。


「また魔王様から呼び出しか?」


「めんどくせぇ……」


そう言いながら男は酒瓶を手に取る。

しかし、その赤い瞳だけは。

獲物を見つけた獣のように鋭く光っていた。


「まぁ、暇だったしな」


元・魔王軍第一部隊隊長。

グレイ。

アギトの運命を大きく変える男との出会いが、もうすぐ始まろうとしていた。

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