第4話 伝説の魔法使い
——転生から16年後
「パパ起きて! は、や、く‼︎」
スイルの声が家中に響き渡り、俺の鼓膜へと無邪気に突撃する。
「な、なんだよスイル……こんな朝っぱらから……」
父ちゃんが目を擦りながら上体を起こす。
「今日! 『使命の儀』、今日だよ‼︎」
「な……そうだ! やべぇ!」
「もぅー、パパったらぁ!」
そう、今日は『使命の儀』。ステータスやスキルが今日公開される。俺は『狭間』でステータスを既に知っているため、スイルのようなワクワク感は持てなかった。
しかし、一つだけ気になるのはこの人生における『使命』である。『使命の儀』というくらいだから、その信憑性は確かだろう。
それだけのモチベーションで俺は数分で身支度を済ませた。
俺たちは母ちゃんが作ってくれた朝ごはんをバクバクと口に放り込んだ。母ちゃんは家事という重大な仕事があるため、スイルと父ちゃんと共に『使命の儀』へと向かうことにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
『使命の儀』は教会で行われるため俺たちは村外れに佇む教会へと足を運んだ。
徒歩1時間ほどで無事に教会に到着したのだが、目の前に立つ教会は、神聖さのカケラもないオンボロな外観であった。
中に入ると当然司祭がいるのだが、どうも胡散臭い笑みを浮かべ、父ちゃんへすり寄ってくる。
「ソ、ソイル様!お待ちしておりましたぞ!」
「いつも言ってるが、その、ソイル様はやめてくれ‼︎ 堅っ苦しい……」
「いやいや、それはできません!なんて言ったってソイル様は……」
「まぁまぁ……その話は……」
「勇者様とご一緒に……」
「やめろって! 子供達がいるんだ、その話はしなくていい……」
父ちゃんは急に司祭を怒鳴り睨みつけた。
そう、この目だ。狂気を孕んだ猛獣のような目。そして、心臓がすくむほどの覇気を纏っている。
一体、勇者は何者なのだ。そして父ちゃんは一体、勇者とどう関係しているのだ。
「す、すみません‼︎ ソイルさん」
司祭はソイルの覇気に怯えつつも、平然を装うかのように、えへへ、と愛想笑いを浮かべた。
なんか、気まずい……。
『使命の儀』は言わば、成人式のようなもの。一生に一度の晴れ舞台だ。スイルも少し気まずそうに下を向いているため、ここは俺がこの空気感を変えるべく、話を進めよう。
「と、とりあえず『使命の儀』をしよう……?」
「……あ、あぁ、そうだな! 空気を悪くしてすまなかった。なぁ、司祭、スイルとマオの『使命の儀』を始めてくれ!」
「わ、分かりました!それでは1人ずつ行います。どちらが先に行いますかな?」
「はいはいはーい!スイルから行くー!」
「かしこまりました。スイルちゃん! それではこちらに……」
そうして、スイルの『使命の儀』が始まった。転生の中間地点『狭間』で見た大きな石板が現れ、スイルの前でフワフワと浮いている。
そして、スイルがその石板に触れると、徐々に石板に文字が光り刻まれた。
スイルは、おそらく魔法使い系のスキルだろう。まぁ、初級回復魔法のヒールですら失敗するのだ。そこまで才能があるわけではないだろう。
RPGをやりこんだ俺には分かる。ファンタジー世界では、身分によってステータスの強さがかなり左右される傾向にある。
稀に、平凡な村にチート級のステータスが生まれるが、大抵は血縁にものすごい人物が絡むわけで、両親が農民のスイルには無縁だろう。スイルには悪いが、これが世界の理というやつなのだ。
ピカァンッと石板は白くまばゆい光を放ちステータスを表示した。
――――――――――
Lv.1
名前:スイル・エルド
種族:人族
HP:G
MP:S
筋力(STR):G
耐久(VIT):G
敏捷(AGI):F
器用(DEX):D
知力(INT):S
運(LUK):G
魔法:全属性魔法
異名:
使命:伝説の魔法使い
――――――――――
「うわぁー! なにこれ! すごーい!」
石板に、スイルのステータスが表示される。
「ま、まじかよ……」
そして、それは俺が予想していた能力値より、遥かに異質なものであった。
『デーモンズクエスト』では、能力値がG〜Sのアルファベットでランク分けされる。レベルを上げていくことで、コツコツとGからF、FからEと能力値が上がっていく。レベル1なら基本的に能力値はGかF、良くてDだったはず。
しかし、スイルはレベル1から最高ランクのSを持っている。しかも、『MP』と『知力』の2つもだ。
そして、魔法が『全属性魔法』ときたら、もはやチートだ。使命である『伝説の魔法使い』は、もはや達成していると言っても過言ではない。
「お、おい、スイル! お前……」
「ふふん、どう? お兄ちゃん!」
「スイルやったなぁ! 父ちゃん嬉しいぞぉ!!」
「パパ! スイル強い? すごい魔法使いになれる?」
「あぁ‼︎ 必ずなる! なんて言ったって『伝説の魔法使い』になる使命があるからな!」
父ちゃんはスイルを持ち上げ、自慢の娘と言わんばかりに目を輝かせた。そして、これからスイルは自慢の娘を超えて世界が誇る魔法使いとなるのだろう。
こんな貧乏な村の農民の家系からこんなチートが生まれるなんて、この世界に神がいるのならそいつは頭のネジが外れているに違いない。
父ちゃんはスイルを愛で倒し、その輝かせた目のまま俺に視線を向けてきた。「ひょっとしたらお前もすごいんだろ?」と言わんばかりに、視線から期待感が漏れ出ている。
正直、早くここから逃げ出したい気分になる。大人気なくスイルより先に、『使命の儀』を終わらせるんだったと後悔が脳を埋め尽くした。なんと言っても、俺の全ステータスは#N/A。
スイルとは別のベクトルで父ちゃんを驚かせることはできるが、出オチで終わるのは目に見えている。
強いのかも弱いのかも分からない気まずい空気を考えるといっそ普通のステータスの方が良かったとさえ思う。
「では、次はマオくん! こちらまで……」
「は、はい!」
「お兄ちゃん! 頑張って!」
スイルと入れ替わるようにして、俺は石板の前に立った。すれ違いざまのスイルの応援は、むしろ俺のプレッシャーを加速させる。
心臓の鼓動が高まり、視界がグワングワンと揺れ動く。変な緊張感が身体にまとわりついて離れない。あぁ、気分が悪くなってきた。
そして、この緊張感は、全ステータス#N/Aによる微妙な空気への恐怖の他に一つの懸念点から沸き起こっている。
それは、俺の種族についてだ。
『狭間』でステータスを確認した時のこと。俺の種族は『魔人族』と表示されていた。
幸い人型に生まれ、ここまで俺は『人族』だと錯覚するほど何不自由無く育ってきたが、もし『魔人族』だとバレれば父ちゃんや母ちゃん、スイルはどう思うだろうか。
いつも通り、家族として接してくれるだろうか。
俺にやっとできた家族。そんな家族を失うことが一番の恐怖であった。
逃げ出したい足をなんとか抑えて、石板にステータスが刻まれるのをじっと待機する。
ピカァン……
とうとう石板は光を放ち、文字が刻まれた。その光は、どこか赤黒く不気味なものであった。
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