第二十話 ギャル先生の黒歴史写真
僕は、電話でギャル先生を呼び出すことになった。
『なあに? たまたま学校いるから、行くけども』
快諾してくれた。ギャル先生はフットワークが軽い。
でも、この写真を撮られた当時は、どうだっただろうか。イケてない過去を掘り返されたら、ギャル先生も嫌なんじゃないかと思って、気が進まなかった。それでも、浅川ときらりちゃんが、揃ってギャル先生の話をききたいと言うのだから、仕方ない。
というか、だったら二人のうちどちらかが連絡すればいいものを、僕にやらせるのが、とてもずるいと思う。いざというときに僕の責任にするための、浅川が考えそうな薄汚い策に思えた。
それにしても、この写真の地味な人が、本当にギャル先生だとはな。きらりちゃんが言った時には、にわかには信じがたかったけれど、写真の裏に名前が書いてあるのが決定打だった。
さらに、きらりちゃんが、写真をスマホで撮影して、加工編集をはじめた。髪を盛った感じにして、少しだけ痩せさせて、小麦色の肌に塗って、目を大きくして、まつげを足して、ギャル風にしたところ、一致した。
部屋に入って来たギャル先生に写真を見せたとき、ギャル先生は明るくこう言った。
「やばー。黒歴史~」
「やっぱり、この写真、ギャル先生なんですね」
僕の問いに、先生は懐かしそうに目を細めた。
「たしかに。昔の先生だね」
「なんで先生は、ギャルになったんですか?」
先生は即答する。
「ギャルがみんな自分を作ってるとか勘違いしないでほしいんだけど、先生の環境ではね、作ったほうがいい場合だった。それだけのことだし、自分を作ってよかったなって、先生は思ってるよ」
珍しく先生っぽいなと思ったのだが、次の瞬間には、
「だって、今のほうがかわいいでしょ?」
などと言いながら、かわいらしいポーズをキメてみせた。
同好会の女子二人は辛辣だった。
「先生、年齢を考えてください」
と浅川が言えば、きらりちゃんも続いて、
「ていうか先生、おいくつなんですか? この写真、けっこう古いですけど」
少しだけ、室温が下がった気がした。それでもギャル先生は、目に見えて怒ったりはしなかった。
「触れちゃいけないから黒歴史なんだよ? だから誰かに見せないでね」
きらりちゃんは、「もちろんです!」といい返事をしたうえで、写真の地味な人とギャル先生を見比べながら、「でも全然ちがう。こんなに変われるものなんだね」としみじみと言った。
きらりちゃんに悪気はないのだと思う。
変われることの素晴らしさを感想として語っているだけだ。
でも、皮肉にもきこえるんじゃないかと思って、ギャル先生の反応が僕は心配になった。
ギャル先生は、屈託のない笑顔で頷き、すぐに言葉を返した。
「まったくその通りだよ、さや――」
と言いかけて一瞬詰まった。よほど思い出したくない時期の記憶だったのだろうか、口がうまく回らなかったようで、唾をのんでから言い直して、
「さわやかすぎる青春だったよ~。あまりにもね。丘野下ちゃんも、ここ半年でずいぶん大人っぽくなったし、先生とは違う、明るい青春を送れるといいね~」
きらりちゃんは、元気な笑顔で、「ええ、あゆむ先輩と付き合うところからです!」とこぶしを握った。
ギャル先生は、「まだ付き合ってなかったの?」と声を裏返して、驚いた顔を見せていた。
浅川は、どういうわけか申し訳なさそうに俯いたのだった。
なんだろうな、本当に何もしてないのに、僕がとんでもなく悪いことをしているみたいな気分になってきた。
すっきりしたのは部屋だけか。




