第三十二話 隠してきたこと
土日をはさんで、花見の翌週、ソメイヨシノがだんだん咲き始めた頃、僕はいつもの登校の通学路で、ずっと考えていた。
何が浅川を怒らせてしまったのだろう。隠していることがあるのはわかる。
何を隠しているのか、わからない。
浅川めぐるは、隠すのがうますぎる。
先週、僕は造花の残骸を少しばかり散らかしたまま帰ってしまったから、片付けの続きをするために裏庭に向かった。
緑色のしだれ桜の下に、浅川がいた。
座っていた。
ひとりで、背中を丸めて、声を押しころして、携帯をにぎりしめて……泣いていた。
僕は立ち尽くした。
僕が浅川を追いつめてしまったんだと思った。
風が吹いた。
浅川が振り返った。
笑っていた。
涙を流しながら。
「大道くん」
吐息交じりの声は、とてもやさしい音色だった。
その声のまま、浅川めぐるは言った。
「きらりが、手術、うまくいって、大丈夫だって」
「……え」
「ほら!」
そうして見せてきた画面を見るために近づいた。
『お花見のとき、このままじゃ終われないと思って、がんばりました!』
そんなメッセージが表示されている。
僕は、ああそういうことか、などと思えるはずもなく、気持ちの整理がつかないでいた。
ふと近づいてくる足音がして、そちらに目を向けた。
「先ぱーい!」と声をあげながら、走ってくるのがみえた。僕は抱き着かれるかもしれないと身構えたのだが、きらりちゃんは僕の横を通り過ぎた。柑橘系のさわやかな香りだけを残して、浅川めぐるの胸に飛び込んだ。
二人が泣きながら抱き合っている姿を眺めているしかできなかった。
「きらりちゃん?」と僕は言う。
「あたし、さやかです」
と、浅川に抱き着いたまま、きらりちゃんは言った。
「木へんに、自由の由で、『柚』と読みます」
僕は「えっ」と声を漏らした。
ずいぶん遅い自己紹介だった。
丘野下きらりは、丘野下さやかだった。
入れ替わっていた。
全然似てないなんて、嘘じゃないか。
僕のまわりの人たちは、隠すのがあまりにうますぎた。




