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第10話 アーマージャイアント祭り その1


──プロローグ──




 南北戦争の英雄、『アーマージャイアント』は本当に実在したのか。



 これはたびたび議論に上がる話題である。



 実際に目撃した兵士の証言をまとめた本が出たり、それを否定する証言を集めた本が出たりと、その伝説はいまだはっきりとした形も結論も出ないまま議論に議論が重ねられている。


 実在する理由としては、実際に見た兵士、救われた市民がいるというものであり。


 実在しないと言う理由は、証言は全て北軍による戦意高揚のプロパガンダにすぎず、捏造であるというものである。

 本当に巨人がいたというならば、戦場とパレード以外に目撃情報がなければおかしい。というのが根拠だ。


 幾度かパレードに現れたというのは巨人を模したハリボテでしかなく、それこそが敗北が近づいていた北軍を盛り返すために幻の英雄を生み出すという策であったとさえ声高に主張されているほどの理論である。


 さらに、その功績の真実は『クレイジーコマンダー』の作戦であり、この無敗の司令官の人気が溢れることを恐れた軍部によって偽りの英雄がもう一人生み出されたという説まで存在する。

 この場合はじまりのマシンソルジャーと言われる『マシンビースト』も存在せず、伝説の小隊そのものが『クレイジーコマンダー』の功績を矮小化するための陰謀だとまで言われていたりするのだ。



 存在を信じたい者。存在を否定したい者がこうして激論を重ねるのも、それだけ『アーマージャイアント』という名がこの新大陸にとどろいているという意味であり、陰謀となんの関係もない者からすれば、彼はやっぱり憧れる英雄なのだ。


 むしろ幻の英雄だからこそ、人々の想像は掻き立てられ、戦争が終わった今もなお語られてゆく。



 例えば、自分は『アーマージャイアント』であると主張する者が現れる。

 その正体も姿も知る者は誰もいないのだから、それっぽい格好をしてそう名乗るものは西部のみならず東部にさえ出没している。有象無象がこの名を名乗るのは、やはりそこに英雄がいたと誰もが思っているからだろう。


 例えば、かつて『アーマージャイアント』が現れ、山賊から人々を救った村。それは、月日を立つにつれなぜか増えている。

 それは北軍が行軍していない場所にも『アーマージャイアント』が現れ、村人を救ったという事実がどこかにあったからだ。



 このように、幻の英雄は戦争が終わったあともまだその名を広げている。


 新大陸のいたるところに自称『アーマージャイアント』が名乗りを上げ、新大陸の様々な場所で『アーマージャイアント』ゆかりの場所が産声を上げている。



 例えば、ここ。


 ジャイアントシティでは、こここそが『アーマージャイアント』生誕の地であると主張している。


 彼はここで生まれ、ここから戦場に旅立ったと。

 そう主張する街だ。



 多くの者は、ああまた出たかと思うだけだろう。

 しかし、もしかしてと思うものも少なからず存在する。



 そしてここそが、今回の物語の舞台でもある……




──ジャイアントシティ──




 ジャイアントシティ。

 かつては巨人がいたという伝説があり、かつては『遺人』や巨人の遺産があると信じた大勢の開拓者によって賑わった街だ。

 その賑わいも今は昔。すでに人口もその時の十分の一以下と化した五百人にも満たない小さな街に変貌している。


 遺跡や遺産が発見され人が群がった結果、すでに枯れてしまったからではない。むしろ、見つからないからこそだ。

 どれだけ掘ろうと探そうと、その伝説を裏付ける何者かの遺産とやらは誰一人として発見することはできなかった。


 結果の伴わぬ噂に、一攫千金を夢見た者達は一人、また一人とこの地を去っていった。



 残ったのは、消えぬ伝説のみ。



 賑わいを失ったこの街をあえて訪れるとすれば、そのすでに忘れられた伝説の遺跡を探しにくるというロマンを求めた冒険者か、なんの目的もないただの旅人。そして、ある伝説の崇拝者達だけであった。


 その寂れた街に足を踏み入れた三人の旅人がいる。



「どうやら祭りがあるみたいだな」



 街に入り、すぐ手渡されたチラシを見ながら、金髪のガンマンがそう言った。

 身長百八十センチ近いこの地においては平均的な身長を持つ均整のとれた体躯を持つ二十歳前の青年だった。

 カウボーイハットをかぶり、腰には二丁拳銃と首には埃避けの赤いマフラーを巻いている。


 名を、ジャック・サンダーボルトという。


「おお、いいね。お祭り」

「ほう。祭りか。どんな祭りじゃ?」

 ジャックと共に歩く二人の少年少女が声を上げた。

 この二人は、彼と共に旅をする旅仲間である。



「アーマージャイアント祭りだとよ」



「ぶーっ!」

 ジャックが読み上げたチラシのタイトルに、一緒に歩いていた少女の方が噴き出した。


 少女。というが、彼女の耳は尖ったように長い。これはエルフと呼ばれる種族の特徴で、その種族は長命で成長が遅い種族であった。

 ゆえに、十二、三歳くらいの外見をしていてもその実百二十年ほどの年月を生きている。

 それ以外の外見的特長は人間と同じで、百四十に満たない身長も長い金色の髪も碧い目も、人間と変わらない。


 そんな少女。名をリゥ・リシアと言うが、彼女がありえんというように噴き出したのである。


「な、なんじゃそれは!?」



「チラシによると、この地はあの伝説の英雄『アーマージャイアント』生誕の地なんだとさ。それにちなんで生誕祭をやるんだってよ」



「なんじゃそれ……」

 ありえん。というようにリゥは呆れた。


 それはまるで、『アーマージャイアント』がこの地で生まれたことなどありえないと言っているかのようだ。



「で、お前ここ生まれなのか?」



 呆れるリゥを尻目に、ジャックは最後の仲間である少年に視線を向けた。

 手に持ったチラシをひらひらと揺らす。



「そうそう。なにを隠そう、ここはおいらの故郷なのさ!」

 隣にいた少年がばれたか。と照れくさそうに親指で鼻をこすった。


「いや、嘘つくでない」


 少年の側頭部に、リゥの手のひらに生まれた小さな火球がこいん。とあたった。

 リゥはエルフである。エルフには人にない力が使える。まるで魔法のように火を操り、風を操る。その秘術をもちいてビー玉ほどの火の球をアズマにぶつけツッコミを入れたのである。


 さらに、リゥは人の目を見ればその人が嘘をついているかわかる秘術も使える。

 今回はその少年と目をあわせていないが、それは嘘だとわかった。


 彼はこういう冗談みたいなことをノリにあわせて乗っかるテキトーな男であることをリゥは知っているからだ。



 いや、それ以前に、この少年の故郷がここであるはずがないのだ。



 なぜならこの少年は、サムライだから。



 サムライとはこの新大陸から遥か当方に存在する小さな島国にのみ存在する戦士の称号の名である。

 その地に生まれ、限られた者にしか送られないモノノフの証である刀という武器を持ち、袴と呼ばれる特異な長ズボンやボタンを使わない上着などで身を固めた彼がここで生まれたはずがないのである。


 そもそも彼は黒髪に黒目。この地に住まう多くの人達と肌の質も違う誰が見ても異邦人であることがわかるのだ。それが明らかな嘘であるのは明白であった。



 ならばなぜ、ジャックがこの地に生まれていない少年へこの国で英雄と呼ばれた存在の生まれを問うのか。




 それは、この少年こそがその英雄『アーマージャイアント』であるからだ。




 こう言って、信じられる者は誰一人としていないだろう。

 身長も百六十ほどしかなく、年齢も十五、六歳。この地においてみるとその外見はさらに若く見え、十二、三くらいの小僧にしか見えない。

 それがこの地において伝説と呼ばれる英雄であると誰が想像しよう?


 しかし、彼は誰もを納得させる証拠を持っている。

 それは、『機鎧』と呼ばれるカラクリ仕掛けの鎧だ。全高十メートルはある巨大な鎧。その巨人と見まごう鎧の姿。それこそが誰もが知る英雄『アーマージャイアント』の姿だ。


 それを出せば、誰もが彼が『アーマージャイアント』であると納得できるだろう。


 その鎧は古代の技術におって自由自在に出し入れが可能であり、ゆえに戦場に現れたかと思えば幻のように姿を消すなどというのも朝飯前なのだ。

 それが、実在したのかさえも疑われる伝説の正体である。



 その伝説の巨人を動かしていたのがまさかこのような子供であるとは誰も思わず、彼と英雄をイコールで結ぶ者は誰一人としていない。というわけだ。



 その正体を知る者以外は……



「ま、お前がここ生まれじゃないのは当然だよな」

「テキトーなことをいいおって」


 いてて。と笑う少年──名をアズマというが──を見ながら、ジャックとリゥは苦笑した。



 ゆえに、『アーマージャイアント』生誕の地がここではなく、この少年にそれを問うこの二人は、その正体を知っている。ということになる。



「しかし、なぜアーマージャイアント祭り?」

 ありえない生誕の地にリゥは首をひねる。


「どうやら、ここには昔から巨人伝説ってのがあったみたいだ。その伝説の巨人こそ『アーマージャイアント』だった! ってチラシに書いてある」


「なんじゃそれ……」


 チラシをさらに読み上げたジャックの説明に、リゥがさらに呆れたような声を上げた。



「まぁ、『アーマージャイアント』自体正体も実在したのかも不明だからな。だから自称生誕の地や自称その武器を作った街とか自称その鎧を洗った池とか色々あるみたいだぞ」


「……鎧を洗った池って、なんじゃそれ」


「他にも『アーマージャイアント』が掘り当てた温泉とか知ってるぞ」

 どうよ。とジャックが少し自慢げに語った。


「もう英雄関係ないじゃないか」



「あ、でも温泉掘り当てたのはホントだよ。そこかどうかはわからないけど」



「本物があったぞ。おい」

「しかもピンポイントでそれとかお前は……」


 ジャックもリゥも、どこかげんなりとした表情を浮かべた。



「……ああ、そうか。本物も偽物に飲みこまれる。じゃから本物が本当に現れてもさほど話題にならんのじゃな」


 リゥがなにか納得したようにうなずいた。


 実際に機鎧が姿を現し、本物の『アーマージャイアント』がその街を救ったとしても、他にも自称街に現れたと喧伝するところがあれば、それに本物出現の話も埋もれて話題に上がらない。


 偽物の『アーマージャイアント』も数多く名乗りを上げている昨今、本物を知らない彼等に本物を本当の意味で見分けられる方法が存在しないと理解した。

 何度か本物の片鱗を見せたアズマの機鎧も、これに埋もれ誰にも気づかれることなくただの噂話として世に流れているのだろう。



「まあ、正体も不明。実在しているかも不明なんだ。それでいて実際に国を救ったなんてまことしやかに語られていれば、そりゃ好き勝手に自称を言い出すだろ。むしろここは巨人伝説なんて下地があるだけマシだと思うぜ」


「……確かにそうかもしれんな」


 どれだけ自称を繰り返しても、否定できる者は誰もいない。

 だって誰もその英雄の真実を知らないのだから。


 いわば言ったもの勝ちの状態なのだから、乗るしかないだろう。このビックウェーブ。



「まあ、お祭りの由来はどうでもいいさ。むしろ大切なのはどんな面白い祭りか! じゃっくん中身はなんなの!?」


「いや、お前がどうでもいいってどうなんだそれ?」

「こいつは名をかたられてもよほどのことがない限り気にせん男じゃ。言うだけ無駄だと思うぞ」


「そうか……」


「えへへー」


「誰もほめてねぇよ」


「てへへー」


「じゃからなぜ照れる」



「ともかく、お祭りお祭り。中身中身」



「ったくよ」

 アズマに促され、ジャックは再びチラシに視線を戻した。



「ええと、このアーマージャイアント祭りは……」



 ジャイアントシティ主催アーマージャイアント祭り。


 それは『アーマージャイアント』を模した巨大な人形を作り、その頭に大会印のカードを貼り付け、その二台をぶつけあわせ、はりつけたカードがとれた方が負けという勝負を延々続け、最後の一体となるまでやり続ける祭りなのだという。

 我々にわかりやすい例えをあげれば、神輿同士をぶつけあわせる喧嘩祭りで神輿が壊れるのをいとわない祭りだと考えればわかりやすいだろうか。


 最後に残ったその一台こそが今年のアーマージャイアントの称号を得ることとなり、一年街の中央に飾られ崇め奉られるのだそうだ。

 ちなみに持って帰るぶんにはいっこうにかまわない。もともとの由来は前身の巨人祭りで優勝者が広場に巨人を放置して帰ったのを利用しただけだからだ。



「……だとさ」

 読み上げたジャックがどこか呆れた。


 確かに戦争の英雄だから強さを競うというのはわからないでもないが、人形をぶつけ合わせるとはまた予想外の祭りだったからだ。



「ああ、じゃからそこかしこに『アーマージャイアント』を模したよくわからんハリボテが並んでいるわけじゃな」



 リゥが納得。というようにあたりを見回した。

 ジャイアントシティに入って大通りを歩いているが、すでに二、三体の謎の巨大なオブジェを目にしている。どれも鎧を着た案山子のようなものや、人型の布にわらをつめこんだようなもの、板に巨大ななにかが描かれているようなものだったりするが、それらが全て『アーマージャイアント』をイメージしているとすれば理解も出来る。



「面白いお祭り考えるもんだねぇ」

「じゃなぁ……」

 アズマがどこか感心し、リゥもそれだけはうなずいた。



「えーっと、賞金は……ちっ。もらえるのは称号だけか。せめて賞品くれよ」

 金のないジャック最大の関心事はそこだった。

 財布を落としたり忘れたりして金欠な彼にとってこれはある意味で最も重要なことなのだ。


 だが、この祭りで得られるのは今年のアーマージャイアントという称号だけ。

 祭りで言えば一番早く駆け抜けてその年の年男と言われるだけに等しい。


 これにより、この祭りは『アーマージャイアント』の知名度を生かしただけのものであり、これで人が集まればいいな。程度のことなのだろう。


 もっとも、街の者はけっこう乗り気でオレアーマージャイアントをトンテンカンとかなづちの音を鳴らせて作っている。

 これはまさに、祭りなのだ。



「なんじゃ。賞金が出れば出る気じゃったのか? どうやって?」



 チラシによると、祭りの開催はもう明日。そして出場資格は、伝説の通り頭上高くそびえるほどのサイズのオレアーマージャイアントを持ってくること。


 それを今日きたばかりの旅人が用意できるはずもない。

 この即効性の効かなさも、この街が祭りで賞金などの人集めに使わない理由だろうか。


「いやいや」

 ちっちっち。とリゥの疑問にジャックは我秘策アリ。というような感じで指を振った。



「俺とアズマならそもそも準備終わってるレベルだろ?」


 にやりと笑いながら、ジャックは黒い棒を取り出した。



「いやそれ反則じゃろ……」



 ジャックが取り出したその黒い棒は、アズマも持つ機鎧と呼ばれる巨大鎧を呼び出すための装置だった。

 ある事情から、ジャックもその鎧を持っているのだ。


 それは人間をまさに巨人のサイズへと巨大化させるのと同意の巨大な鎧であり、ハリボテやわらを集めただけの腕も動かぬオレアーマージャイアントでは到底太刀打ちできない代物だった。


 なにせそれは、自身を巨人と化すようなものなのだから。


 巨人に見立てた人形をぶつかりあわせ印を落とすというシンプルなやり方の中、自由に腕を動かしそのカードを叩き落せる本物の巨人となれるのだから、負けるわけがない。



 それを考え、リゥは反則と言ったのだ。



 だが、応募要項は一定のサイズ以上の巨人を模したモノとある。だから、機鎧が出てはいけないということはない。

 出る気になればしっかり出れるのである。


「まあ、でねーけどな」


 賞金も出ないというのにそんな祭り出る気はない。とジャックは肩をすくめた。


 賭けをするにしても、ジャックの機鎧を見ればそれが優勝するのは目に見えている。

 賭けにならないというのも目に見えていた。


 ならば、参加もせず純粋に祭りを楽しんだほうがいい。



「いやでも、あれとか出ると意外に負けるかもよ?」


「いや、そりゃいくらなんでもねーだろ」

「ああ。戦車でも持ってきているヤツがいたのか?」


 アズマが通りに見つけたオレアーマージャイアントに気づき、指差した。


 人と同じ動きが出来る鎧に対抗できるモノなんてあるわけがない。と思いながらジャックはそちらを振り向く。

 リゥもそれは同じ気持ちだ。


 軍の最新兵器戦車があればあるいは。と思うが、それでもこの祭りのルールは頭にはりつけたカードを落とすということ。それならばむしろ背の高いオレアーマージャイアントの方が有利である。

 戦車は高さそのものはそれほどないので、それで機鎧に勝てるとは到底思わなかった。


 だが、それを見てリゥは声を出せないほど驚くこととなる。



 そこには、無骨な曲面とゴツゴツした直線を持ち、人を何倍にも大きくした小山のように大きい鉄の巨人がいた。

 筒と球を組み合わせて作られた手足と体。頭には帽子のような屋根がついており、その下には目と思われる小さな穴が見え、関節にはいくつもの機械が露出している。

 体長十メートルはある巨大な人型が、街から少し外れた一軒家の前に座っているのが見えた。


 リゥはそれに、見覚えがあった。



 それはかつて、リゥがすごした街であるルルークシティ。その地下にあり、彼女が尊敬するクローディアという女性の相棒である鋼の巨人にそっくりだったからだ。

 その相棒とは、彼女の住まう教会の地下に存在し、クローディアが唯一起動させ、動かすことのできた『遺人』と呼ばれるすでにこの世界に存在しない人に似て人とは異なる種族の遺産でもある。



「なっ!?」


 それとそっくりなものが、目の前にあらわれたのだ。


 声も出せぬほど驚いても無理もないというものだろう。



「? どうした、なんかスゲェ驚いてるけど」

「いやー、あれは驚くよ。あれが本当に動いたら、じゃっくんだって祭りじゃ危ないかもよ?」


 目がとび出さんばかりに驚くリゥを見てジャックは首をひねり、アズマはなにかを知っているかのようににししと笑った。


「……お前、なにか知ってんのか?」


「知っているというか、あれと同じ形のものを見たことがある。程度だね。あれが本物ならとんでもないことだよ? だってあれ、『遺人』の遺産と見た目そっくりなんだもん」


「なに?」


 アズマの言葉に、怖いもの知らずのジャックもさすがに驚いた。

 ただの鉄の塊をくっつけて人型にした鉄の人形かと思ったが、『遺人』の遺産となれば話は別だ。


 現代の何段階も超えた技術を持つ『遺人』の技術で作られたものならば、あんな無骨な金属の組み合わせといえども油断は出来ない代物だ。

 下手をすれば、あれでブレイクダンスを平然と踊れるほどの性能を秘めていてもおかしくないのである。



「……行くぞ」



 最初にそこへ向け歩き出したのはリゥだった。

 ジャックもそれを拒否する理由はない。祭りに参加しなくとも、それが本当に『遺人』の遺産ならば、近くに遺跡があるという意味であり、一攫千金も夢じゃないからだ。


 ちなみにアズマは機鎧を所有している上、遺産の真贋も見極められるため、例え拒否したところで二人に襟首を捕まれ連れて行かれる運命である。


 まあ、二人が引っ張ってゆかずとも好奇心で目をキラキラと輝かせて言われなくとも行くのがアズマなのだが。



 三人は近づき、それをまじまじと見上げた。



「これ、ほとんど手作りの鉄や鋼で作られてるな。てことはレプリカか?」


 足の装甲をこつこつと叩き、ジャックがそう呟く。

 遺産ならば今の人類に作り出すことも出来ない未知の金属が使われていることが多々あるが、これを覆う装甲は明らかに今の人類が作り出せる代物だった。



「いや、確かに人の手が多く加わっているけど、芯となる素体は遺産だね。壊れているのを修復している。というのが正しいかな……」



 近づいて全身を観察したアズマがそう断言した。



「……」

 リゥが無言でアズマの顔を掴み、ぐりっと自分の方へ向けた。


「……うむ、嘘はついていないな」

「信用してよー」


「ちょっと前に平然とここが故郷だと言った自分の行動を省みて言ってんのか?」


「てへっ」


 ジャックのお小言にアズマは自称可愛く笑った。

 確かに中性的な姿でとても可愛い笑顔だったが、ここでその可愛さはむしろ可愛くない代物だった。



 アズマが遺産と断言し、かつリゥのお墨付きもあったのだから、これは間違いなく『遺人』の遺産をベースにしたものに間違いないのだろう。



「ともかく、マジで遺産なのか。それはすげぇな」


「うん。胸元から左腕。それに下半身の半分は誰かが残っていた半身を真似て作ったものだね。装甲の下にフレームが残っているのもあるから、全体はわからないけど」

「頭部、右半身はほぼそのままと考えるのがよいということか……」


 アズマの言葉に、三人は改めてまじまじとその巨人を見上げた。



「外観を見ただけでここまで見抜くとは、おぬし何者じゃ?」



 鋼の巨人の置いてある一軒家の中から声がした。


 直後、ぎぃ。と入り口の扉が開き、ショットガンを構えた老人が姿を現す。


 中肉中背。六十を少し超えたくらいの年齢のもっさりと口ひげを蓄えた白髪の男だった。

 綿のシャツの上に白衣を羽織り、ショットガンをはずしてみるとそれは博士や研究者という風体だ。


 背筋はピンと伸び、大地を踏みしめる足は一歩一歩しっかりとしている。


 ショットガンを手にしているのは、ここが西部だからだろう。

 得体も知れない旅人が家の前にやってきて、あーだこーだと言い合っているのだ。それを警戒するのも当然の話だった。


 その老人がどこかうろんげに視線を向けるのはアズマだ。

 だが、怪しげに見つめるその視線の中に、どこか期待の念も混じっているように見える。



 その疑惑と期待の視線に気づいたアズマは、にやりと笑う。


 その期待に答えるよう、腰の銃に手をかけ……!



 すぱーん!



 ……抜いていつもの銃放り投げオラガンマン! をやろうとしたら、アズマの頭にハリセンが振り下ろされた。


 振り下ろしたのは当然リゥである。



「じゃからなぜかたくなに自分をガンマンだと主張する!」


「だって俺ガンマンもの!」



「ええいまたテキトーなことを。こいつの名はアズマ。異国から来たサムライじゃ!」


 ふざけるアズマの頭を押さえつけ、かわってリゥが自己紹介をはじめた。

 アズマに任せては話が進まないと判断したからだ。


「さむ、らい?」


 聞いたことのない単語に老人は首をひねった。

 どうやらサムライという存在は知らないようだ。


「ほらこれならガンマンと名乗ってもよかったじゃない」

「それはそれじゃ。サムライとはなにかはあとで説明するとして、これをひと目見てなにかと見抜いた理由は、少し前に同じタイプの遺産を見たことがあるからじゃ!」


「なんと!」



「しかも聞いて驚け。それはこれと違い、生きて動いておるものじゃ!」



「なんじゃとぉ!?」



 ずがぁん!


 あまりの驚きに、老人は手に持ったショットガンの引き金を引いてしまった。


 幸い空に向けていたため誰にもあたらなかったが、その音は周囲に広がり、なんだなんだと注意を集める結果となった。

 いくら無法の西部地方とはいえ、銃声があがればなにが起きたと人は集まる。

 人が集まればなぜ撃ったと説明しなければいけなくなる。


 煙の出た銃口を見て、その老人はあちゃー。と顔をしかめた。

 それはジャックとリゥも同様である。なにやってんだと二人は目を覆っていた。



「ええい、君達には聞きたいことがたくさんある! ひとまずウチに入ってくれたまえ! 茶くらいは出すし、なんなら今日ウチに泊まってくれてもかまわん。むしろ泊まってその動く遺産の話を聞かせてくれ!」


 カモンカモンと銃を持たぬ手を振って三人をドアの方へとうながした。


 ジャックとリゥは顔を見合わせ苦笑し、アズマはわかりましたと老人に続いてその家へと入ってゆく。


 ジャックは遺産という金のなる木に興味はあるし、宿代の節約にもなるから賛成だし、リゥもクローディアとの思い出の遺産と同じようなものに興味があった。



 ゆえに二人ともアズマのあとに続き、老人の家へと入ってゆくのだった。




──クレイン博士の野望──




 老人の家にはいると、そこはある意味奇妙な空間だった。


 部屋の中や廊下の天井をパイプが走り、ギコギコと動くむき出しの歯車が部屋の中で動いている。

 時折ぶしゅー。とパイプの隙間から蒸気が漏れ、壁と壁をつなぐ木板は不自然にガタガタと揺れているのがわかった。

 しかも、外はまだ昼時だというのに中は薄暗い。窓が窓の役目をせず、ただの模様のようにしか存在していないからだ。


 家の外観は普通の一軒家だったというのに、その内部は別世界と言ってもよかった。



 足を踏み入れた瞬間、ジャックとリゥは家に入ったことを少しだけ後悔した。



「な、なんじゃこれは……」

「……なんつーか、遺産を弄繰り回しているヤツのイメージそのままだな」


「ワシの遺産をいじるイメージというのはこういうのではないんじゃがなぁ」


 リゥの遺産いじりのイメージはクローディアやアズマである。

 その二人はこうやって部屋にこもり機械をいじっていることはほとんどなかった。


 だが、一般的なイメージはジャックの言うこの爺さんの方が正しい。



「おーい。早くこないと置いてくよー」



 家の奥からアズマの声が響いた。

 どうやらこの家、螺旋を描くようにして地下へと下っているようだ。この家に見えるこの場所も、家の一角に過ぎないのである。

 四角い螺旋を二周ほど周り、薄暗い階段をおりるとレンガ造りの地下室へ到着した。

 そこでも歯車はごりごりと回り、時折どこかから蒸気が噴き出している。


 階段の下でアズマは二人を待っていた。


 この先に部屋があるように感じられるが、ここは地下。灯りがなければその先は欠片も見通せなかった。


 すると突然、パッと部屋が明るくなった。

 それは、炎の灯りではない。


 いわゆる電灯はすでにこの世界に存在しているが、まだ街灯はガス灯などが使われている時代で、この一室はその白熱灯のような灯りによって照らされた。


 部屋の壁には様々な設計図らしき紙やメモが所狭しと貼り付けられ、部屋の一番奥には作業机らしきものがあった。

 らしきもの。というのは机の上も様々な工具や本の山に埋め尽くされていたからだ。


 作業机の上方には天井近くの壁に設置されたモニターが設置されている。そこには先ほどの巨人と、別の画面には家の周囲が映し出されていた。

 どうやら家の周囲にはいわゆる監視カメラが設置されているようである。


 あの老人はこれを見て家の入り口にやってきたのだろうことがわかった。



 その老人は、先ほどの作業机と思われるところの前にいた。



「うむ。よくきたのう」



 ショットガンを机の横にあるスペースに置き、老人は振り向いた。


「そういえば、ワシの自己紹介もまだじゃったな。ワシの名はクレイン。この地で巨人伝説の元となったあの遺産の巨人を研究している研究者じゃ。クレイン博士とでも呼んでくれ」


 自己紹介の後、クレイン博士はにかっとアズマ達に笑った。



「?」

 その笑顔を見て、リゥはなぜか既視感を覚えた。


 どこかで見たことがある。と思うが、それ以上はわからない。


 なぜなら、それを思い出そうとする努力をする前に……



「じゃあ、こっちも改めて自己紹介しないとだね。この俺こそ……」

「じゃから同じことを繰り返すなっちゅーに!」

 表の時と同じく銃に手をかけようとしたアズマの後頭部をリゥのハリセンがまたはたき倒した。


「てん、どぉん!」


 すぱーんと気持ちのいい音が地下室に響き、後頭部から煙を出したアズマが床に沈む。


 ……このようにツッコミに忙しくては、思い出している暇もなかった。



「……」

「……」


 ジャックはまたなにやってんだと顔を抑え、老人。クレインはそのやり取りを唖然と見ているしか出来なかった。



「ったく。アホなことばかりしおって!」

「このツッコミを専門とするエルフはリゥ。んで、俺はジャックってんだ。よろしくな爺さん」


 ぷんすかと頬を膨らますリゥを横に、ジャックがさっさと自分達の紹介を済ませてしまった。

 ツッコミ。と言われリゥは心外だとジャックへをふりむき抗議の視線を向けた。


「で、こいつらに聞きたいことってなんだ?」


 そんな抗議の視線を軽くスルーし、話を進める。

 彼女がツッコミ気質なのは事実だし、ここで彼女にかまっていたらさらに話が進まなくなるからだ。


 リゥもそれはわかっているため、そこで声を出すことは自重している。


 ただ抗議の視線でジャックへ色々訴えていたが。



「それではまず、これを見てもらおう!」

 クレインは手にしたリモコンを操作する。


 それにあわせ、壁の前にプロジェクター用のスクリーンが天井からするすると降りてきた。

 白熱灯の光度がぐんと下がり、同じく天井にあったプロジェクターから映像が照射される。


「おおー」

「おー」


 ジャックとリゥがそれを見て声をあげる。

 このような設備、東部の大都会にある映画館か軍でくらいしか見れないものだ。さすがのジャックも珍しさに声を上げてしまった。



 うつされた映像。

 それは家の表に座っているあの鋼の巨人の全身図だった。


 一部内部図解も入り、補修個所やその構造が事細かに書かれている。

 走り書きだが、その字はとても流暢で美しい。


「へぇ」


 それを見て声を上げたのはアズマだった。

 寝転がっていた床から起き上がり、それをまじまじと見る。



「様々な研究の結果、ワシはここまできた! 失われた半身を作り、補修も完璧に施した! しかし、しかしだな! 形は完璧に整ったというのに、あれはいまだ動かん! なぜ動かん! それがワシにはわからん! じゃから、同型機が動いているのを見たという君達なら、なにが足りないかわからないか!? これを見て、なにか気づくことはないかね!」


 クレインは両手をあげ、それをわなわなと震わせた。


 それは、研究者として必死の叫びだった。

 様々なことを試し、壁にぶつかってしまった研究者の叫び。


 どうにかしてその壁を乗り越えようと努力し、わらにもすがる思いで手を伸ばした、プライドもなにもかもを投げ捨てた懇願。


 それは、それほど、これに熱を上げているという証拠でもあった。



 それを聞き、リゥはちらりとアズマを見た。



 リゥもあの巨人の同型機。クローディアの『相棒』がなぜ動いたのか、その理由を一応知っている。実際に自分でそれを動かそうとして失敗した経験もある。


 彼女が動かせなかった理由。それは、あれは生態認証タイプで、特定の人間にしか動かすことができないということだったからだ。


 今回の巨人もそれと同じものならば、この老人がどれだけ努力しようとあの巨人は欠片も動かない可能性があった。


 それは努力によってどうにかできることではなく、ある種ただの運でしかない答えだ。


 その、今までの努力は全く意味がない。という残酷なまでの事実をこの老人に伝えてよいものか。リゥはそれを悩んだ。



 それよりなにより、リゥにはこの図を見てもこれが正しく出来ているのかがわからない。

 そもそもその素体となったモノが壊れて動かないのなら、前提がまったく異なるからだ。


 アズマはかつて、ルルークシティの遺跡の中身を見てそれが戦闘用かそうでないかを見分けた。その知識のある彼ならば、なにか答えがわかるはずだ。



 ゆえに、アズマへどうする? と相談の意味をこめて彼を見たのである。



「……」

 アズマはアゴに手を当て、その全身図を見ていた。



「図を見た限りだと、コアも無事そうだし、素材は違えど補修も完璧。これで動かないとなると……」



 上から下まで見たアズマは、そう呟きなにかを考えるように口をつぐんだ。


 リゥは少しだけ嫌な予感がした。

 動くはずなのに動かないとなると、残る答えは起動できない理由しかなくなるからだ。



「……ちょっと、外の実物見てからでもいいですか?」

「それでなにかわかるのかね!? ならば行くしかないな!」


「では行ってみましょう博士!」

「行くかね、助手よ!」

「はい!」



 なぜか博士と助手と呼び合ったアズマとクレインは力強い握手をかわしあった。



「……なんでそんなにノリノリなんだよ」


 あっさりと助手博士の関係になった二人を見て、ジャックはどこか呆れるように肩を落とす。



「待て」



「ん?」

「なに、リゥ?」



 肩を組んでスキップしながら動き出そうとした二人の前を塞いだのは、階段の前に仁王立ちしたリゥだった。



「外のアレを調べる前に、一つ聞きたいことがある。よいかなクレイン?」


「ほほう。逆にワシへ問うともうすか。よかろう! このクレイン、遺産のことならばなんでも答えようぞ!」

 クレインもクレインで、意味のわからない構えを取りリゥの挑戦を受ける!



「いや、遺跡や遺産のことじゃぁないんじゃが……」



「なんじゃぁ」


 少し申し訳なさそうにリゥが言った。

 クレインもつまらん。と大きく肩を落とす。



「じゃが、大切なことじゃ。これをきちんとはっきりさせておかねば、アズマの協力は白紙にさせてもらう!」



「なんとっ!?」


 きっぱりと言い切ったリゥの言葉に、クレインも表情を引き締めた。



「あー……ナンデモアリマセン」

 そんなことしないよー。と口にしようとしたアズマをぎらりと睨み黙らせる。


 リゥとてクレインの努力を無駄にさせるというのは心苦しいが、これをはっきりさせなければこれ以上の協力はできないほど大切なことだった。



「問いそのものは簡単なことじゃ。ぬしはあの遺産を動かし、なにを望む?」



 それは、とても大切な問いだった。

 遺産を手にし、この街を支配するのが望みだったりすればそれは争いの種にしかならない。


 アズマがいればそんな野望一蹴されて終わるだろうが、それなら最初からそんな野望抱かない方がクレインも街の者も幸せだ。夢は、あくまで夢で終わらせた方が美しい。

 さすがにそんな野望を持っているのなら、馬鹿正直に「はい。次は街の征服です!」なんて口にはしないだろう。が、リゥは人の心の真贋を読むことが出来る。口にした理由が嘘か本当かがわかるのだから、この質問に嘘を返すならば信用には値しないと断言できた。


 この問いで重要なことは、この質問に正直に望みを答えられるかが大切なのである!



(さあ、答えてもらおうか!)



「笑止! そんなの決まっている! 動かしてなにを望むかだと!? 否! 動くことこそがワシの望み! あの子が元気に走り回っている姿が見たい! それだけがワシの望みじゃあぁぁぁぁ!」



 あまりの気迫に、クレインの背後でなにかが爆発したように見えた。

 それほどの熱量を持つ想いが彼の口から放たれたのだ。


 これは、それほどの望みだった。



 とめられない探究心のまま突き進む研究者の情熱。夢。彼の口から出たのはそれだけだった。



 それを動かし、世に知れれば大変なことになることだというのに、そんなの彼には関係ない。

 あるのはただひたすらに、これが動くところが見たいだけ。


 古の遺物を再生し、動かしたい。



 クレインにあるのはただそれだけだったのだ!



(こいつ、本気でそれしか望んでおらんー!)



 これほど純粋な心はリゥもほとんど見たことなかった。


 これなら少なくともあの遺産を使ってなにか悪事を働くということはないだろう。

 クレインは間違いなく生粋の研究者だった。


 むしろ動かしたあとどうでもよくなって誰か他の者に悪用されないか心配になってくるほどだ。



「どうか!」

「どうだ!」



 クレインとなぜかアズマが二人で自信満々に胸を張った。



「わかったわかった。ワシが悪かった。好きにするがいい」

 階段の前をどき、リゥはひらひらと手を振った。


「ひゃっほーい!」

「行くぞ助手よ!」

「あいあい博士!」


 博士となぜか助手になったアズマは勢いよく外へと駆け出していった。



 元気な子供二人の姿を見て、リゥは小さく呆れた息を吐く。

 そして、追おうとしたところでジャックが図をじっと見てなにか考えていることに気づいた。


「どうしたんじゃ?」


「いや、これ、どうすれば金にできるかな。と思ってよ」



「……お前じゃ無理じゃ」



 無慈悲なリゥの断言斬がジャックの考えをまっぷたつに叩ききった。



 金に縁のないジャックでは遺産を金に変えるなんて到底無理だと思ったからだ。むしろそれに失敗して軍や他のアウトローに目をつけられて借金を増やす未来しか想像できなかった。



「……お前、容赦ねぇな」


 ジャックも自覚があるのか、苦笑してこの遺産でどうこうするという考えるのをやめた。


「それに、金ならカレンにでも無心すればあっさり解決するじゃろ」

「財布の回収のことを言ってるならイエスだが、あいつに金を借りるなんてそれこそ自殺行為だろ」


 そんなことしたら即効で下僕にされる! とジャックは逃げるように上へと向かった。


 リゥはやれやれと肩を動かし、三人のあとを追った。



 ちなみにだが、そのカレンが何者でなぜ自殺行為となるのかはあとで登場した時に説明するとしよう。

 ついでに財布の件は第8話のエピローグを参照にするといい。




──欠けたものはキー──




「それで、なにがわかったかね!?」

「ちょっと待ってくださいねー」



 外に飛び出し、先ほどの銃声に集まった人はすでに散会したことを確認したのち、クレインはなぜ動かないのかその謎を解き明かしてくれとアズマを急かしていた。


 急かされるアズマはその声を全く気にせず座る鋼の巨人の周りをまわり、クレインの許可を得て装甲の隙間やパーツを開けては閉めている。


 それはまるで、調査というよりなにかを探しているかのようだった。



「なるほどなるほどー。やっぱりかー」



 そして、納得したようにうなずいた。



「なにかわかったのかね!?」

「なにがわかったんじゃ?」



 クレインが食いつくように身を乗り出し、リゥも興味をおさえきれず聞き返してしまった。

 リゥの方も昔お世話になった巨人と同じものだから、やっぱり興味があるのだ。



「まず最初に、こいつは前の生態認証とは起動方式が違うから、その気になれば誰にでも動かせる代物だね」


 人差し指を立て、リゥを見てアズマはその指をくるくると回した。

 リゥは心配が一つ減り胸をほっとなでおろすが、別の疑問が生まれることになった。


 ならばなぜ、起動しないのか。が。



「じゃあ、なんでこいつ動いてねーんだ?」


 アズマが言うには補修は完璧。起動も誰でも出来る。となれば動いていないのはおかしいはずだ。

 なのでジャックがなぜだ。と口にする。



「それは簡単。起動して命令するためのモノ。いわゆるキーが足りないから」



「キー?」

「きぃ?」

「キィ?」



 三者三様。ジャック、リゥ、クレインがなにそれと声を上げた。



「じゃっくんにわかりやすく言えば、あの黒い棒。リゥに言うならクローディアおねーさんのリストバンド。博士に言うなら、発電機のイグニッションキーといったところかな。それに類推する代物がこの子にもあるはずなんだけど、ないから動かないんだろうね」


「あっ!」

「こいつか!」


 リゥとジャックがそういうことかと声を上げた。

 クローディアの『相棒』と同型ならば、それを自在に動かしていたリストバンド型コントローラーがあって当然だ。


 それと同じで、これにもそれと同じものが必要ということになる。


 それに思い当たり、リゥはぽんと手を叩いた。

 アズマがなにかを探すように巨人を見ていたのも、そういう理由だったのだ。



「なんと……そんなものがあったのか……」


 さすがのクレインが遺産の研究者とはいえ、他にサンプルもなく、存在も知らないものを再現しろというのは酷としか言いようがない。



「君は、ワシより知識があるのではないか!?」

「はっはっは。それほどでもありますよ!」


「ぜひ先生と呼ばせて欲しい!」


「なんだい弟子博士よ!」

「これから色々学ばせてください助手先生!」


 博士が弟子で、助手が先生になった瞬間であった。


「なにしとるんじゃこいつらは……」

 呆れるしか出来ないリゥであった。



「てーことは、そのキーとやらが見つからなけりゃ動かないってことか?」


「一応前に命令されていたなにかが残っていればキーもなく勝手に動き出すこともあるけど、それに賭けたりするのも骨だからねぇ」


 ジャックの質問に、アズマはうんうんとうなずいた。

 そもそもそんな命令がされているのかも怪しいし、それに賭けるならもっと他にやることがあった。



「というわけなので、そのキーを捜すわけなんですが、この子、どこで拾ったのか教えてもらえます?」



 やること。すなわちそのキーを捜すことだった。

 クレインがこの鋼の巨人を拾った場所。


 そこにそのキーが落ちている可能性が最も高い。ゆえにアズマはそれがどこか聞いたのだ。



 アズマの言葉に、ジャックがひっそりと反応した。


 この巨人があった場所ということは、イコール『遺人』の遺産。もしくは遺跡がある場所ということになる。


 となればお宝が眠っている可能性も少なくない。なにせこの地には巨人伝説があり、その遺跡はまだ誰も見つけていない場所だからだ。


 なら、そこは未発見未発掘の遺跡であり、とんでもないお宝が眠っている可能性もある!


 そのおこぼれに預かろうと、ジャックはひっそりと期待した。



「うむ。この子はな、この街近くの荒野で偶然見つけたものなのだ。残念だが、遺跡で発掘したということではない」



 結局遺跡は見つかっていないということだった。

 その言葉を聞き、ジャックは平然とした顔をしつつしょんぼりした。



「埋まってたの?」

「うむ。座るように埋まっていた頭部が露出していたのを見つけてな。それを掘り返し、ここへ運び修復したのがこれになる」


 アズマとクレインが巨人へ視線を向けた。



「じゃあ、そこに行って調べてみるのが一番か。なにか出てくるかもしれないし」


「……っ!」

 ジャックの耳もピクリと動いた。

 遺産が出た場所。なら他の遺産がそこから出る可能性もゼロではない。


「そうだな。一度調べてみた方がいいだろう」

「……なんかものすごく邪な感じがするの」


 じとっと、リゥがジャックを半眼で睨んだ。



「いいだろ! 少しくらいよ!」



 ここで少しの罪悪感を見せてしまうのがジャックが悪人たりえないところだろうか。

 わざわざ理由を作って付き合おうとするのだから、結局ジャックも人がいいのである。



「まあ、かまわんが。それで、場所はどこじゃ?」



 リゥもそれがわかっているから、それ以上追求することはなかった。



「それならばわかりやすい案内図を描こう。見つけた場所の近くには目印となる岩があったが、そこに行くまでけっこう複雑なんでの」



 クレインは案内図を描くため家の中へと入っていく。

 アズマ達三人もその背中を追って再びクレイン宅へと入っていった。




──マッギーヴァーン──

 



 再び、地下室。



 クレインが案内図を描くため作業机の上を片付けていた。


 メモをまとめ、それをノートや設計図の束となった山の上へと移動させている。



 ぐらり。



「あ」

「あー」


 アズマとジャックが声を上げた直後、その山はバサバサーと勢いよく雪崩を起こし、床に紙を散乱させた。



「おお、これでスペースが出来たぞ」



 机の上から紙がなくなり、クレインは逆に喜びの声を上げた。

 彼としては早く案内を描きそのキーを発見して欲しいので、これはこれで結果オーライなのだ。



「ったく。これが研究者か。難儀なもんじゃ」

「俺達が拾っておくから、じーさんはさっさと地図描いとけ」


「うむ!」


 リゥとジャックが落ちた紙を集めはじめた。


「じゃあ俺も案内図を描くお手伝いを……」


「「すんなこっち手伝え!」」


 アズマのおふざけにリゥとジャックのツッコミが走った。

 場所も知らないヤツがなにを手伝うというのだ。


 アズマはてへっと笑い、床に落ちた紙を集めはじめる。



「ん? これは……」



 床に落ちた紙の中に、写真立が紛れていることにリゥが気づいた。


 こんな物が挟まっているのだ。そりゃバランスも崩すだろう。



 この時代、写真はまだ気軽にとれるようなものではなかったが、流行に乗る者がなにかの記念にとることはよくあった。

 この写真もなにかの祝いかなにかで写しただろう家族写真だった。


 老夫婦と若い夫婦。そしてその夫婦の娘と思われる者の五人がおめかしして映っている。



 老夫婦の夫の方は間違いなくクレインだった。今に比べると十年ほど若いだろうか。その頃にとられたものだろう。



「……ん?」


 紙束の中からそれを取り出し、見たリゥが首をひねった。


 この中に映る少女。

 きっと孫娘なのだろう。


 リゥは、その少女にどこか覚えがあった。



「これは……っ!」



 リゥは思わず声を上げた。


 場にいた全員の視線がリゥに集まる。

 リゥはそれを見て、わなわなと肩を震わせている。



「ああ、それかね。そいつはワシの息子夫婦と孫娘と一緒にとった記念写真さ。ワシ以外、もうこの世にはおらんがね……」


 リゥの異変に気づいたクレインがその様子を見てどこか悲しそうに口を開いた。


 それを見て、皆悟った。

 なにがその家族の命を奪ったのかを。


「……戦争で、か」


 ジャックがポツリと呟いた。



「うむ。婆さんは違うが、息子夫婦が暮らしていた村は戦火に巻きこまれたらしくてな……」



「……そうか」

 ジャックがこれ以上聞くべきではないと口をつぐんだ。



「なに、気にすることはない。もう過ぎたことだからな」

 どこか吹っ切ったようにクレインは笑う。



「……いや」


 どこか唖然としていたリゥが、くちばしを挟んだ。



「ん? どうした?」


「クレイン。この孫娘、ひょっとするとクローディアと言わんか?」


「そうだが? なぜ知っている?」


「そしてぬしの姓は、マッギーヴァーンと言わぬか?」


「最初に言わなかったかな? ワシの名はクレイン・マッギーヴァーンだが?」

 自己紹介の時を思い出しつつ、クレインは首をひねった。


 ちなみに補足しておくが、言ってない。


「なんとっ……!」

「おおー」


 リゥとアズマが驚きの声を上げた。


「一体どうした?」

 驚く二人を見て、クレインはどうしたんだとさらに首をひねる。



「お、驚くな。その孫娘じゃが、生きておる。生きておるぞ!」

 リゥが声を震わせ、そう告げた。


「なんとぉ!?」


 リゥの言葉に、クレインも飛び上がって驚いた。

 当然だろう。諦めていた人が生きているなんて言われたのだから。



 クローディア・マッギーヴァーン。


 リゥの命の恩人にして、クレインが修復した巨人の同型機を所有し、起動させた女性。

 彼女自身も家族は戦争でなくしたと言っていたが、その祖父が生きていようとは!



 リゥがクレインの笑みに既視感を覚えたのも当然である。


 彼女とクレインは血の繋がった家族だったのだから!



「奇妙な縁じゃな。その孫娘も同じ遺産をいじっているとは……」



「そうか。そうか……」


 ぽたりと、案内図を描く紙の上に涙の雫が落ちた。



「クローディア。そうか。生きておったか……」



 確かに奇妙な縁である。だが、彼女達の出会いがこの再会をつむいだとすれば、それは良い運命ということだろう。



 案内図が描き終わる。



「では、この案内図の二重丸の描いてあるところがあの子が埋まっていたところだ。近くに針のように細く突き出した岩のようなものがあったから、それを目印にするといい」


「うむ」


 それをリゥが受け取ろうとする。



「おっと、これは俺が回収ー」


 しかしそれは、アズマがインターセプトしてしまった。


「ああっ、なにをする!」



「ここに行ってくるのは俺とアズマに任せとけ」

 そう言いながら、ジャックはアズマの首に手を回し、ぐいと引っ張った。


「リゥはここでお留守番して思い出話に華を咲かせていればいいと思うよ。おじーさんは最近の孫の。リゥは子供の頃のクローディアおねーさんの話でもしてさ」


「そーいうこった」



「アズマ、ジャック……いいのか?」



「どーせ掘り返す力仕事は俺達の仕事だ。かわりに戻るの遅くなった時夕飯とかの準備頼むぜ」

「俺、今日はパスタがいいな!」



「ふん。わかった。戻ってこなくとも夕飯は用意しておこう。よいか?」

「うむ。かまわんよ。願ったりよ!」


 皆の提案に、クレインも大きくうなずいた。


 研究者といえども、やはり人の親。

 孫娘の話が聞けるというのなら断る理由などなかった。



「じゃ、ちょっと行ってきまーす」


 首に手を回されたまま、アズマはジャックと共にクレイン宅から出て行った。



「……さて。なにから話せばよいのかの」

「うむ。せっかくだ。君が知る最近のクローディアのことを教えてもらえないかね?」


「よかろう。では今なにをしているのかから話そうか……」



 残された二人は、輝かしい今と懐かしい昔話をはじめるのだった……




──分岐点──




「……ねえじゃっくん」

「なんだ?」


 クレインの描いた案内図を頼りにジャックの前を歩いていたアズマが立ち止まり振り返った。


「これ、この道を右に行くのかな? 左かな?」


「あん?」

 お前はなにを言っているんだと、アズマが広げている案内図を後ろからのぞきこむ。



「……どっちだろうな」



 ジャックもそれを見て首をひねった。


 アズマもクレインが描いた案内図をくるくると回転させ、同じように首をひねる。



 ここは目的地に到着するため最後の曲がり角なのだが、その肝心なところが解読不能だったのだ。



 涙で、このあたりの字がにじんで……



「……」

「……」


 インクがにじんだところとにらめっこするが、答えは出そうになかった。



 ちゃんと案内図を確認して出てくればこんなことはなかったのだが、地下室にリゥを残すためさっさと出てきてしまったのが仇となった。



 残る道は右か左のどちらか。

 残りの道はその道をひたすらにまっすぐ進むというものだ。


 ただし、かなりの距離を歩く。



 行って目印がなかった時受けるダメージは途方もないだろう。



「なあ、アズマ」

「たぶん同じことを考えたね。それじゃ、どっちがいい? 俺は残った方に行くから」


「なんだ、選ばせてくれるのか?」


「うん。きっとじゃっくんが選んだ方は外れだから」


「てめぇ……」


 けらけらと笑うアズマの頭を掴み、ぐりぐりと乱暴にふり回した。


 しばらくそうしてふざけ、ジャックは落ちていた木の棒を立ててどちらに進むのか選択する。



「来た方でたら戻るの?」


「そんな間抜けな倒し方するか!」


 ちょっとだけ進行方向側に傾けておくのがコツである。



 こてん。と倒れた木の棒は、右側よりに倒れていた。



「なら、俺は右だ」

「じゃあ俺は左と」



 ジャックは右の道に入り、アズマは左の道へ別れた。



 二人の考え。

 それは二手に別れ、外れの道だった方は戻って正しい方を追いかけてくるというものだった。


 これなら、大きな時間のロスはない。



「そういや、そのキーってのはどんな形をしているんだ?」


「鎖が残っているかはわからないけど、青い輝石のはまったペンダントだろうね。綺麗な青い水晶がはまっていたらそうだと思えばいいんじゃないかな」


「青い水晶な、了解了解」


「ちなみに使い方は、こう握って念じて命じて使うんだ。クローディアおねーさんのところで使っていたのは声に出さなきゃダメだったから、これはその一段上のハイエンドタイプ。と言ってもじゃっくんにはわからないか」


「そりゃそのクローディアって人知らねーからな。とにかく、念じるだけでいいなんてそいつは便利だな」


 そのクローディアの使っていたタイプには一つ弱点があった。

 それは、声を伝えるのを妨害されると命令が巨人に届かなくなるというものだ。


 それを改良したのが今回のタイプなのである。


 さらにそれを発展させ、人が乗るようにして操者のいのままに動くようになったのが機鎧なのだが、今はそれは関係ない。



 こうして二人はそれぞれ違う道を歩き出した。



 目指すは、目印となる針のように突き出た岩である。


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