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おさんぽ部ダイアリー 浅川円の内緒事  作者: 黒十二色


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第三十一話 造花のお花見

 裏庭のしだれ桜が満開になり、雨が降り、そして散った。


 校庭のソメイヨシノは、まだつぼみだった。


 そんな時期に、浅川めぐるは、「花見をする」と言った。


 場所は裏庭。しだれ桜の下。


 数日前には、美しい池に花びらが落ちて集まって、とてもきれいだった場所だ。もう桜は散ってしまって、花びらも片付けられ、しだれ桜は葉っぱだらけ。だけど、どうしても花見をするのだという。


 僕には意味がわからなかった。


 もちろん協力はするけれども、ほんの少し時間をずらせば本物が見れるのに、わざわざ造花で飾った花見をするとか言っているのは理解に苦しむ。


 奇行と言ってもいいんじゃないだろうか。


 浅川は、プラスチックのパイプをつなぎ合わせて骨組みを作った。そこに大量の造花をからませていた。


「なあ、来週か再来週じゃダメなのか?」


「大道くん。何度も言わせないで」


 詮索しないで、ということなのだろう。


 でも、さすがに最近、おかしなことばかりだ。


 たとえばホワイトデー。きらりちゃんを見送った時の浅川の様子なんか、後から思い返すとものすごく変だ。浅川のためのお菓子を奪われて、なんで平気だったんだ。鈍感な僕でも、違和感しかなくなってきている。


 きらりちゃんを見ると、にこにこで買い出したものを並べていて、花見を楽しみにしているようだった。それは癒しだった。


 裏庭の一角は、完全に桜の造花で満たされた。見上げると、びっしりと桜色が広がっている。壮観ではある。


 僕は、でも、それを、やはり綺麗だとは思えなかった。


 花見が始まった。


 きらりちゃんは、紙コップに僕の好きな液体を注いでいた。


「大道先輩、コーラでいいですよね!」


「ああ。ありがとう」


「ポテチはのり塩が一番なんでしたよね!」


「ああ」


 浅川は、きらりちゃんが僕の世話をする様子を、満足そうに眺めていた。


 僕も、きらりちゃんが喜ぶと思って、スーパーでお寿司パックを買ってきたのだった。


「おいしーです!」


 喜んでくれた。幸せそうなきらりちゃんを見ると、僕はうれしい。


 浅川は、何が好きなのかわからないので酢昆布を渡しておいた。スイーツしりとりに出してくるくらいだから、きっと好きだろう。実際うまいし。


「わかってきたじゃないの。大道くんも」


 何をわかってきたというのか。よっぽど好きなんだろうか、酢昆布。


 少し考えて、浅川の言っている意味を理解した。寿司と酢昆布。あきらかに価格差がある。良いほうをきらりちゃんにあげたことに対して、浅川はわかってきたと言ったのだ。


 本当に、それでいいのだろうか。


 しばらくして、みんなが食べることに注力して、少し静かになったので、僕は間を埋めるトークでもしておこうと思い、こう言った。


「また来週とかにもやりたいもんだな。花見なんて、何回やってもいいもんだから」


「やめて、大道くん」


 浅川のやめての意味は、わからなかった。


 それから、またしばらくして、話の流れで僕は言う。


「先週なんかは、しだれ桜がきれいだったよな」


「やめてってば」


 またしばらくして、きらりちゃんから振ってきた今後の花見のおすすめの場所の話になって、僕は言う。


「学校じゃなくてもいいよな。おさんぽ部なんだから、桜前線を追いかけて、いろんな場所で花見をしたっていい」


「やめてって言ってるでしょ!」


 浅川が激怒した。


 何がなんだかわからない。


「先週だとか来週の桜だとか、今言わなくてもいいことでしょ!」


 言わなくてもいいけど、言ってもいいことだと思うのだが。


 僕は呆然としてしまった。


 何が起きているのか、本当にわからない。


 きらりちゃんは慌てて立ち上がって、浅川を止めるような動きを見せた。


 浅川の動きは、一歩も二歩も速かった。


 無抵抗の僕は押し倒された。


 コーラはこぼれ、のり塩は宙を舞った。


 浅川は僕の腹の上に乗っかり、僕の髪を掴んで、後頭部を地面に押し付けた。


 抵抗しようと思えばできる。だから暴力というほどではない。


 でも、ずっと無抵抗のままだったら、頬の一つや二つ、引っぱたかれていた可能性もある。


 浅川は髪から手を離し、僕の顔を掴もうと手指を広げた。


 僕の顔に浅川の手のひらが迫ってきた。


 ぎりぎりで、きらりちゃんが止めてくれた。


 浅川に抱きついて、やめて、やめてと頼み込んでいる。


 それで冷静になった浅川が僕から離れると、きらりちゃんは靴も履かずに泣きながらどこかへ行ってしまった。


 浅川は「きらり!」と悲鳴に似た声をあげながら、追いかけていった。僕は、その慌てた横顔を見送ることしかできなかった。


 誰もいなくなった。



 呆然としたまま、一人残され三十分ほどが経ったとき、僕の携帯にメッセージが届いた。浅川からだった。


『大道くんが悪いから花とか片付けておいて』


 わけがわからない。


 僕は釈然としないながらも片付けをはじめた。大量の飲み物と食べ物を、すべて持って帰ることになった。


 せっかくだからと浅川が作ってきたものをつまんだ。こんな時だというのに、最高にうまい。心がこもっている味だ。うますぎて涙が出そうになったけど、我慢した。


 大失敗だ。



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