第15話
その日は、朝から空気が重かった。
誰も言葉にはしない。
けれど、昨日の“違和感”は教室に残っていた。
アギトは席に座ったまま、手を握ったり開いたりしていた。
(何も起きてない)
(今日は普通だ)
そう言い聞かせる。
「今日は屋外実習だ」
メディクスの声が響く。
生徒たちは訓練場へ移動する。
外は広い。
焦げた地面。
魔力の痕跡。
ここでは“壊すこと”が前提になっている。
アギトはその中心に立たされた。
「今回は単独制御訓練」
「自分の魔力を“形にする”」
メディクスの説明は短い。
周囲がざわつく。
(形にする……)
アギトはゆっくり息を吐いた。
昨日までと同じ。
慎重に。
手を前に出す。
魔力を流す。
最初は順調だった。
小さな光が手の上に浮かぶ。
「できてる……」
誰かの声。
その瞬間だった。
胸の奥で、何かが“ズレた”。
(……え?)
手の中の光が、一瞬だけ歪む。
色が変わる。
紫に近い、濁った光。
「っ……!」
アギトはすぐに止めようとした。
だが、止まらない。
魔力が“勝手に増幅”していく。
昨日より強く。
昨日より速く。
「やめろ……!」
自分の声が出る。
その瞬間。
ドンッ。
爆発。
訓練場の一角が吹き飛んだ。
土煙。
衝撃。
周囲が一瞬で静止する。
「……何が起きた?」
「今の、単独訓練だよな?」
ざわめきが広がる。
アギトは地面に膝をついていた。
呼吸が荒い。
手が震えている。
(違う)
(こんなの、俺じゃない)
メディクスが一歩前に出る。
「全員、下がって」
短い指示。
空気が変わる。
そのときだった。
「……見た」
誰かが言った。
「紫だった」
一瞬で静まり返る。
メディクスの視線が鋭くなる。
アギトを見る。
「動かないで」
低い声。
アギトは固まるしかなかった。
(まずい)
(何が起きてるんだ)
その時。
上層から風が流れた。
アウラが立っていた。
訓練場の端。
誰にも気づかれずに。
目が細い。
いつもの軽さがない。
「……遅い」
小さく呟く。
そのまま、跳ぶように降りてくる。
メディクスの横に着地。
「これは危ない」
アウラの声。
静かだが、強い。
「もう“漏れ”じゃない」
「反応が“出てる”」
アギトはその言葉を聞いてしまう。
(出てる?)
メディクスは一瞬だけ黙る。
そして言う。
「判断が早すぎる」
アウラは視線を外さない。
「いや、遅いくらい」
その空気の中で、
アギトだけが取り残されていた。
「アギト」
アウラが呼ぶ。
初めて、ちゃんとした声。
「お前、今“抑えてる”んじゃない」
「抑えられてない」
その言葉が刺さる。
アギトは口を開く。
「……俺は、何もしてない」
⸻
アウラは一瞬だけ黙る。
そして、少しだけ目を細める。
「それが一番まずい」
風が止まる。
訓練場の空気が、完全に変わった。




