第14話
翌日。
空気はいつも通りだった。
少なくとも、見た目だけは。
アギトは教室に入ると、静かに席に座った。
昨日の違和感は、まだ残っている。
(気のせいだと思いたい)
そう思う回数だけ、逆に意識してしまう。
「じゃあ今日は実習に入るよ」
メディクスの声が響く。
教室に軽い緊張が走る。
「二人一組で、魔力の流し合いをしてもらう」
ざわつき。
アギトは無意識に視線を動かした。
(ペア……)
くじ引きの結果、アギトの相手は無口な男子生徒だった。
目が鋭く、必要以上に喋らないタイプ。
「よろしく」
短い一言。
「……うん」
それだけで開始された。
「まずは軽く魔力を流して」
メディクスの指示。
二人は向かい合い、手を合わせる。
冷たい感触。
アギトはゆっくりと魔力を流し込んだ。
(弱く、弱く)
昨日と同じように慎重に。
最初は問題なかった。
相手の魔力も安定している。
だが。
数秒後。
アギトの胸の奥で、何かが“引っかかった”。
(……ん?)
一瞬の違和感。
その瞬間だった。
指先が、勝手に熱を持つ。
「……っ」
アギトは反射的に力を抜こうとした。
だが遅い。
魔力の流れが、一瞬だけ“反転”する。
空気が揺れた。
バチッ
小さな火花。
それだけのはずだった。
「……え?」
相手の男子が目を見開く。
手を引こうとした、その瞬間。
もう一度。
バチッ。
今度は、紫がかった光が一瞬だけ走った。
教室の空気が止まる。
メディクスの視線が一気に鋭くなる。
「今の、止めて」
静かな声
アギトは焦った。
(違う、今のは……)
説明できない。
ただ、勝手に何かが流れた。
「もう一回、ゆっくり」
メディクスの指示。
アギトは呼吸を整える。
(落ち着け)
もう一度手を合わせる。
今度は慎重に。
……何も起きない。
安定している。
相手の魔力も問題ない。
(よし……)
そう思った瞬間だった。
相手の方が、ほんのわずかに顔をしかめる。
「……今、熱かった?」
「え?」
「いや……一瞬だけ、刺さるみたいな」
周囲がざわつく。
⸻
メディクスは何も言わない。
ただ、アギトを見ている。
「今日はここまで」
静かに授業は終わった。
教室がざわつく中、アギトは動けなかった。
(今の、何だよ……)
自分の手を見る。
普通だ。
何もない。
でも、確かに“起きた”。
⸻
その様子を、後ろから一人の生徒が見ていた。
「今の……見た?」
小さな声。
「魔力、逆流してた」
別の声。
「紫じゃなかったか?」
⸻
言葉が少しずつ広がる。
アギトはそれを聞いてしまう。
胸の奥が冷える。
その廊下の奥。
アウラはそれを見ていた。
目を細める。
「……やっぱり、漏れてる」
静かな声。
⸻
その夜。
メディクスは一人、記録を更新していた。
「微弱反転反応、二度目」
ペンが止まる。
少しだけ考える。
「制御じゃないな……」
アギトは部屋で一人だった。
ベッドに座る。
手を握る。
開く。
何もない。
⸻
(俺じゃない)
(俺のせいじゃない)
そう思いたいのに。
指先に、ほんの一瞬だけ。
紫が揺れた
すぐに消える。
アギトは気づかない。
だが、“何かが確実にズレ始めている”。




