第17話
その日の夜。
寮の部屋に戻ってきた俺は、ベッドに腰を下ろしたまま動けずにいた。
窓の外には夜空が広がっている。
静かだった。
静かすぎる。
(監視対象……)
メディクス先生の言葉が頭から離れない。
別に怒られたわけじゃない。
責められたわけでもない。
でも。
「普通じゃない」
そう言われたような気がして、胸の奥が重かった。
「……普通じゃないのは、みんな同じだから」
入学式の日に先生が言った言葉を思い出す。
あの時は少し安心した。
だけど。
今の俺は、その「みんな」からも外れてしまったんじゃないだろうか。
そんな考えが浮かんでは消える。
「……はぁ」
小さくため息をついた。
その時だった。
ガチャ。
部屋の扉が開く。
「ただいま~」
聞き慣れた声。
アウラだった。
「おかえり」
「ん」
アウラは軽く返事をすると、ベッドの上に飛び込んだ。
いつもの調子。
それが少しだけ嬉しかった。
「……何?」
「いや」
「顔、暗い」
「そんなことないですよ」
「ある」
即答だった。
「アギト君、分かりやすいから」
そう言ってアウラは上半身を起こす。
「監視対象になったの、気にしてる?」
「……」
図星だった。
「そりゃ、気にしますよ」
「そう?」
「だって俺、危険かもしれないんですよ?」
言葉にすると、余計に苦しくなる。
危険。
異常。
侵食。
紫色の炎。
どれも自分には似合わない言葉だった。
俺はただ。
普通に生きたかっただけなのに。
「……ねぇ」
アウラが珍しく真面目な声を出した。
「アギト君」
「はい」
「ボクは、お前が危険だとは思ってないよ」
「え?」
「危ないかもしれないとは思ってる」
「どっちですか」
「全然違う」
アウラは小さく笑った。
「例えば剣」
「剣?」
「剣は危ないでしょ?」
「まぁ」
「でも剣が悪いわけじゃない」
「使い方次第」
「うん」
アウラは頷いた。
「だから、まだ決めつけなくていい」
その言葉は、不思議と胸に染み込んだ。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
アウラは満足そうに笑う。
そして。
「それに」
「?」
「お前、良いやつだし」
「え?」
「だから大丈夫」
あまりにも根拠のない言葉だった。
でも。
だからこそ。
少しだけ嬉しかった。
その時。
コンコン。
部屋の扉が叩かれる。
「失礼する」
聞き覚えのある低い声。
「クルデーリスさん?」
扉を開けた先にいたのは、組合幹部のクルデーリスだった。
銀髪の青年はいつも通り無表情で言った。
「アギト。魔王様がお呼びだ」
「え?」
「今からだ」
「今から!?」
アウラも少し目を丸くする。
「珍しいね」
「魔王様直々の命令だ」
短くそう言って、クルデーリスは廊下へ向き直る。
「来い」
何かが始まる。
そんな予感がした。
俺は急いで立ち上がった。
しかし、この時の俺はまだ知らない。
魔王オブスキュリタスが俺を呼んだ理由。
そして。
俺の紫色の炎が、ただの異常ではないということを。




