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魔法パンク:平穏な学園生活を送りたいだけなのに、なぜか問題児美少女たちとパーティーを組まされました  作者: 音夢スリプ
第一章 虫ケラと一緒に、どうやって冒険者パーティをうまくやれるの?
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第21話 賭け

昼。

学生街で一番人気のレストランバー「Little Deer」は、休日の昼食時ということもあって、すでに人でいっぱいだった。

この店では金岩城きんがんじょう式の料理魔法りょうりまほうを使っているらしく、味にはかなり定評がある。


ただ、なぜか店内には妙なアロマまで焚かれているようだった。

店に入った瞬間、何とも言えない奇妙な香りが鼻をつく。


「「かんぱーい!」」


二日前まであれほど揉めていた連中も、俺が飯をおごると言った途端、まるでその時の気まずさを忘れたかのように、楽しそうな空気の中でグラスを掲げた。

いくつものグラスがぶつかり合い、場の空気は珍しくにぎやかになった。


「隊長」


希珀が突然、俺を呼んだ。

その声で、料理を楽しんでいた俺は現実へ引き戻された。


「どうした?」

俺は笑って尋ねた。


希珀は首を横に振った。


「ただ、申し訳ないと思った」

「隊長を、がっかりさせた」

「そんなことないけど」

「私たちみたいな足手まといがいなければ、隊長はきっとB+どころではなかった」


希珀は真剣な声で言った。


「それでも、もう一度だけ私たちを信じてほしい」


その時になって、俺はようやく彼女の言いたいことを理解した。

今のこの空気は、あまりにも解散前の食事会に似ていたのだ。


「俺はB+という成績に不満があるわけでもないし、お前たちの誰かを責めているわけでもない」

「何か問題があるなら、ゆっくり解決していけばいい」

「どうせ遺跡探索いせきたんさくまでは、まだ一か月ある」


とはいえ。

彼女たちの問題は、もう解決できないくらい大きい気もする。


もちろん、そんなことは口が裂けても言わない。


「隊長!」


ヘルガが感動したように声を上げた。

「私、ずっと言ってましたよね! 宇さんはいい人だって!」


それはそれで、ほかの連中が俺のことをどう言っていたのか気になる。


「こほん」


ミュイレンが軽く咳払いをした。

それから、少しもじもじしながらヘルガの方を見る。


「あの……この前言ったこと、ごめん」

「私、言いすぎた」

「ピギー子なんて言うべきじゃなかった」

「私も悪かったです」


ヘルガも素直に頭を下げた。


「ベトベトンなんて呼ぶべきじゃありませんでした」


口ではきちんと謝っている。

ただし体は、いつも通り正直だった。

彼女はミュイレンから一番遠い席に座っている。


そして、この時になって俺はようやく気づいた。

さっきからずっと感じていた奇妙な香りは、どうやら店の香りではない。

俺の隣に座っているミュイレンから、絶えず漂っているものだった。


彼女はおそらく、自分でも原因の分からない臭いを隠すため、かなりきつい香水を使っているのだろう。

というより、今の彼女から漂う匂いは、むしろ余計に耐えがたいものになっていた。


全員が一通り謝り終えると、自然と視線は、ただ黙々と飯を食べているアパシャへ向かった。


ミュイレンが慌てて肘で彼女をつつく。

全員に見られていることに気づいたアパシャは、食べかけの骨付き肉を置き、大きな声で言った。


「分かっておる、分かっておる!」

「最後にわしがあの小僧に騙されたせいで、わしらは負けたのじゃ」

「こうしよう。飯を食い終わったら、おぬしら一人ずつ、わしを殴って気を晴らすがよい」

「わしは絶対にやり返さん」


ミュイレンといい。

アパシャといい。

最近の連中は、みんなそうやって問題を解決するのか?


「みんな腹を割って話せたことだし、もう一度、最初から仲よくやっていこう」

「かんぱーい!」


「「かんぱーい!」」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


食事を終えたあと、帰り道の空気はかなりよくなっていた。


「ねえ、最近、瓦版で連載が始まった小説、読んだ?」


「何作か読んだが、特に面白いものはなかったのう」


「『飛飛は飛べない』っていう注目株の作者がいてさ、最近『幼なじみ男子同士、地下で秘密恋愛』っていう作品を連載し始めたの」

「すっごく、すっごく面白いから、時間があったら読んでみて」


ミュイレンは興奮気味にアパシャへ勧めた。どこか含みのある言い方だった。


「え? 今の聞こえませんでした。何てタイトルですか? 私も読みたいです!」


ミュイレンは指を左右に振った。

「だめだめだめ。こういうのは、ヘルガにはまだ早い」


「私は『殺して道を成す』が好き」

希珀も、いつもの淡々とした口調で会話に加わった。


「あ、隊長も『殺して道を成す』好きだったよね?」

ミュイレンは、以前俺がアイマスク代わりに使っていた本を思い出したらしい。


「退屈しのぎに少し読んだだけだ」


俺も、思ったことをそのまま口にした。


「なんというか、主人公が少し現実離れしすぎていて、途中で読むのをやめた」

「いくら何でも、一人で一門を丸ごと壊滅させるのは大げさすぎる」


そんな話をしているうちに、俺たちは寮区へ戻ってきた。

だが、門の前には人だかりができている。


何人かは、騒ぎを見るなり興味津々で人の輪に近づこうとした。

俺はため息をつき、仕方なくその後を追った。


周囲の学生たちの話しぶりからすると、どうやら誰かが自分に割り当てられた学外寮に不満を持ち、

俺たちのいる学内ヴィラ区画へ移りたいと要求しているらしい。


「規定に従って寮を割り当てただと?」

「何の規定だ。あるなら出してみせろ」


この声。

嫌というほど聞き覚えがある。


「申し訳ありません」

生徒会の一人が、タカゴウをおそるおそるなだめていた。

「こちらにも確かに規定があります。生徒会の指示に従ってください」


タカゴウは冷笑し、完全に開き直った。


「俺は動かない」

「それで、お前らに何ができる?」


「なんであんなに理不尽なんだ……」


野次馬の中で、誰かが小さくつぶやいた。

だが、その声はタカゴウに聞こえてしまった。

彼はすぐに振り返り、声の主を探す。


「誰だ!」


全員が凍りついた。

タカゴウの視線が、一人一人の顔をなめるように通り過ぎていく。


まずい。

嫌な予感がした俺は、急いで背を向けて立ち去ろうとした。


だが、やはり一歩遅かった。


「止まれ!」

タカゴウが俺に怒鳴った。


彼は大股でこちらへ歩いてくる。

ほかの学生たちはタカゴウが近づくのを見るなり、慌てて後ろへ下がった。

その瞬間、俺だけが見事にさらし者になった。


どうしようもない。

俺は振り返り、笑顔でタカゴウに挨拶する


「奇遇だな」

「こんなところで会うなんて」


もちろん、タカゴウもこれが偶然でないことくらい分かっている。

彼は俺を見て、それから俺の背後の家を見た。

そして、性悪な笑みを浮かべる。


「まさか、お前もここに住んでいるのか?」


俺は気まずそうに頬をかいた。

タカゴウは一気に激昂した。

俺の右胸、家紋かもんのない制服のあたりをつかみ、生徒会の方へ向かって怒鳴る。


「どうしてこんな魔畜まちくの役立たずまで、ここに住めるんだ?」


どうしても何も。

俺は堂々と裏口を通った。

あいつらも堂々とお前に嫌がらせをしている。

何も不思議なことはない。


生徒会の人間は、タカゴウの家の後ろ盾を恐れながらも、なお口を開いた。

「平民出身の生徒をそのように侮辱するのは、校則違反です」


家紋を持たない平民を“魔畜”と呼ぶのは、明らかに侮辱的な差別だった。


「寮はすべて統一して割り当てられています」

「異議があるなら、生徒会へ正式に申し立ててください」

「ですが、あなたのように強引に住居を占拠する行為は、絶対に認められません」


「なら簡単だ」

「この役立たずを追い出して、その家を俺に明け渡せばいい」

タカゴウは俺の服を引っ張り、生徒会役員の前へ突き出した。


「この役立たずのパーティーは、Aランクにも届いていない」

「こいつにここへ住む資格はない」


タカゴウが生徒会役員を困らせている、その時だった。

俺の服をつかんでいた彼の手首を、誰かの手がつかんだ。


「放して」


彼が振り返る。

そこにいたのは、彼の手首をつかんでいた希珀だった。

タカゴウが何か言い返そうとした瞬間、希珀はもう一度、冷たく告げる。


「放して」


今度は、タカゴウも希珀の無表情を見て、なぜか一瞬ひるんだ。

彼は俺をきつくにらみつけ、ようやく手を離す。

そして、彼の視線は希珀の胸元の家紋へ落ちた。


龍星城りゅうせいじょうの後継者も、ここまで堕ちたか」


タカゴウは、どうやら希珀の家柄について多少知っているらしい。


龍星城公爵りゅうせいじょうこうしゃくも、それなりに名のある人物だろう」

「自分の後継者が毎日こんな役立たずどもとつるんで時間を浪費していると知ったら、どう思うだろうな」


希珀に直接手を出せないと見るや、タカゴウはまた俺へ視線を戻した。


「分かったなら、この別荘を明け渡せ」

「そうすれば、お互いメンツが立つ」


タカゴウは俺が何も答えないのを見ると、続けて言った。


「ああ、忘れていた」

「ケダモノの家には、メンツなんて言葉もないんだったな」


「さっきから“ケダモノ”だの“役立たず”だの」

ミュイレンが口を開いた。

「まるで、自分ならうちの隊長に勝てるみたいな言い方ね」


「そうです、そうです!」

ヘルガもすぐに同調する。


タカゴウがまた俺を侮辱したのを聞いて、ミュイレンはついに俺の代わりに言い返した。

気づけば、みんなも俺の周りに集まっていた。


「今日の運勢を見ずに外へ出たのが間違いだったな」

「どうやら今日は、役立たずが群れで出歩く日らしい」


タカゴウは、俺たちがそろっても少しも引く気配を見せなかった。

そう言いながら、彼は何かの匂いに気づいたように鼻をひくつかせた。

そして、視線をミュイレンに向けた。


「さすがは発情兎の血筋の女だ」

「体からも、それらしい匂いがする」


ミュイレンは歯を食いしばった。

それでも、最後には怒りを飲み込んだ。


「あんたは、たまたま一回私たちに勝っただけでしょ」

「それでよく家を明け渡せなんて言えるわね」


「たまたま?」

タカゴウは怒りを通り越して笑った。


「どうやら、前回はまだ痛みが足りなかったらしいな」

「なら、もう一度お前らを叩き潰して、納得させてやる」


「受けて立ちます! 誰が怖がるものですか!」


ヘルガが小さな拳を振り回して、今にも飛び出しそうになった。

だが、希珀が手を伸ばして彼女を止める。


「いいだろう」

タカゴウの笑みが、さらに深くなった。


「一週間後の今日。場所は同じくC号闘技場シーごうとうぎじょう

「もう一度戦う」

「お前らが負けたら、この別荘からおとなしく出ていけ」

郊外こうがいの小屋にでも詰め込まれていろ」

「そこがお前らの居場所だ」


どうやら彼は、今自分が住んでいる場所に本気で不満があるらしい。


「じゃあ、あんたが負けたら?」

ミュイレンが聞き返した。


「何が望みだ?」

タカゴウはミュイレンをからかうように見た。

彼の目的は、すでに達成されている。


「そうね……」


ミュイレンは考え込むふりをした。

それから、アパシャを見る。

「アパシャ、誰かにご飯を運ばせたり、世話をさせたりしたくない?」


アパシャは顔を上げ、しばらく真面目に考えた。

「それは悪くないのう」


ミュイレンはうなずき、タカゴウへ向き直った。


「じゃあ、もしあんたが負けたら、私たちに弟子入りしなさい」

「暇な時は、立派なお師匠様たちのお世話をすること」

「私たちは、時間がある時に礼儀作法を教えてあげる」

「どう?」


ミュイレンの悪知恵は、本当にこういう時だけよく働く。

彼女は、タカゴウのプライドの高さを正確に見抜いていた。

その一言は、実際に彼を数秒ほど迷わせた。


だが、タカゴウがここで負けを認めるはずもない。

「いいだろう」


彼は冷笑した。

「ただし、その代わり、お前たちが負けたら――」


彼は俺を指さした。

「こいつは大通り(おおどおり)で三日間立ちっぱなしだ」

「通りかかる全員に向かって、こいつにこう言わせる」

「『俺は魔畜の家に生まれた薄汚いガキです』とな」


ミュイレンは、俺とタカゴウの過去の因縁を知らない。

だが、今はもう完全に引けない勝負になっていた。

受けて立つ以外の道はない。


「いいわ」

ミュイレンは笑った。


「一週間後、逃げないでよ」


「お前らこそ」

タカゴウは鼻で笑った。


「その時になって、怖じ気づくなよ」


そして彼は、生徒会の人間に顔を向けた。

「これなら規定違反じゃないな?」


生徒会の人間は、ようやくこの疫病神から解放されると知り、内心こっそり胸をなで下ろした。

「学生同士の合意であれば、寮の交換は認められています」


タカゴウは、自分の欲しかった答えを聞いた。

最後に俺たち全員を一瞥してから、フンと鼻を鳴らして去っていった。


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