第九話 池の底トロフィー(後)
浅川が角材型の端材をもって戻って来たとき、僕ときらりちゃんは一通りの片づけを終えていた。
校舎一階の工作室を借りて、僕らは作業にとりかかる。
きらりちゃんが、「これを、こうしてッ」と声に出して試行錯誤していたのと対照的に、浅川は黙々と、迷いなく、まるで完成図を最初から知っていたかのように、木材を削りとっていった。
僕は独創的なものではなく、簡素な木のコップをつくり、接着剤で取っ手をつけて、よくある感じのトロフィーを形にした。
浅川が完成させたのは、色気さえ感じさせる、くびれたバイオリンの形だった。短い時間のうちに、やすりまでかけて、器用に作りあげた。この女、才能の塊なのだろうか。
「浅川ってなんでも――」
できるんだなと言う前に、浅川の視線が僕を刺し貫いてきて、僕は黙らされた。そして、静かに丘野下きらりの作ったトロフィーを指さした。
太陽みたいな形をして、原始のエネルギーにあふれた、とても元気な物体がそこにあった。
どんな意図の指さしなのかわからなかったので、首をかしげてみせると、浅川はずんずんと接近してきて、耳元に顔を近づけてきた。きらりちゃんにはきこえないような囁き声で、「褒める相手。ちがう」と言った。
そんなことを言われても、僕はいいものはいいと言うし、そうでないものにはコメントしたがらない人間なのだ。
それでも、正直、僕は浅川めぐるがこわい。だから、言う通りにする。
「きらりちゃんのトロフィー、きらりちゃんらしくて、とてもかわいいよ」
嘘は言っていない。洗練されているかどうかで言えば、されていない。とても粗削りなんだけれど、本当に丘野下きらりの元気な感じが出ていて、好感がもてるものだった。ただ浅川がすごすぎるだけで。
きらりちゃんは、手を叩きながら、飛び跳ねるように喜んだ。
「ほんとーですか! ありがとうございます!」
しかし、すぐに真顔になって、続けて言うのだ。
「でも……今回はやっぱり、めぐる先輩のやつが最高にかっこいいなって思います」
「だよな、僕もそう思う」
浅川は僕らから目をそらしたまま、携帯を取り出していた。
きらりちゃんは、浅川のつくったバイオリン型のトロフィーを手に取ると、
「第一回、おさんぽ部、池の底トロフィーコンクール! 優勝は、浅川円どの!」
そう言って、手をめいっぱい伸ばし、浅川に手渡そうとした。
浅川は、目こそ合わせたものの、受け取らなかった。
「いらないんですかぁ?」
「いらないわよ、こんなの。部室にでも飾ったら?」
「いいですね、それ」
そうしてバイオリン型のトロフィーは、本棚の一角で圧倒的な存在感を放ち続けることになった。




