第三十八話 浅川めぐるにとって
僕は喫茶店で力強い声を出した。
「部にはなれなかった。それがどうした」
すると、横からロングヘアの美女がすかさず言う。
「とてもカッコ悪いわよね。『部に入らないか』とか手を伸ばしてきたのに」
対面に座る金髪ショートカットも「あたしも部ってきいてた~」とか言い、茶髪ショートカットも「あたしもです」などと言った。
そして再びロングヘアが言うのだ。
「大丈夫よ、勝手に名乗ってあげるから」
僕は「君たち、ちょっとひどくないかな」と言わざるを得ない。
「さ、会議を進めて、同好会だから……大道あゆむ会長とかになるのかしらね」
会長なら部長より地位が高そうだな。悪くない。
僕は冷たくなった紅茶を飲んで、咳払いしてから、言い放つ。
「最強の精鋭が集まったことに疑いはない。だから僕らは、これまでの活動に加えて、新しい活動に着手する」
「それは?」と浅川。
「謎をつくるのだ」
「たのしそう!」と丘野下姉妹が声をそろえた。
そう、考えることで謎を増やす側から、まちに謎を設置する側へと、ステップアップするのだ。
それから、僕らは客の少ない茶色い看板のレトロな喫茶店に集まって、謎をつくるための話し合いをするようになった。
「大道くん。あなたの仕掛けは普通すぎるのよ」と浅川が言ってきて、
「そういう浅川だって、大して思いつかなかったじゃないか」と僕が返す。
険悪になりかけたところで、さやかちゃんが割って入ってくれた。
「でもでも、普通っぽいところから入ったほうがいいのは確かだよね~」
きらりちゃんも頷いて、
「うん、シンプルなほうが、仕掛けてる感は出ないね!」
浅川は気に入らない様子だった。
「あなたたち、大道くんに甘いわよね。どういうつもり?」
どうもこうもない。思ったことを言ってくれただけなのだ。
きらりちゃんは、
「めぐる先輩。私情をはさみすぎたら会議にならないですよ?」
と煽り、さやかちゃんは、
「その前に、あゆむ先輩とどこまでいったんですか~?」
と、さらに煽った。
浅川は「やめなさい」とシャットアウトして、頬にかかった長い黒髪を後ろに払って、言うのだ。
「あゆむくんとは、まだそんなんじゃないの」
その言葉に、みんな黙った。
グラスに入った氷が、からんと音を立てた。
さて、僕らは、かつて幽霊看板があった場所に、浅川がつくった意味深なオブジェを設置させてもらうことにした。
誰の秘密基地にもならないように整備することと、定期的な見回りをすること。それさえ行っていれば、好きにしていいと、この土地の持ち主(僕の親戚)に言われている。
制作はすべて浅川めぐるに任せた。
なんでもいいから作ってほしいと言ったら、なんでもいいが一番こまるから二度と言うなとか言われたりもした。
試行錯誤の末、僕らの身長よりも大きな木製オブジェができた。
上の方には犬や猫や鳥など、いくつかの動物が彫り込まれた。
下の方に見えるのは、古代の壁画のような模様だ。エジプトの壁とか、ギリシアの壺とかに描かれていそうな絵に似ていた。
大きな男が小さな男を襲っている場面だとか、男が球技をしている姿だとか、長机の上で隣り合う男女が紙に文字を書き合っている姿だとか、一度なにかを描いて削り取った跡だとか。
隙間には、桜の花のデザインが入ったり、楽器の姿も見えれば、バスケットボールも入っている。
底面には、僕ら四人の名前を刻み込んだ。
『浅川円』『大道独行』『丘野下燈』『丘野下柚』
立ててしまったら、これはもう見えない。
たぶん、このトーテムは、僕ら以外には大した意味はない。これを見て正しい意味に辿り着いたところで、何か大きなことが動くわけでもない。ただの、謎を発生させる装置でしかない。
記念すべき最初の活動は、これを幽霊看板跡地に設置することだった。
「すごい! これは意味深だ!」
僕はトーテムを前に、浅川を握った。
傷だらけの手を握られて、少し痛そうにしながら笑っていた。




