第三十四話 再告白の時
春休みに入った。
四月になって少しすれば、浅川は僕とともに三年生になり、きらりちゃんは二年生になる。
僕は毎日、まちあるき同好会の部屋をあけていた。
みんなが来るのを待っていた。
三月最後の日に、さやかちゃんが部屋に来た。
「どっちだと思います?」ときかれたので、
「この匂いは、さやかちゃん」
と自信をもって言ったら、気持ち悪いと思われたのだろう。笑顔をひきつらせていた。
以前から聞いていたが、妹のさやかちゃんは、やはりもとの学校に戻るそうだ。
「今日で、ここに来るのも最後にします。それじゃあね、あゆむ先輩。まちで会ったとき、お茶でもしましょう!」
さやかちゃんは、元気にさわやかに言い残して、ドアの向こうに消えていった。
帰り道、美容院の前を通ったとき、鏡の向こうで、さやかちゃんらしき女の子が髪を切っているのが見えた。
演じるのをやめて、心機一転、もとの自分で頑張るつもりなのだろう。
四月に入ってすぐ、退院したきらりちゃんが来た。
ついにこの時が来てしまった。
再告白だ。
まるであの日のやり直しをするように、同じ部屋、同じ場所、パイプ椅子のそばで立ったまま、彼女は僕に告げる。
「大道先輩と過ごした時間は短かったですけど、幸せな時間でした。もう戻ってこれないと思っていました。でも、クリスマスも、お花見も、もう全ッ然うまくいかなくて、それで、かえってやり残したことができて、よかったのかも! あの日、勇気を出して、本当によかった。あらためて、お願いします。……先輩。大道あゆむ先輩。あたしと、付き合ってくれませんか」
僕の答えは決まっていた。
「僕は――」
と言いかけたとき、扉が開いた。
幻をみた。浅川めぐるが割って入ってくるのかと思った。
違った。
茶色の髪と黒い髪がグラデーションを織りなしている。途中で色分けされて、ずいぶんおしゃれな印象を受けた。何より、髪の色が以前と違うから見分けがつきやすくなった。
きらりちゃんの妹、さやかちゃんだった。
ずっと丘野下きらりちゃんを演じてきて、先日、お別れしたはずだ。
「ちょっとまった!」
さやかちゃんは、元気な声でそう言った。さらに続けて、僕に向かって言うのだ。
「いつのまにか、好きになっちゃった! ごめん!」
さやかちゃんの目には、涙が溜まっているように見えた。なんて悲しそうな顔で想いを告げて来るのだろう。
でも、僕は、それでも。
「ごめん、きらりちゃん」
僕は、頭を下げた。
「ごめん、さやかちゃん」
僕は、頭を下げた。
どれくらい、そのまま床を見続けていたのだろう。
顔を上げた時には、もう二人の姿はなかった。




