第三十八話 浅川めぐるにとって
部にはなれなかった。それがどうした。
最強の精鋭が集まったことに疑いはない。
だから僕らは、これまでの活動に加えて、新しい活動に着手することにした。
謎をつくるのだ。
考えることで謎を増やす側から、まちに謎を設置する側へ。
ステップアップするのだ。
僕らは、客の少ない茶色い看板のレトロな喫茶店に集まって、謎をつくるための話し合いをするようになった。
「大道くん。あなたの仕掛けは普通すぎるのよ」と浅川が言ってきて、
「そういう浅川だって、大して思いつかなかったじゃないか」と僕が返す。
険悪になりかけたところで、さやかちゃんが割って入ってくれた。
「でもでも、普通っぽいところから入ったほうがいいのは確かだよね~」
きらりちゃんも頷いて、
「うん、シンプルなほうが、仕掛けてる感は出ないね!」
浅川は気に入らない様子だった。
「あなたたち、大道くんに甘いわよね。どういうつもり?」
どうもこうもない。思ったことを言ってくれただけなのだ。
「めぐる先輩。私情をはさみすぎたら会議にならないですよ?」きらりちゃん。
「その前に、あゆむ先輩とどこまでいったんですか~?」さやかちゃん。
浅川は「やめなさい」とシャットアウトした。
そして、頬にかかった長い黒髪を後ろに払って、言うのだ。
「大道くんとは、まだそんなんじゃないの」
その言葉に、みんな黙った。
グラスに入った氷が、からんと音を立てた。
さて、僕らは、かつて幽霊看板があった場所に、浅川がつくった意味深なオブジェを設置させてもらうことにした。
制作はすべて浅川めぐるに任せた。
高さ二メートルはあろうかという木製オブジェができた。
上の方には犬や猫や鳥など、いくつかの動物が彫り込まれた。
下の方に見えるのは、古代の壁画のような模様だ。エジプトの壁とか、ギリシアの壺とかに描かれていそうな絵に似ていた。
大きな男が小さな男を襲っている場面だとか、男が球技をしている姿だとか、長机の上で隣り合う男女が紙に文字を書き合っている姿だとか、一度なにかを描いて削り取った跡だとか。
隙間には、桜の花のデザインが入ったり、楽器の姿も見えれば、バスケットボールも入っている。
底面には、僕ら四人の名前を刻み込んだ。
『浅川円』『大道独行』『丘野下燈』『丘野下柚』
立ててしまったら、これはもう見えない。
たぶん、このトーテムは、僕ら以外には大した意味はない。これを見て正しい意味に辿り着いたところで、何か大きなことが動くわけでもない。ただの、謎を発生させる装置でしかない。
そのうえで、このオブジェに至る道を僕は用意する。
僕は家電屋で写真を印刷した。写真の裏に文字を書きこんだ。桜の下で撮った僕ら四人の集合写真だ。まだ咲いている桜のところへわざわざお散歩しに行って撮ったものだ。
四人は思い思いのポーズをとっている。僕と浅川は普通の感じだけど、丘野下姉妹は大きな動きのあるポーズだ。その写真の裏に、図書室にある一生読まれなさそうな本の書名を記した。
さらに、その図書室の本の中に、意味深なオブジェの場所の地図をこっそり忍ばせた。
宝探しゲームの仕掛けだ。
いつか、部室棟のあの部屋に入った誰かが、僕らの仕掛けを見つけるのを楽しみにしながら、僕らは活動を続けていく。




