第32話 格というもの
人には格というものがある。
その道理を、タカゴウは幼い頃から理解していた。
それ以前から、大人たちに、魔法の才能は血によって受け継がれるものだと聞かされてはいた。
だが彼が初めてその考えを抱いたのは、小学生くらいの年頃だった。
母が大切にしていた花瓶をうっかり割ってしまい、
それを認める勇気がなく、普段から自分の世話をしていた専属メイドが割ったのだと嘘をついた時のことだった。
当然、その稚拙な嘘はすぐに見破られた。
花瓶が割れた時、そのメイドはそもそもその場にいなかった。それは、屋敷中の使用人のほとんどが、それを証言した。
彼はメイドと向き合わされ、言い逃れできなくなり、自分の嘘があまりにも拙いものだったと知った。恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にし、焦りのあまり泣き出した。
そのメイドはそれによって職を失い、彼は逆に、慰めが必要だからという理由で新しい魔法玩具を与えられた。
明らかに悪いことをしたのは自分なのに、不幸になったのは別の誰かだった。
彼には分からなかった。執事に尋ねると、執事はただこう言った。
「あなたは、あの者たちとは違います」
彼にはまだ分からなかった。
ただ、その日から、執事は少しずつ、父に向けるのと同じ敬意を彼にも向けるようになった。
そばでいつも彼をからかっていたメイドたちも恭しい態度を取るようになり、母でさえ彼に対してどこか遠慮するようになった。
そのすべては、彼がほかの者たちとは違うからだった。
貴族にも、いろいろな人間がいる。
辰巳凌のように真面目で頼りになる者もいれば、一日中外で飲み食いし、遊び歩いている者もいる。
タカゴウは彼らをひどく見下していたが、父は彼に、どんな相手とも付き合えるようにならなければならない。
ある日、悪友たちが妙にもったいぶった様子で、彼を怪しいバーへ連れていった。そこは見るからに客入りが悪そうなのに、棚には本物の上等な酒が並んでいた。
店主は彼らを地下の密室へ案内した。
そこは薄暗い灯りが揺れる、窓のない部屋だった。部屋の中には大きな檻が一つだけあり、その上には思わせぶりに布がかけられていた。
友人たちは、見ているだけで吐き気がするような薄笑いを浮かべながら、その布をめくるよう彼をけしかけた。
中にいたのは、なんと彼と同じくらいの年頃の少女だった。
少女は怯え、体を丸めて縮こまっていた。
タカゴウは嫌悪を覚えた。だが友人たちは笑みを張りつけたまま、彼を引き止めた。
「どうやら、うちのお坊ちゃまは同情心があふれているらしいな」
友人の口調は、相変わらず不快だった。
「坊ちゃま、魔力探知で軽く調べれば分かるよ。これは人間に似た姿をしているだけで、実際はただの魔畜なんだ」
魔畜?
その言葉を、タカゴウは確かにどこかで聞いたことがあった。
彼は魔力探知で少女を調べた。
すると確かに、魔力はかけらも感じられなかった。
友人は彼がその場で固まっているのを見ると、棒を手に取り、檻の中へ突き入れた。
少女は恐怖と痛みで泣き叫んだ。だが周囲の友人たちは、それを見て腹を抱えて笑っていた。
友人は棒を彼に差し出した。タカゴウは耐えきれず眉をひそめた。
「ちっ。どうやらお坊ちゃまには、こういう刺激的な遊びはきつすぎるみたいだな。別のものにするか」
タカゴウの周囲から、次々と興ざめしたような声が上がった。
彼は彼らにけしかけられるまま、その棒を受け取った。
魔畜は人ではない。
それが、この世界で彼らに与えられた位置だ。
自分が上に立つ存在であるのと同じように、それは生まれながらの真理だった。
それ以来、タカゴウはまるでその少女に取り憑かれたかのようになった。
最初は月に一度、こっそり通っていた。だがやがて、どんどん大胆になり、週に一度は行くようになった。
最初のうちは、行っても彼女を押さえつけ、いじめるだけだった。
だが、そのうち飽きてしまった。
ある時、少女が言葉を交わせることに気づいてから、タカゴウは自分のことを少女に話すようになった。
タカゴウの周囲にいる友人たちとの関係は、どんどん上辺だけになっていった。心を打ち明けられる相手はほとんどいなかった。だから彼は、すべてを少女に話した。
少女にも、ここには同じ年頃の友人などいなかった。
彼女もまた、彼の話を聞くことを嫌がらなかった。
後になると、彼は時々少女の檻を開け、外に出し、話し相手にした。あるいは、それ以外のこともさせた。
タカゴウは、彼女がますます人間に近づいていくように感じた。
「坊ちゃま、そんなにお気に入りでしたら、いっそ買い取ってはいかがです? そうすれば、毎日そばに置いておけますよ」
ある時、終わったあとで、店主は満面の笑みを浮かべてタカゴウにそう言った。
タカゴウはよく通っていたし、しかも彼女一人だけを指名していた。
そのせいで、ほかの者たちは皆、これはアレス家の若様のものだと思うようになっていた。
ならばいっそ、タカゴウに売って、一度きりの大きな取引にしてしまえばいい。
タカゴウはずっと、それがよくないことだと感じていた。だが確かに、彼女を買い取りたいとも思っていた。
そこで彼は、不安な気持ちを抱えたまま父に恐る恐る尋ねた。
「魔畜を一匹、買ってもいいですか?」
父は少し不思議そうにした。
「小遣いが足りないのか?」
父の淡々とした態度は、タカゴウに大きな衝撃を与えた。
彼は一睡もできないまま夜を明かし、翌日、従者を連れて再び酒場へ向かった。
「店主、彼女を買い取る」
タカゴウは無表情で店主に告げた。
店主は満面の笑みを浮かべ、少女を檻から出し、鎖を彼の手に渡した。
タカゴウは手の中の鎖を捨て、彼女の首輪を外した。
そして両手で少女の喉を締めた。
少女はもがこうとした。
だが彼女の爪は、魔力をまとったタカゴウの皮膚を傷つけることさえできなかった。
少女の命は、恐怖と困惑の中で消えていった。
タカゴウは少し怯えた様子の店主を見て、従者に命じ、金貨の入った袋を渡させた。
店主の表情はすぐさま媚びへつらう笑みに変わった。
「ほかにはどのような種類をご希望ですか? こちらには別のタイプもございます」
その日、彼は二人を殺した。
幼かった自分と、盲従していた自分を。
人には格というものがある。
あの低劣な平民たちは、無魔力者と大して変わらないくせに、平然と「魔畜」という言葉を口にする。
自分とその周囲の人間は、平民よりはるかに強いにもかかわらず、それでも彼らを、同じ人間の一員として扱ってやっている。
自分たちは上等だからこそ、高尚なのだ。
凡人には理解できない。
こういう下等な者たちと道理を語るには、力と金だけで十分だ。
それなのに、一部の貴族はわざわざ偽善的な顔を見せようとする。
たとえば星月学だ。
本来は一流の貴族学校だったのに、一部の貴族の自己満足のためだけに平民を受け入れた。だが結局、平民など貴族の踏み台にしかなれない。
自分が平民と一緒に学び、生活し、さらには平民に管理されることまで考えるたび、タカゴウは吐き気を覚えた。
学生会など、どうせ学校のごっこ遊びにすぎない。
にもかかわらず、自分は彼らの命令に従わなければならない。
どうにかして、あの連中の鼻を折る方法はないものか。
タカゴウは両脇で足元の世話をしている魔畜を見ながら、一つ思いついた。
入学初日、これまでの人生で見てきた数を上回るほどの平民を目にした。群がる様子は、まるでハエの群れのようだった。
彼は二匹の魔畜を連れていた。そうすれば大きな家に住めるというのが一つ。
もう一つは、このごっこ遊びに興じる連中への見せしめにするためだった。
ところが途中で、邪魔をする者が現れた。
そいつも平民だった。
中身が魔畜だと見抜き、同類として同情でもしたのだろう。
そのせいでタカゴウの計画は失敗に終わった。
だが彼は、目の前の自分を恐れない平民を覚えた。
どうあっても、あいつには思い知らせなければならない。
機会はすぐに訪れた。小隊試験で、正面から相手を叩き潰せる。
思っていたほど順調ではなかったが、その平民はしぶとく、何度も何度も形勢をひっくり返しかけた。
その後、その平民が学校に近い大きな別荘に住み始めたとも聞いた。
狙い撃ちにされ、郊外の小さな平屋にしか住めない自分と比べれば、学生会がわざと相手にあの別荘を用意し、自分を不快にさせようとしていると考えるのは容易だった。
タカゴウはもともと、その別荘に特別な感情を抱いていたわけではない。
だが、そういうことなら、それは自分への挑戦だった。
幸い、神はもう一度彼に機会を与えた。
正面からこの挑戦を受け止める機会を。
人には格というものがある。
もし彼がその道理を知らないのなら、自分が教えてやればいい。
タカゴウはそう望んでいた。
だが現実は厳しかった。
シヴァーナの助けがなければ、たとえ軽鎧に替えても、相手の速度にはなかなか追いつけない。
時間が一分一秒と過ぎていく中、煙はタカゴウの想像通りには晴れなかった。シヴァーナの枝も、彼を見つけてはいないらしい。
シヴァーナとギルダがどうなったのか、彼には分からない。
辰巳凌がどこにいるのかも、分からない。
黒沢渉が相手の後衛を倒すことに成功したのかどうかに至っては、まるで見当もつかなかった。
彼は仲間の安否を気にしていた。
だが自分が相手の隊長を放置して仲間を探しに行けば、それは間違いなく虎を野に放つようなものだった。
「もう察しはついてるだろ。お前の仲間たちは、たぶんもう駄目だ」
俺は何気ない口調で、彼に現実を突きつけた。
「さっき、二つの方向から戦闘の魔力波動が伝わってきた。けど、煙を吹き散らす風も、治療してくれる枝も、結局現れなかった。それが、あいつらがもう敗れた証拠だ」
タカゴウには理解できなかった。
相手は全員、反対側のエリアに足止めされていたはずなのだ。
だが今の状況は、タカゴウに細かく考える時間を与えてはくれなかった。
彼は最悪の事態を想定しなければならなかった。
「降参しろ。もう足掻いても意味はない」
俺は時間を無駄にしたくなかった。できるなら、降伏させるのが一番いい。
目の前の平民が、この俺を見下している?
侮られたと感じたタカゴウは、たちまち怒りに燃えた。
「意味がない? お前の仲間はどうした。たとえお前の仲間が全員助けに来たとして、それが何だ?」
タカゴウの粘り強さは、少し俺の予想を超えていた。
彼の言う通り、彼の仲間は来ていないが、俺にも同じように援護は来ていない。
おそらく両陣営とも、ある種の痛み分けに近い状態なのだろう。
「なぜ俺がお前を見下しているか分かるか?」
「俺が平民だからだろ?」
実に簡単な問題だった。
「その通りだ。だからこそ、お前は俺との圧倒的な隔たりを理解できない」
タカゴウは半身を沈め、両手の盾を地面へ突き立てた。彼の体から、強力な魔力波動が放たれる。
「隊長というのは、隊員が全員脱落したあとでも、敗勢をひっくり返せる存在のことだ。俺は、お前のように簡単に諦める人間とは違う!」
あまり賛同はできなかったが、俺はその言葉だけは覚えておくことにした。
タカゴウの体から放たれる魔力は、ますます強くなっていった。
一呼吸ごとに潮の満ち引きのような魔力波動を生み、空気に波紋を広げる。
俺は彼が何かを準備しているのを感じ取り、すぐに手元のダガーをすべて投げ、止めようとした。
ダガーは彼の周囲に広がる魔力の圧に触れた瞬間、あっさりと弾き飛ばされた。
「奥義・轟踏の雄羊!」
自分の家名を冠した奥義など、明らかに厄介に決まっている。
俺は慌てて後ろへ下がろうとした。
だがタカゴウは両手を地面につき、次の瞬間、砲弾のように俺へ突っ込んできた。
俺はダガーを投げ、途中で彼を撃ち落とそうとした。
タカゴウは地面を強く叩いた。
「ドォン!」
タカゴウの盾が地面に叩きつけられると同時に、巨大な衝撃波が前方半円状の範囲にあるすべてを粉砕した。
巨大な爆音と振動が俺へ襲いかかり、俺のダガーをあっさりと吹き飛ばす。
俺はできる限り横へ転がって避けるしかなく、どうにかぎりぎりでかわした。
衝撃波が過ぎ去ったあとでさえ、足元から余震が伝わってくる。
会場内の大地そのものが、かすかに震えていた。
「もう一発だ!」
タカゴウは一瞬たりとも止まらず、立て続けに攻撃を仕掛けてきた。
幸いシヴァーナの妨害がないおかげで、俺はタイミングを見計らい、タカゴウの頭上を跳び越えた。
着地の瞬間、俺は三本のダガーを投げ、タカゴウの背中を狙った。
だがタカゴウの反応も速かった。
振り返ると同時に、すべてのダガーをまた弾き飛ばした。
それだけではない。
同じ軌道の陰に、俺はさらに三本のダガーを仕込んでいた。
タカゴウが盾を構えて防ぐなら、その隙に俺は煙の中へ身を隠せる。
タカゴウは俺の読み通り盾を掲げた。
しかし、それはただの防御ではなかった。彼は両足に力を込め、一気に俺の目の前まで迫ってきた。
「牡羊踏破!」
その速度は、俺の予想を少し超えていた。
俺はそのまま空中へ弾き飛ばされ、仰向けに地面へ叩きつけられた。
ぶつけられて頭がぐらつき、地面で息を荒げている俺を見て、タカゴウは明らかに上機嫌だった。
「立てよ。ゴキブリはしぶといんだろう?」
できることなら、もう少し休みたかった。
だから俺は口を開いた。
「お前はどうして、いつも自分が勝てると思ってるんだ?」
タカゴウは、俺が時間を稼ごうとしていることを理解していた。だが、答えるまでもないとでも言いたげに、少し呆れたように笑った。
「まだ分からないのか? これが貴族と平民の差だ!」
「たとえお前が平民の中では優れているとしても、血統の差は変えられない!」
タカゴウは、この大陸の誰もが知っている血統論を口にし、心の中で逆境を覆せると夢見る道化を嘲笑った。
「今のお前が多少うまくやれている気になっていても、あと二年もすれば、お前の血に宿る魔力は使い果たされ、ただの凡人に戻る。だが俺は、これからも進歩し続ける!」
「本当に思い上がってるな。みんながお前に付き合ってやってるのは、お前が貴族だからだ。お前の能力は、その貴族の地位にまるで見合ってない」
知っての通り、俺はそう簡単に怒る人間ではない。
だが、彼がこうも何度も何度も俺に絡んでくるのなら、こちらも口を慎む必要はない。
どうせ彼の師匠になるのだ。なら、今から教育してやってもいい。
タカゴウが最も得意とするはずの挑発も、自分に向けられた途端、彼は顔を真っ赤にした。
「次の一撃で終わらせてやる」
タカゴウは俺がまだ地面から起き上がらないうちに、手を掲げた。
俺は彼を見た。
まるで、自分がずっと象牙の塔に守られてきたことに気づいていない子どもを見るように。
「もう一つ、いいことを教えてやる。俺の両親は、どちらも無魔力者だ」
「何だと?!」
タカゴウは一瞬固まった。
彼がこれまで信じてきたいくつかの真理が、わずかに揺らいだ。
「お前たちが言うところの、魔畜だよ」
俺は微笑んで言った。
血統論を信じ切っている彼には、きっと受け入れがたいことだろう。
「今のうちに考えておけ。あとで俺に負けた時、この事実をどうごまかすのかを」
「貴様、よくも俺をそこまで愚弄したな!」
これで俺は、完全にタカゴウの逆鱗に触れた。
どうやら彼には、いわゆる家門の名誉だけではない理由があるらしい。
正直、彼を怒らせても俺に得はない。
だが、少しくらい気分よくなっても罰は当たらないだろう。
タカゴウは猛然と俺へ突っ込み、地面を力いっぱい叩いた
「魔力強化」
前に希珀と戦った時と同じように、俺は空間魔力で自分の速度と反応を強化した。両手両足に同時に力を込め、間一髪で彼の攻撃をかわす。
彼は再び突進し、俺の姿を探した。
だが俺の速度は、さっきまでとは比べものにならない。彼がたどり着く頃には、俺はすでに煙塵の中へ紛れていた。
俺は彼との距離を保ち、煙の中で見え隠れした。
タカゴウはほとんど狂ったように地面を叩き続けた。
それは彼の攻撃手段であると同時に、防御手段でもある。
俺が投げたダガーは、すべて彼の衝撃波に弾き飛ばされた。
一度でも衝撃波に巻き込まれれば、俺は確実に動きを制限され、彼の狂暴な攻撃で重傷を負うことになる。
だが、こういう単調で退屈な攻撃は有効である反面、規則性を見抜かれやすい。
攻撃し続けてもまるで効果がないように見え、タカゴウもだんだん焦りを覚え始めた。
負けるかもしれないという不安が、知らず知らずのうちに彼の心へ忍び寄る。
彼は、俺の両親が本当に無魔力者だとはどうしても信じられなかった。だが、俺がなぜそんな冗談を言うのかも分からなかった。
もし本当に、あいつが魔畜の子だとしたら――
タカゴウはそれ以上考えることができず、意識をすべて攻撃へ向けるしかなかった。
「そこだ!」
タカゴウは、次に俺が現れる位置を予測し、両手で同時に地面を叩いた。衝撃波が彼の正面一帯を覆い、前方の煙までまとめて吹き飛ばした。
だが、それでも目の前には何もなかった。
「ちっ」
タカゴウは俺を見失い、空気中の魔力と振動を探りながら、俺の次の攻撃を待つしかなかった。
「ここか?」
タカゴウは背後の死角で、ダガーが空気を切り裂く気配を感じ取った。
すぐさま振り返り、盾を構えて前へ突っ込む。
だが、どれほど彼が速くても、そこに到達した時には、前方には誰もいなかった。
突然、左右と背後の厄介な角度から、三本のダガーが立て続けに射出された。タカゴウが盾を使おうと、片手の衝撃波を使おうと、落とせるのは二本までだった。
「小細工を!」
タカゴウは両手を同時に地面へ叩きつけた。
「ドンッ!」
タカゴウを中心に円形の衝撃波が広がり、全方向からのダガーをまとめて弾き飛ばした。
第一波の攻勢をタカゴウがさばくと、さらに三本のダガーが三方向から彼へ飛んできた。
彼は再び両手で地面を震わせた。
だが今度はさらに速く、衝撃波の威力も大きく、届く範囲も広かった。
タカゴウはすべての反撃を完璧にさばいただけでなく、衝撃波によって周囲の煙も大半を吹き散らした。もはや身を隠すには使えない。
最後の巨大な円形の爆発波とともに、ダガーはすべて四方へ弾き飛ばされ、それ以上、ダガーは飛んでこなかった。
タカゴウは少し得意げに周囲を見渡した。
この程度の速さで俺の隙を突こうとするなど、甘すぎる。
近くに宇の姿もない。
正面から自分と向き合うのが怖くて逃げたのか? 鼠のように?
不意に、彼の直感が警告を発した。
彼は空気中の振動を慎重に感じ取った。だが左右も背後も、水を打ったように静まり返っていた。
まさか。
タカゴウは空を見上げ、ようやく俺と目が合った。
さっき弾き飛ばされた二本のダガーを、俺は空中で正確に両手でつかみ取っていた。
体をひねり、そのまま一瞬で彼へ投げつける。
「戦技・飛刀撃!」
タカゴウは慌てて両手を上げ、対応した。
身体強化した俺が戦技で投げたダガーは、重く鋭い一撃になっていた。かすかに彼の両手を弾き開く。
俺はその隙を逃さなかった。
隙間を狙い、足で最後の一本のダガーを蹴り飛ばす。
一撃。
タカゴウは全力で避けたが、それでも左肩甲骨に命中し、もう左腕を上げられなくなった。
「宇!」
タカゴウは俺の名を咆哮し、全身の魔力を右側の盾へ注ぎ込んだ。
盾に刻まれた半分の羊頭が、まばゆい光を放つ。
「戦技・牡羊インパクト!」
タカゴウは俺の落下点をつかんでいた。
黄金色の牡羊が、彼の奥義の力を帯びて、空中の俺へ突撃してくる。
前にここで痛い目を見ている以上、何も学ばないわけがない。
「ガシャララ……」
俺は彼のために、鉄扇に似た奇妙な武器を前もって用意していた。
俺は片側を握り、腕を空中で大きく一周させる。
鉄の扇骨が軸を中心に開き、端と端がつながって、金属の傘面のような形になった。
自由落下する俺は、その金属傘を体の前に構えた。
衝撃波が傘面を容赦なく引き裂く。
まるで台風の日の傘のように、タカゴウの目の前へ到達した時には、すでにぼろぼろになっていた。
彼は一撃でその傘面を粉々に砕いた。
俺はそのすぐ後ろから続き、一刀を彼の右肩へ突き立てた。
彼は振り向き、まだ反撃しようとしたようだった。だが俺は刀を彼の首筋に当てた。
「負けを認めろ。せめて体面くらいは保て」
「お前がどこの貴族の人間なのかを言え。そうすれば、すぐに負けを認める」
タカゴウは冷静さを保てなくなっていた。
もし今日、自分が魔畜の子に負けたのだとしたら、彼が長年信じてきた真理は、必ず揺らいでしまう。
「俺の両親が無魔力者であることは、疑いようのない事実だ」
タカゴウはもう耐えられず、再び暴れ出そうとした。
「宇!」
俺は一刀で彼の喉を斬った。
璨星瓶が音を立てて砕け、彼の命を守った。
ただ何より都合がよかったのは、血が彼の喉を塞いだことだ。
これで、彼の長話を聞かずに済む。




