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おさんぽ部ダイアリー 浅川円の内緒事  作者: 黒十二色


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第八話 池の底トロフィー(前)

 ギャル先生は小麦色の肌をした健康的な大人の女性である。化粧が上手なので本来の顔はわからず、魅力的な体つきをしていて、男女問わず人気の高い憧れの対象だった。


 ギャル先生の話はあちこちに飛んだので、僕は意味を拾って、整理して、聞き返した。


「つまり、降り続いた雨によって、裏庭にある池の水質が悪くなって、思い切ってポンプで抜いてみたら、ゴミが出てきたから掃除しろと」


 ギャル先生はそうだねと相槌を打ってから、


「でもゴミとは言ってないし、お宝とかが出てきたらぁ、教えてほしいなって」


 発見したら横領する気しかなさそうな発言だったがスルーした。他の先生も大勢いる職員室でそんな発言ができるのは、このギャル先生くらいのものだ。


 さて、僕は二人に視線できいた。浅川はやりたくなさそうだった。きらりちゃんは、「わあ、面白そうですね」と意外にも乗り気だった。


「よし、じゃあやるか。三人で」


 浅川から反対が出なかったし、僕らについてきたので、三人でやることになるのだろう。


 僕らは同好会室に戻り、二人には体操服に着替えてもらった。そのあと、二人には外で待ってもらい、僕も着替えたのだが、二人が着替えを終えた部屋は、どういうわけか甘い匂いに満たされている気がして、しっかり畳んで置いてある二組の制服を見つめながら、僕はゆっくりと着替えを済ませた。


 長靴、ゴム手袋、ゴーグル。装備は完全だったのだが、浅川が泥の中に入ることはなかった。


 きらりちゃんは、まるで小学生のように、泥んこになることに躊躇がなかった。ムシも苦にせず、泥にしりもちをついても「えへへ」と頬をかいて、頬を泥に染めて、楽しそうにしていた。


「めぐる先輩~。なんで入らないんですか?」


「きたな――」と言いかけて、「誰か外から全体を把握する人が必要でしょう?」


 そう言って、ゴム手袋を外して携帯をいじっていた。


 こんな時にもスマホから離れられないなんて、依存症の疑いがあるな。


 さぼる浅川を尻目に、僕はきらりちゃんと協力して、次々に発掘を続けていった。


 きらりちゃんから泥を投げつけられて、僕の腰のあたりが汚された。


 やり返しに、ホースを向けてきらりちゃんに水をかけたら、楽しげな悲鳴が上がった。


 たくさんの生き物を保護した。落ちていたガラクタを水で軽く洗い流してから、ブルーシートの上に集めていった。


 時に驚き、時に鼻をつまみ、時に感心し、時に笑いあいながら、池の掃除が続いた。


 終わりに差し掛かったころ、ギャル先生がマスクをして、泥の中にいた生き物たちを台車にのせて校内に運んでいき、僕らはブルーシートに残されたガラクタたちと向き合うことになった。


 これも、広く見れば、まちあるきみたいなものだ。このまちで失われたものが、小さな池の底で沈んでいて、どれくらいの時間かわからないけれど、眠り続けていた。


 金属、プラスチック、瓦。コイン、空きカン、割れたビン。溶けかけた紙パック。ひしゃげた一輪車、古い透明なパソコン筐体らしきものまである。


 どこに入っていたのかと疑問に思うくらい大量だった。この池は、長年の間、不法投棄を受けとめてきたのだろう。そんな苦しい日々も、これで一区切りだ。鏡のように澄み渡る池となり、呼吸を再開できるだろう。


 とはいえ、裏庭に来て池を楽しむのは浅川とか僕くらいのものだろうけれどもな。


 さて、そこからは三人が全員参加となった。カテゴリごとに発見物をより分けていると、浅川が四角形の箱状のものを持ち上げた。プラスチック製であり、すべての面が整った長方形をしていた。泥が落ち切っていない側面に何か紋章みたいなものがついていた。


「何かしらこれ」


 そして、しばらく無言で見つめ、ガラクタの山の中に戻すような動きを見せた。


「めぐる先輩、それ何ですか?」


 きらりちゃんの問いが、それをさせなかった。浅川は実物を渡して答えた。


「何かのトロフィー……の台座かな」


 きらりちゃんと二人で水道のところまで持っていき、汚れて見えない部分を洗い流すと、文字らしきものが見えた。でも、ほとんど判読できない。『ンクール』の文字が見えたので、何かのコンクールのトロフィーなのだろう。


 四角形の何かが接着されていたような跡が見えるのだが、全く想像がつかない。


「何のトロフィーだったんだろうね」


 浅川はそう言って、プラスチックごみのグループに入れようとしたのだが、きらりちゃんが止めた。


「みんなで、考えてみましょーよ」


 僕ときらりちゃんは、いろんな案を出した。カップ状のデザイン。板状のデザイン。球体を抱きかかえるようなデザイン。ピラミッドのようなデザイン。色んな案が出た。


 思いつく限りのものがすべて出たなと思っていたところに、浅川が言った。


「形が風化して残ってないってことは、木製だったかもしれないわね」


 それは盲点だった。たしかに、あり得る話だ。


 きらりちゃんは勢いよく立ち上がって言う。


「どこかでいらない木材をもらってきて、作りましょうよ」


 きらりちゃんの積極性には、頭が下がる思いだ。たしかに、みんなで作ってみたら絶対に楽しい。僕だけだったら、きっとトロフィーを作ろうなんて思いもしなかっただろう。


 僕もやる気に満ち溢れてきた。


「じゃあ、僕がいらなくなった木材をもらってくるよ」


 そう言って駆け出そうとした時、「待って」と浅川が呼び止めてきた。


「そんな泥だらけでどこに行くつもり?」


「ホームセンターだけど」


「店に迷惑だわ。私が行く」


 浅川はゴム手袋とゴーグルを外し、長靴から運動靴に履き替えて、近くにあった裏門から出て行った。


「優しいところもあるんだな」


 僕がそう言ったとき、きらりちゃんは不思議そうに、


「やさしさの塊みたいな人ですよ。何が見えてるんですか?」


 だって、僕に見せる態度は、だいたい険しいから。


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