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魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第1章学園篇前半
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第13話

翌朝。

アギトはいつもより早く目が覚めていた。

眠りが浅かったせいで、頭の奥に鈍い疲れが残っている。


(……あんま寝た気がしない)


天井を見たまま、しばらく動けなかった。

昨日のアウラの言葉が、まだ引っかかっている。


「無理に抑えようとすると、壊れる」


(壊れるって、何がだよ)


考えようとしても、答えは出ない。

ただ胸の奥だけが、妙にざわついていた。


支度をして廊下に出ると、城の空気はいつも通りだった。

訓練に向かう生徒たち。

武器を持つ音。

遠くで魔法が弾ける音。

全部が日常のはずなのに、どこか遠い。

アギトはその中を歩き出す。



「おはよ」


背後から声。

振り向くとアウラが立っていた。

昨日と変わらない軽い表情。


「……おはよう」


「顔、ちょっとやばいよ」


「そう?」


「寝てないでしょ」


アギトは少しだけ目を逸らす。


「まあ、ちょっと」


アウラはそれ以上追及しなかった。

代わりに軽く歩き出す。


「じゃ、朝の訓練見に行こっか」


訓練場はすでに人で埋まっていた。

魔法が飛び交う音。

地面が焦げる匂い。

炎、氷、風。

それぞれがぶつかり合っている。


アギトはその光景を見て、無意識に息を呑んだ。


(……すごい)


単純な感想だった。

でも同時に、


(自分はここに入れるのか)


という感覚もあった。

______


「昨日さ」


アウラがぽつりと言う。


「授業のあと、何か変な感じなかった?」


「変な感じ?」


「うん。空気とか」


アギトは少し考える。


「……よく分かんない」


「そっか」


アウラは軽く笑った。

でもその笑いは、どこか確認するみたいだった。

その時だった。

訓練場の奥で、爆発音がした。

ドンッ。

一瞬、視線が集まる。


「おい、制御ミスか?」


誰かの声。

煙が上がる。

その中心にいた生徒が、膝をついていた。

腕が震えている。

魔力がまだ収まっていない。


「……っ、くそ……!」


メディクスがすぐに駆け寄る。

手をかざすと、光が広がり、暴走しかけていた魔力が鎮まっていく。


「大丈夫。落ち着いて」


静かな声。

その一言で、場の空気が戻る。

アギトはそれを見ていた。


(暴走)


昨日の授業の言葉が浮かぶ。

“負の感情が一定を超えると暴走する”


(これが普通なんだ)


そう思った瞬間。

胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなった気がした。

気のせいだと思った。


でも——


確かに“何か”が一瞬だけ揺れた。


「今の、感じた?」


アウラの声。


「……何を?」


「いや、なんでもない」


アウラは視線を逸らす。

その目が、訓練場の奥を一瞬だけ見ていた。



その日の昼。

アギトは一人で中庭に出ていた。

理由はない。

ただ少しだけ、外の空気が欲しかった。

ベンチに座る。

風が草を揺らす。

静かだ。

ふと、手を見る。

何も変わっていない。


それでも——


昨日よりも、少しだけ“違う気がする”。

説明できない違和感。

でも確かにある。


「……気のせいだよな」


そう呟いた瞬間。

指先に、小さな光が走った。

ほんの一瞬。

紫ではない。

けれど、普通でもない色。

すぐに消える。

アギトは固まった。


(……今の、何だ)


もう一度手を見る。

何もない。

ただ静かに、そこにあるだけ。

その少し離れた場所。

建物の影から、アウラがその光景を見ていた。

表情は変わらない。

ただ、目だけが細くなる。


「……始まってる」


誰にも聞こえない声だった。


その夜。


学園の上層。

メディクスは報告書に目を落とす。


「二件目か」


机の上の水晶が、微かに反応する。


紫。


ほんの一瞬だけ。

すぐに消える。


「抑えが……まだ弱いな」


静かに呟く。

アギトはベッドの上で天井を見ていた。

今日のことが頭から離れない。

爆発。

暴走。

紫ではない光。

そして——


指先の違和感。


(俺、何かおかしいのか?)


問いは浮かぶ。

でも答えはない。

ただ一つだけ分かるのは、


“昨日までと同じ自分ではない気がする”


それだけだった。

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