↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法異端見聞録  作者: 叢雲 朔
第1章学園篇前半

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/86

第12話

授業が終わった後の教室は、まだ少しざわついていた。

机を片付ける音、椅子を引く音、誰かの笑い声。

いつも通りの光景のはずなのに、アギトにはどこか遠く感じられた。


(……さっきの、紫)


水晶に灯った一瞬の色が、頭から離れない。


ただの失敗なのか。


それとも何か別の意味があるのか。


分からない。


分からないまま、胸の奥だけが落ち着かなかった。


「アギト」


名前を呼ばれて顔を上げる。


アウラだった。


階段の上からこちらを見下ろしている。

いつも通り軽い表情のはずなのに、どこか違って見えた。


「帰るの遅いじゃん」


「ちょっと……考え事してて」


「ふーん」


アウラはそれ以上聞かなかった。

代わりに、軽く手招きする。


「来なよ。外、ちょっと見せたいとこある」


「外?」


「うん」


断る理由もなかった。

アギトは鞄を持って席を立つ。


⸻


廊下は静かだった。

さっきまでの喧騒が嘘みたいに消えている。

窓から差し込む光だけが、床に細い線を描いていた。

歩きながら、アウラがぽつりと言う。


「さっきの授業さ」


「……うん」


「ちょっとだけ、変だったよね」


足が一瞬止まりかける。

アギトは何も言えなかった。

アウラは前を向いたまま続ける。


「普通はさ、あそこまで色変わらない」


「……そうなの?」


「うん。魔力が不安定でも、あんな“色”にはならない」


軽い口調なのに、言葉だけが重い。


(やっぱり、何かあるのか)


アギトは無意識に拳を握る。


⸻


外に出ると、空気が少し冷たかった。

魔王城の外縁部。訓練場のさらに奥。

誰もいない小さな中庭のような場所だった。


「ここ、あんまり来ない方がいいんだけどね」


アウラはそう言いながら、石の壁に背を預けた。


「でも、静かだから好きなんだ」


アギトも少し距離を取って立つ。


風が吹く。


草が揺れる音だけが聞こえた。

しばらく沈黙が続いたあと、アウラが口を開いた。


「アギトさ」


「……うん」


「前のこと、覚えてる?」


「前?」


「転生とか、その前」


その言葉に、胸が一瞬だけ冷たくなる。

アギトは視線を逸らした。


「……あんまり、はっきりとは」


「そっか」


アウラはそれ以上踏み込まなかった。

代わりに、小さく笑う。


「でもさ」


「?」


「“そういうの”って、たまに漏れるんだよね」


風が止まった気がした。

アギトはアウラを見る。

アウラは空を見ていた。


「魔力ってさ、嘘つけない時あるから」


「……どういう意味?」


「まだ分かんなくていいよ」


軽く言って、アウラは立ち上がる。


「でも一個だけ」


振り返る。


その目だけは、さっきまでと違っていた。


「無理に抑えようとすると、壊れる」


「……何を?」


アウラはすぐには答えなかった。

少し間を置いてから、いつもの調子に戻る。


「全部」


そして笑う。


「ま、今は気にしなくていいってこと」


⸻


帰り道。


アギトはずっと黙っていた。


(全部、ってなんだよ)


手を見る。


何も変わっていない。

でも、確かに何かが“ある”気がする。

言葉にできない違和感。

胸の奥の、ほんの小さな熱。


⸻


その夜。

学園の外れ。

メディクスは一人、報告書に目を落としていた。


「紫の反応……か」


机の上の水晶球が、微かに揺れる。

ほんの一瞬。

紫の残滓のような光が走る。

メディクスはそれを見ても、表情を変えなかった。


「まだ早いな」


小さく呟く。


⸻


同じ頃。


アウラは自室の窓から外を見ていた。

月が出ている。

その光の下で、指先にほんの少しだけ魔力を灯す。

紫ではない。

けれど、どこか近い色。


「……やっぱり、そういうことか」


誰にも聞こえない声だった。


⸻


アギトはベッドの上で天井を見ていた。

眠れない。

ただ、それだけだった。


(何かが、近づいてる気がする)


理由は分からない。

でも確かに、何かが少しずつ形になり始めていた。


⸻


その日。


学園の夜は、いつもより静かだった。

しかし、その静けさは――


どこか“作られたもの”のようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。