第10話 最初のメンバー?
パーティー募集日の朝。
星月学の戦闘パーティー募集イベントは、学内にある二本の大通りで行われていた。
募集期間はすでに後半に入っている。
にもかかわらず、意外なことに、通りの空気は募集開始直後よりもむしろ賑わっているように見えた。
理由は簡単だ。
募集期間の前半、ほとんどの学生は一流の強豪パーティーのブースへ押し寄せた。
一方で、中堅以下のパーティーは、一流強豪のマタイ効果に押し潰され、閑古鳥が鳴いていた。
そして今。
大量の学生が強豪パーティーに断られたことで、ようやく彼らも焦り始めた。
中堅以下のパーティーを見比べながら、少しでもましな行き先を探しているのである。
こうして、中堅以下のパーティーにも、自分たちの戦場がやってきた。
実力そのものを売りにできない以上、各パーティーは工夫を凝らし、自分たちが他とどう違うのかを必死にアピールするしかない。
まず、ブースの基本装備は上部に掲げられた横断幕だ。
そこには、パーティーが入念に選んだ名前やスローガンが書かれている。
文字の形、色、装飾の方向性だけでも、それぞれのパーティーの個性がよく表れていた。
支柱には、そのパーティーが求めている職種や条件が貼り出されていることも多い。
テーブルには、たいてい鮮やかな色のクロスがかけられていた。
通りに面した側には、パーティーの紋章が描かれている。
中には、クロスの縁に房飾りまでつけて、高級感を演出しようとしているパーティーもあった。
テーブルの上には、凝ったデザインの紹介ポスター。
テーブル下の空間も無駄にはしない。
そこに小さな贈り物やぬいぐるみを隠しておき、通りかかった学生に配って足を止めさせるパーティーもある。
とにかく、賑やかだった。
もちろん。
そんな賑わいは、俺にはまったく関係ない。
募集を続けているパーティーの数が減ったことで、残ったパーティーはほとんど一方の大通りに集中していた。
そしてもう一方の通りは、俺が静けさを満喫するための楽園となった。
隣の通りの喧騒など、ここまでは少しも届かない。
その誰もいない通りの片隅に、俺が丹精込めて設計したブースが置かれていた。
まず、横断幕は当然いらない。
目立ちすぎる。
俺はさっさと取り外し、二本の寂しげな支柱だけを残した。
テーブルにかけてあるのも、ごく普通の、普通すぎるほど普通のクロスだ。
これは二日前、晦朔の威圧に負けて俺のパーティーを抜けた元メンバーの家へ金を取り立てに行った時、ついでにもらってきたものである。
最初、彼はあまり乗り気ではなかった。
しかし俺が情に訴え、理を尽くして説得したところ、最後には感動して譲ってくれた。
決して、「金を返さないなら窓から放り投げるぞ」などという恐ろしい脅しはしていない。
断じて、していない。
テーブルの上には、白黒の紙が数枚、まばらに置かれている。
そこには、歪んだ字で基本的なパーティー紹介と募集条件が書かれていた。
宇の小隊
リーダー:宇。
所属:遺跡考古学科。
測定成績:A-。
魔力:B。
元素親和力:C。
精神力:A。
身体強度:B。
戦技:A。
性格特徴:支配欲が強く、メンバーにはリーダーの指示への無条件服従を求める。
現在、メンバー数名を募集中。
条件:
一、魔力測定において任意の単項目がS、または総合成績がA以上であること。
二、任意の単項目がC+以下でないこと。
三、知能が正常で、服従性が良好であること。
詳細は面談にて。
条件を満たさない者は面談不可。
俺の実力は低い。
だが、メンバーへの要求は高い。
それぞれのチラシは、誠意を示すために俺が直筆で書いた。
もっとも、俺の字はもともとかなり汚いので、完全に読める人間はそう多くないだろう。
最後の仕上げは、このパーティーに俺自身の名前をつけたことだ。
宇の小隊。
たしかに少し自意識が強い感じはする。
だが、人を追い払えるなら、どんな犠牲も払う価値がある。
ブース全体の配置は、俺の専門を参考にした。
名づけて、遺跡風。
簡単に言えば、どこかのパーティーが募集を終えたあと片づけ忘れたのか、あるいは関係ない誰かが勝手にこの机を占拠しているのか、そんな印象を与える作りである。
その印象を確実にするため、俺は椅子すら持ってこなかった。
ここで本当に募集が行われているなどと、誰かに誤解されては困る。
そして俺本人は、テーブルの後ろにある花壇に寝転がっていた。
顔には本を一冊かぶせている。
睡眠中だ。
誰が、俺とこのブースの関係を見抜けるというのか。
俺はただの睡眠不足な、偶然通りかかった一般学生である。
俺が「よりメンバーを集めやすくなるように」と、晦朔は毎朝、夜が明ける前から俺をベッドから叩き起こしてブースに放り出してくる。
その早起き根性を、もっと別のことに使えないのだろうか。
わざわざ俺と張り合うために使うとは。
本当にご苦労なことである。
俺の努力の甲斐あって、ここ数日、俺のブースには見事に誰も寄りつかなかった。
すべて俺の予想通りだ。
この数日、晦朔の報復のような早起きには苦しめられている。
だが、勝利はすでに目前だった。
今日も俺は、いつも通り花壇に寝転がって休んでいた。
半分眠りかけた意識の中で、少し場違いな声が聞こえてくる。
「あの……すみません」
誰かが俺のそばにしゃがみ込み、起こそうとしているらしい。
俺はそのまま寝たふりを続けた。
すると、彼女の声が少し大きくなる。
「すみません。起きてますか?」
どうやら、彼女を追い払わない限り、この難関は突破できないらしい。
俺は今起こされたばかりのふりをして、身体を起こし、大きくあくびをした。
「ふぁ……あ」
「どうした?」
彼女は、黒に近い深緑色の髪と瞳をしていた。
髪は斜めのポニーテールにまとめられている。
制服の上着を腰に巻き、小さくて可愛らしい鞄を背負っていた。
顔立ちは、少し可愛い。
よく見ると、薄く化粧をしているようにも見える。
俺がようやく起きたのを見ると、彼女はすぐに二歩ほど後ろへ下がった。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃって」
彼女は俺を起こしたことを少し申し訳なく思っているらしく、丁寧な口調で尋ねてきた。
「道を聞いてもいいですか?」
「いいよ。どうぞ」
俺も友好的に答える。
「ここに宇の小隊っていうのがあるって聞いたんですけど」
彼女は周囲を見回した。
「ブースも、担当の人も見当たらなくて」
「パーティー募集なら、今はもう別の大通りに集まってるはずだよ」
俺は自信たっぷりに、堂々と答えた。
「そっちに行って探した方が、見つかる可能性は高いと思う」
俺は礼儀正しく、彼女を間違った道へ案内していた。
俺のあまりにも断言する態度に、彼女も一瞬、自信をなくしたらしい。
「ここだと思ったんだけどな……」
小さくそう呟く。
それでも最後には、俺に向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。もう少し探してみます」
「どういたしまして!」
彼女を追い払ったあと、俺は再び横になった。
しかし今回は、胸の奥にうっすらと嫌な予感が残った。
そして案の定。
昼前になって、また聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「すみません!」
俺はもう一度起き上がり、彼女に向かって太陽のような笑顔を浮かべる。
「ほかに何か手伝えることでも?」
「あの……」
女子生徒は、二度も俺を邪魔していることにさらに恐縮しているようだった。
ただ、この通りにはほかに道を聞けそうな相手もいない。
「管理の人に聞いたら、宇の小隊はやっぱりこの通りにあるみたいで」
「見かけませんでしたか?」
「そうか」
俺はわざとらしく考え込んだ。
「この通りの向こう側にも、いくつかパーティーがブースを出してるって聞いたな」
「この通りにあるなら、たぶんあっちじゃないか?」
俺は街路の反対側を指差した。
今度の女子生徒は、さっきほど俺を信じてはいなかった。
だが、ほかに手段もないらしい。
「分かりました」
「もう一度、あっちを見てきます」
彼女は半信半疑のまま、ブースから離れていった。
この方法で長く時間を稼げないことは、俺にも分かっていた。
考えてみれば、そろそろ昼食の時間でもある。
なら、先に昼飯を食べに行こう。
彼女と鉢合わせるのも避けられる。
ついでに、俺が書いたチラシも数枚回収しておいた。
証拠を残しておくわけにはいかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※
午後。
腹を満たした俺は、ついでに学内をしばらく散歩した。
そろそろ戻らないと晦朔に怒られそうだと感じたところで、ようやくゆっくりブースへ戻る。
そこで俺は、思いもよらない光景を目にした。
午前中のあの女子生徒が、ブース脇の花壇に座っていたのだ。
まさか、昼食も食べずにずっとここで待っていたのだろうか。
とはいえ、今さら避ける方法もない。
俺は腹を括って歩いていった。
彼女は俺がブースへ戻ってきたのを見るや、すぐに立ち上がってこちらへ来る。
逃げられないと悟った俺は、何気ないふりをして声をかけた。
「よう」
「また会ったな」
「見つかったか?」
今回の女子生徒は、明らかに少し怒っていた。
彼女は俺のブースを指差す。
「これが宇の小隊のブースですよね?」
「違う」
俺はきっぱりと言い切った。
ここで認めたら、午前中の俺の努力が全部無駄になる。
女子生徒は反論しなかった。
代わりに、「待っていてください」とでも言いたげな顔で鞄の中を探り始める。
俺には、彼女が何を企んでいるのか分からなかった。
彼女が、あの見覚えのある小さな珠を取り出すまでは。
中には、青い魔法陣が封じ込められている。
写真珠だ。
彼女はそれを俺の前に掲げ、魔力を流し込んだ。
一枚の写真が俺の目の前に展開される。
そこに写っていたのは、このブースだった。
横断幕のないテーブル。
このテーブルクロスの種類。
さっきまで置いてあった数枚の草稿紙。
そして、その後ろの花壇。
花壇には、見覚えのある人影が寝転がっている。
「見てください」
女子生徒は怒った顔で俺の鼻先を指差し、それから俺の手にある本を指した。
「この横断幕のない机」
「このテーブルクロス」
「さっきまで置いてあった草稿紙」
「それに、後ろで寝ていた人」
「顔にかぶせてる本まで同じです!」
終わった。
まさか晦朔がこんな手まで使ってくるとは。
俺が油断している隙に写真を撮り、しかもこんな高価な写真珠をこの女子生徒に渡すとは。
これでは、さすがに言い逃れの余地がない。
空気に残ったのは、ただただ気まずさだけだった。
だから子供には、嘘をつくなと教える必要があるのだ。
「おお――!」
俺はいきなり大声を上げ、ようやく思い出したという顔をした。
女子生徒の肩がびくりと跳ねる。
「そうか、君が探していたのは宇の小隊だったのか!」
「さっきは聞き間違えた。悪い悪い」
「ここが宇の小隊だ」
何をどう聞き間違えたらそうなるのか。
そこは俺にも分からない。
「じゃ、椅子」
俺は一瞬で別人のような顔になり、偉そうに彼女へ命じた。
彼女はもともと俺に怒っていた。
そこへ、俺が何事もなかったかのように命令し始めたものだから、顔が一瞬で赤くなる。
まさに爆発寸前。
その直前、彼女は何かを思い出したように目を閉じ、深く息を吐いた。
そして、俺のために椅子を探しに行った。
ここまで俺に弄ばれたうえに、さらにこき使われるとは。
さすがに少し可哀想になってきた。
ここまでされても我慢するなんて。
もしかして、晦朔に何か弱みでも握られているのだろうか。
あとで遠回しに聞いてみよう。
もし本当なら、彼女に代わって俺が正義を訴えてやろう。
もちろん、相手は晦朔である。
女子生徒は椅子を運んでくると、重く音を立てて置いた。
俺はすぐに「ん?」と低く声を出す。
彼女は不服そうにしながらも、椅子をきちんと直した。
俺は椅子に腰を下ろす。
彼女の測定結果は、すでにテーブルの上に置かれていた。
俺はそれを手に取り、じっくり確認する。
職業:魔法使い。
属性:火。
総合評価:A-。
魔力:A-。
精神力:A+。
元素親和力:B。
魔法:B+。
評語:魔法効果は優秀。ただし使用時の熟練度に不足あり。
次のページには、魔法使い職の詳細評価が載っていた。
全体的には悪くない。
だが、どうやら俺の募集条件を満たしているようには見えない。
俺はわずかに視線を上げ、彼女が腰に巻いた制服の上着を見た。
右側にある紋章が、かすかに見える。
雪原を走る兎。
この家は、そこまで名高い家門ではない。
しかし、家にまつわる噂話や逸話は異様に多い。
俺たちの業界では、それなりに名が知られている。
その家に関するいろいろな話を思い出すと、少し笑いそうになる。
彼女本人は、あの話をどれくらい知っているのだろうか。
「ねえ」
女子生徒は遠慮なく俺を制止した。
「人のスカート見ながらにやにやしないでください」
「ごほっ、ごほっ」
俺は慌てて咳払いし、気まずさをごまかした。
「測定結果は悪くない」
「でも、募集条件を満たしている部分が見当たらないな」
女子生徒は、どうやら最初から準備していたらしい。
測定報告書の隅を指差した。
身体強度:S。
「ん?」
俺は結果を見た。
それから彼女の職業を見た。
なるほど。
さっき気づかなかったのも無理はない。
誰が、魔法使いの一番誇れる項目が身体強度だと思うのか。
俺の頭の中に一つの推測がよぎる。
もしかすると、彼女は何らかの異種族なのかもしれない。
種族特性によって、普通ではない身体能力を持っているのではないか。
そこまで考えたところで、俺は深く考えず、つい口に出してしまった。
「じゃあ、君は人間なのか?」
「あなたこそ人間じゃないと思います」
女子生徒は怒りを帯びた声で即座に言い返した。
俺は反論できなかった。
考え直してみる。
北方の家は、保守的なところが多い。
彼女の家も、「女の子は魔法を学ぶべきだ」という考えに囚われ、本人の才能を無視してきたのかもしれない。
俺の頭の中では、すでに父は慈しみ、娘は孝行する壮大な家庭劇が幕を開けていた。
「それで、私は条件を満たしていますか?」
女子生徒は、自分にとって一番大事なことを尋ねた。
その声からは、さっきまでの勢いが少し消えていた。
「この結果は預かっておく」
俺は報告書を手元に置いた。
「君は帰って連絡を待て」
「えっ?」
意外な返事に、彼女は焦ったようだった。
「条件を満たしていれば、必ずこのパーティーに入れるって聞いたんですけど」
彼女には、何か言いづらい事情があるらしい。
普通に考えれば、彼女の総合評価はA-にすぎない。
だが細かく見れば、基礎はかなりしっかりしている。
努力すれば、中堅上位のパーティーに滑り込むことも不可能ではないはずだ。
彼女がなぜ、そこまで俺のところに来たがるのか。
俺も少し気にはなった。
しかし今、もっとも厄介なのは、彼女が確かに俺の条件を満たしているという事実である。
しかも俺は、晦朔に必ず受け入れると約束してしまった。
ならば、使うしかない。
俺の最後の奥義。
引き延ばし作戦だ。
「そんなに簡単だと思うか?」
俺はひどく真面目な顔で言った。
「どこの馬の骨とも知れない奴まで入れるなら、俺のパーティーなんてとっくに満員だ」
「それに、君が満たしている条件を見てみろ」
「それ、君の職業と少しでも関係あるのか?」
「胸に手を当てて考えてみろ」
「この行為は、抜け道を使っただけと言われても仕方ないんじゃないか?」
女子生徒も、その可能性は考えていたらしい。
唇をきゅっと結び、反論できずにいる。
「もちろん」
俺は話を続けた。
「まったく可能性がないと言っているわけじゃない」
「面接が終わってから判断する」
「えっ?」
彼女はまたしても、理解が追いつかないという顔をした。
「今のは面接じゃないんですか?」
「当然違う」
俺は真顔で答えた。
「こちらから正式な面接通知を出す」
「一次面接に通ったら、副リーダーによる二次面接」
「最後にリーダーの最終面接がある」
「それをすべて通過して、初めて正式な加入許可が出る。」
この手続きの複雑さは、明らかに彼女の想像を超えていた。
そもそも、この設計自体、締切間際の焦りを利用して、彼女に諦めてもらうためのものだ。
もちろん、最後には彼女の申請を認めるつもりではある。
だが、彼女がほかのパーティーを見つけたあとで、わざわざ俺のところへ戻ってくる可能性は限りなく低い。
うまくいけば、俺はあとで晦朔にこう言える。
「いやあ、いい人材を見つけたんだけどな」
「残念ながら、ほかのパーティーに先を越された」
晦朔の条件を満たしつつ、パーティーに誰もいないという事実も守れる。
計画通り!
女子生徒は唇を噛み、何かを考え込んでいた。
「ほかに質問はあるか?」
俺はできるだけ温和な顔を作った。
「言ってくれれば、できる限り答える」
心の中では一刻も早く帰ってほしかった。
だが今は、彼女を落ち着かせる必要がある。
晦朔に告げ口しようなどと思われては困るからだ。
やがて女子生徒は、ようやく勇気を振り絞るように口を開いた。
「説明、ありがとうございます」
「実は、加入にあたって一つ条件があります」
「それが無理なら、私はこれ以上ご迷惑をおかけしません」
なるほど。
彼女は最初から、俺が彼女の申請を断れないことを利用し、自分の条件を呑ませるつもりだったらしい。
彼女も理解している。
俺の言った面接手続きをまともに進めれば、確実に募集期間の最後まで引き延ばされる。
そこで拒否されれば、彼女は生徒会の割り振りに従うしかなくなる。
だから今、彼女は自分にとって最も重要な条件を先に提示しようとしているのだ。
そしてその条件こそが、彼女がほかのパーティーに入れない主な理由なのだろう。
俺は「どうぞ」と手で促した。
好きに言え。
俺がそれを呑むようなら、今日から犬を名乗ってやる。
女子生徒は俺の目を見て、真剣な声で言った。
「今後、訓練は基本的に一人で行いたいです」
「必要な場合を除いて、魔法訓練を誰にも見られたくありません」
「パーティー単位での戦闘には参加します。でも、それ以外は単独行動を希望します」
「遺跡探索中も、できれば一人で動かせてください」
「それから、寮でも一人になれる場所が欲しいです。私の部屋には誰も入らないでください」
「もし勝手に入ってきた場合は……」
彼女は少しだけ言い淀んだ。
「実力行使も含めて、自衛させてもらいます」
よし。
今日から俺は犬である。
女子生徒はそれだけの条件を一気に言い終えると、呆然としている俺を見た。
どうやら今回も駄目だと思ったらしい。
彼女は苦笑した。
「大丈夫です」
「私の条件が特殊なのは分かっています」
「お時間を取らせてしまって、すみませんでした」
「もう邪魔はしません」
「連絡もしなくて大丈夫です」
そう言って、彼女は背を向けようとした。
「待て」
俺は慌てて立ち上がり、彼女を呼び止めた。
彼女がほかのパーティーに歓迎されない理由は、すでに明らかだった。
どんなパーティーだって、ほとんど訓練に参加せず、集団行動にも積極的でないメンバーを抱えたがるはずがない。
それはほとんど、籍だけ置いて給料をもらう幽霊部員のようなものだ。
だが、俺は違う。
俺が一番必要としているのは、まさにそういう幽霊部員である。
女子生徒は俺が呼び止めたことに驚いたようだった。
俺は彼女が何か言うのを待たず、すぐに彼女から受け取った書類の最後のページを開いた。
そして、加入申請書に華麗なサインを入れる。
「おめでとう」
「今日から君は、宇の小隊のメンバーだ」
「えっ?」
さっきまで散々弄ばれていたせいか、彼女は事態があまりにも順調に進んだことをすぐには信じられないようだった。
「君の条件はすべて認める」
「訓練でも遺跡探索でも、君は一人で行動していい」
彼女が今、間違いなく驚いていることは分かっていた。
だから彼女が質問を始める前に、彼女が一番欲しがっている答えを先に与えた。
ほかの人間にとって、彼女は手に余る厄介者かもしれない。
だが今の俺には、晦朔を黙らせるために現れた救いの女神にしか見えなかった。
「面接は……?」
女子生徒はまだ半信半疑だった。
「必要ない」
俺はあっさり言った。
「俺がリーダーだ」
「そしてこのパーティーには、今のところ俺しかいない」
もう加入を認めた以上、これ以上嘘をつく必要もない。
「何も聞かなくていいんですか?」
女子生徒は、俺の非常識な対応をどう解釈すればいいのか分からないようだった。
初めて、自分の選択に疑問を抱いたのかもしれない。
もしかして、とんでもない泥舟に乗ってしまったのではないか。
「俺は自分のメンバーを無条件に信頼する!」
俺は胸を張って断言した。
女子生徒はまだ迷っていた。
それでも、ここまで来たらもう引き返せないと思ったのだろう。
おずおずと戻ってくる。
「ほかに質問はあるか?」
俺は加入申請書をちらりと見た。
「ええと……アパシャさん」
「あの、宇さん」
“アパシャ”は、もじもじしながら鞄から一枚の紙を取り出した。
「こっちの加入申請書に、サインしてもらえますか?」
「ん?」
俺は彼女が差し出した申請書を見た。
そこに書かれていた名前は、ミュイレン。
もう片方の手で測定報告書を確認すると、その隅にも同じ名前が書かれていた。
ミュイレン。
「さっき私が来た時、この申請書はもうここに置いてあったんです」
ミュイレンは説明した。
「提出用の書類なのかと思って、その上に測定報告書を重ねてしまって……」
「じゃあ、アパシャって誰だ?」
俺は素直に首を傾げた。
「わし」
その瞬間。
テーブルの下から、小さな手が伸びてきた。
そして電光石火の速さで、“アパシャ”の申請書を奪い取る。
うわああああああっ!?
俺は驚きのあまり、椅子ごとひっくり返った。




