第5話 小さな村の農民は……
とうとう石板が赤黒く光り、文字が刻まれた。スイルの時と違って不穏な字体と光が不安を煽る。
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Lv.#N/A
名前:マオ・ノクス
種族:!@#?
HP:#N/A
MP:#N/A
筋力(STR):#N/A
耐久(VIT):#N/A
敏捷(AGI):#N/A
器用(DEX):#N/A
知力(INT):#N/A
運(LUK):#N/A
スキル:異名コレクター
異名:
使命:勇者殺し
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「…………」
現場が凍りつくのがわかる。転生してから16年。あいも変わらず全ステータス#N/A。
散々、脳内シミュレーションした状況であるが身体の緊張が解けない。だが、不幸中の幸いと言うべきか種族欄が文字化けしていた。
「お、おい、マオ……お前……」
父ちゃんが言葉を失うのも無理はない。我が子がチートステータスの娘と意味不明ステータスの息子なのだ。この状況、喜怒哀楽の操作を誤るのが正解だ。
「お兄ちゃん……」
スイルの口がポカーン、と開いている。
石板に刻まれる俺のステータスは、まだ世界を知らない16歳の少女が見ても異様と感じるほどなのだろう。変な兄ちゃんですまない妹よ。
「お前の使命……」
父ちゃんは目は鋭く尖らせ、俺をギロッと睨みつけた。勇者の話をした時に見せる狂気を孕んだ目。
その、あまりの覇気に鳥肌が立ち、心臓がすくみ上がった。
俺はこぼれ落ちそうな涙を何とか堪えながら「と、父ちゃん……俺もなぜだか——」と発したその瞬間。
ドーーーーーン!!
突如、鼓膜を吹き飛ばすほどの爆発音と共に、爆風が頬を焼く。
今にも崩れそうだった教会は、トドメを刺されたように崩れだした。その、瓦礫や岩が俺たちを襲うように落下を始める。
「な、なんだ⁉︎」
さっきまでの殺気から一変。父ちゃんは慌てたように、辺りを見渡した。
「爆発……⁉︎」
破裂音と地響きから俺はそう察した。状況把握に手間取っている間に教会を支えていた柱は崩れ、天井が迫ってきた。
「おい、スイル、マオ! こっちに来い!」
後方から父ちゃんが俺たちを呼ぶ声が聞こえる。父ちゃんが人一倍パワーがあることは知っているが、この状況を打破できるほどの能力があるとはとても思えない。
しかし、もはや逃げ場などなく、為す術がない俺は父ちゃんの言葉通り、側に駆け寄ることしかできなかった。
「おい、スイルー‼︎ スイルはどこだ!?」
父ちゃんは、辺りを見渡しスイルを探している。さっきまで父ちゃんの後ろにいたはずだろ。スイルならこの状況、すぐさま父ちゃんに駆け寄り絶対に離れまいとしがみつくはず。それなのに、そんな活発な気配が近くから感じられない。
「パパー! 助けてぇー!!」
突如、スイルの悲鳴が聞こえた。それは、外へと続く教会の扉からであった。そして、今のスイルの状況を目が捉えた時には、サァー、と血の気が引いた。
スイルが司祭に捕まっていたのだ。司祭はスイルの首に腕をかけ、首にナイフを突きつけている。その様は、人質をとった強盗と呼ぶのが相応しかった。
「おい、司祭! お前なにしてる!!」
「す、すみません、ソイル様……私にはこうすることしか……」
司祭はスイルを強引に引っ張り、教会の扉を開けて、教会の外へと連れ出した。
「スイルゥゥゥゥー!!!」
「パパァァァァ!!」
それを阻止しようと父ちゃんは走り出すが、とうとう屋根が俺たち目掛け襲いかかる。
ドゴゴォー!
大きな地鳴りと共に教会は完全に崩れ、視界が真っ暗になった。まさか、最後が生き埋めだなんてな。こんな状況なのに、身体が心地よい暖かい空気に包まれている感じがしている。
あぁ、これが『死』ってやつか……
その時、頭上に一筋の光が入り、その隙間から空が見えた。
「おい、マオ! 無事か⁉︎」
頭上から父ちゃんの声が聞こえる。
「と、父ちゃん⁉︎」
「マオ、怪我はないか?」
「う、うん……なんともない……」
瓦礫に生き埋めになったのにも関わらず、俺は傷一つなかった。身を挺して庇ってくれたのかと父ちゃんの身体も確認するが、傷一つ無い。
父ちゃんが守ってくれたのには間違いなさそうだが、その術が見当がつかない。
「無事でよかった……」と父ちゃんは安堵の表情を浮かべ俺の頭を撫でる。
「とりあえず、外に出ようか」と父ちゃんの合図と共に瓦礫を押し除け、俺たちは外に這い出でた。
「はっはっは‼︎ よぉーソイル、相変わらずお前は硬ぇな!」
神経を逆撫でするような悪意を含んだ笑い声が後方から響き渡る。振り返り声の方向に視線を向けるとスイルに刃を突きつける司祭、そして、その一歩前に白髪の男が立っていた。
他人を嘲笑うためにできたような、片方だけ吊り上がった口。目は血走ったように赤く、何かに取り憑かれたようにパキッている。そして、それらに似合わないほど純白の髪。
声の正体がこの男であることは分かるのだが、何やら父ちゃんを知っていそうな口ぶり。しかし、一体誰なのか見当が付かなかった。
「パパァァァ! 助けて、パパっ!」
「おいおい!うるっせぇーな! おい、お前こいつ黙らせろ!」
「は、はい! 勇者様っ!」
司祭から出た言葉に、衝撃が走る。
司祭は、この性根が腐っているような白髪の男を勇者と呼んだ。何度も記憶を確認するが、確実に勇者と呼んでいた。
「お、お前は……なんで……⁉︎」
父ちゃんの拳は、血が滲むほど強く握られ震えていた。未だかつてないほどに、狂気を孕んだ眼差しと覇気。間違いない、この男が勇者だ。
「おーい、ソイル! お前の小娘、『伝説の魔法使い』なんだって?」
「だったらなんだ?お前に関係ねぇーだろ。
良いからスイルを返せ!」
「いや、ダメだね。こいつは返さねぇよ、こいつは俺が最強になるために必要なんだよ」
「最強……? まだそんなものにこだわってんのか⁉︎ 魔王はもう死んだんだぞ!」
「だからだよ! 俺が魔王を殺しちまったからだよ!」
父ちゃんの顔は、怒りでひしゃげていた。
2人の会話は中々、俺の理解できるところまで噛み砕かれず、何かを隠すかのような曖昧な言い回しであった。
一つ分かるのは、確実に父ちゃんと勇者が知り合いであること。いや、知り合いにしては勇者の態度が馴れ馴れしい。友という方が近いのかもしれない。
ギリギリ、と硬いものが擦れる音が右耳から聞こえてくる。音の方向には父ちゃんの姿。こめかみや腕には野太い血管が浮き出ている。あまりの殺気に、俺の足はプルプルと震えだす。
「分かった……どうしても返さねえって言うんなら、力づくで取り返してやるよ!」
俺は「父ちゃん⁉︎」と少しでもなだめようと腕を伸ばすがそこにはもう、父ちゃんの姿は無くただ抉れた地面があった。
まさかと思い、前方に目を向けると今まさに勇者を殴ろうと大きく振りかぶる父ちゃんの姿。
「歯ぁ食いしばれよ‼︎
【ガーディアンスキルVow.4:
盾にして矛と成す】‼︎」
詠唱と共に父ちゃんの身体を覆うように発動したシールドが瞬時に手に集中する。そして、その拳が勇者の顔面を捉えると派手に勇者が吹っ飛んだ。
あまりの威力に、俺の口は塞がらなかった。
初めて見る、父ちゃんの本格的な戦闘力は、小さな村でただ農業に勤しむ農民にしては失礼なほど持て余していた。そして、たった1発から感じる覇気は歴戦の猛者にしか醸し出せないものであった。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
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また次の話でお会いしましょう。




