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魔法異端見聞録  作者: トミー
第1章学園篇前半
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第16話

訓練場での事故のあと、アギトは一人で呼び出された。

場所は、魔王城の奥にある小さな部屋。

窓はない。

光は魔道具の灯りだけ。


「座れ」


メディクスの声はいつも通り穏やかだった。

だが、いつもより静かすぎた。

アギトはゆっくり椅子に座る。

手のひらには、まだあの感覚が残っている。


(勝手に、流れた)


(止めたはずなのに)


メディクスは書類を机に置いた。

何枚かの紙。

そのどれもに「魔力異常反応」と書かれている。


「昨日と今日で二回」


「どちらも紫色の反応」


アギトは何も言えない。


「聞くよ」


メディクスが視線を上げる。


「自覚はある?」


「……ないです」


それしか言えなかった。

メディクスは少しだけ沈黙する。

そして、ため息ではなく“考える間”を置いた。


「普通の暴走なら、意識は飛ぶ」


「でも君は違う」


アギトの背中に冷たいものが走る。


「意識があるまま、魔力だけが歪む」


「これは記録にない」


(記録にない)


その言葉が重い。

その時、扉が軽く叩かれた。


コン、コン


「入るよ」


返事を待たずに入ってきたのはアウラだった。

メディクスは特に驚かない。

最初から呼んでいたような顔だ。

アウラはアギトを見る。

そして、机の書類を一瞬だけ見て、すぐに視線を戻した。


「やっぱり」


短い言葉。

アギトは眉をひそめる。


「何が」


アウラは椅子にも座らず、そのまま立ったまま話す。


「お前のそれ、“暴走”じゃない」


空気が止まる。

メディクスが口を挟む。


「では何だと?」


アウラは少しだけ言葉を選ぶ。

そして――


「侵食」


その単語だけが落ちる。


アギトの胸が一瞬だけ痛んだ。


「侵食って……何だよ」


声が少し震える。

アウラは初めて少しだけ真剣な目をする。


「お前の魔力、“中から書き換えられてる”」


メディクスの表情がわずかに変わる。


「それは仮説か?」


「御伽噺レベルの話」


アウラは即答した。


「紫の炎の魔法使い」


アギトの呼吸が止まる。


(紫の炎)


アウラは続ける。


「普通の魔人は、魔力を“使う”」


「でもあいつは違った」


「魔力そのものを“変質させる”」


アギトは気づかないうちに拳を握っていた。


「それが進むとどうなる」


メディクスの声。

アウラは一瞬だけ沈黙する。


「人格が“魔法に飲まれる”」


部屋が静まり返る。

アギトだけが、その言葉の意味を理解できないまま立ち尽くしていた。


「俺は……どうなる」


ようやく出た言葉。

アウラはすぐには答えない。

そして、少しだけ視線を逸らして言った。


「まだ戻れる段階」


その言葉は、救いにも聞こえたし、宣告にも聞こえた。

メディクスが立ち上がる。


「結論は保留だ」


「監視対象として扱う」


アギトは息を飲む。


「監視……?」


アウラはその言葉に何も反応しない。



その日の夜。


アギトは寮の部屋に戻る。

アウラはいない。

静かすぎる部屋。

手を開く。

何もない。


(侵食)


その言葉だけが残っている。

そして一瞬

指先に紫が“滲んだ”。

すぐに消える。

アギトはまだ気づいていない。

だが、確実に進んでいる。

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