第十八話 遥か頭上のバレーボール(3)
バレーボールに描かれた地図。その柱に隠れた部分には何があるのか。
確定するには、ボールを回収しなければならない。
けれども、回収しなくても有力な推測が挙げられる。
隠れたエリアには、大きな建物がある。公立高校だ。
地図のつくりからして、目的地は高校のあたりだと僕は思っていた。
そこで、青春のワンシーンが浮かび上がる。
すなわち、願掛けである。
同じ高校に行きたいと思っていたカップルがいて、頭のはるか上に目標となるものを置くことで、神頼みにしたり、努力目標にしたり、といった青春イベントが行われたのではないかと思えるのだ。そして二人の目的は叶って、仲良く高校生活を過ごしたのだ。
浅川は、「絶対もっとしょうもないものだよ」と現実的に否定してきたけれど、青春風に考えたほうが、気持ちがいいじゃないか。
僕と浅川が高校の前に着いた時、僕の携帯が鳴った。
『大道くん、何してるの~』
「ギャル先生? なんですか急に」
『浅川ちゃんとデートなんて、丘野下ちゃんを差し置いて、いけないんだ~』
ギャル通り越して小学生か。
でも、こんなことを電話してくるということは、僕たちは見られているということだ。
僕が周囲を見回すと、コンビニの駐車場奥のベンチに、ギャル先生がいた。タバコを片手に、露出多めの服装で手を振っていた。夏だなと僕は思った。
通話を終えて、歩み寄る。
「夏だね~」とギャル先生はウインクしてみせた。
僕は簡単な挨拶をしたけれど、浅川は黙ったままだった。ちょっと不機嫌に見えた。
ギャル先生が、自分の横の座席をぽんぽんと叩いて、僕が座ろうとした時、間に浅川が割って入って、僕は浅川の横顔の向こうにギャル先生を見ることになった。
「ギャル先生は何してるんですか」
「おシゴト」この先生が言うと、これも色っぽくきこえる。「だって先生だからね。夏休みでもお仕事あるの。ありがたいよね~」
「僕らは同好会で、体育館の上に挟まっていたバレーボールの地図を頼りにここに来ました」
僕の言葉に、ギャル先生はやわらかく微笑んで、
「ああ、あれね~」
「何かご存じなんですか?」
「しらな~い」
知らない人の反応ではないのだけれど。
なんとなく、ギャル先生は答えを知っている気がする。だから僕は、さんざんあれこれと考えた内容をギャル先生にぶつけてみた。その青春っぽい解釈を。
ギャル先生は僕の話をひとしきりきいて、
「ふーん。そういう感じね~」と言ったきりで、結局何も教えてくれなかった。
僕だけが損してるみたいなの、すごく嫌だな。
「今日は、変わったことはそれだけ?」
ギャル先生が話題を変えてきたので、僕はもう一つ、気になったことを言うだけ言ってみる。どうせギャル先生に言っても何の解決にもならないだろうけど、話をきいてもらうだけで楽になることもある。
「きらりちゃんに、よく似た人を見ました」
「ほんとにねぇ、丘野下ちゃんも誘えばよかったのにねぇ」
「しょうがないですよ。用事があるっていうですから」
「でもでもぉ、大道くんから直接誘えば、違ったかもよ~?」
「浅川と二人だけでも、すごく楽しかったから、いいんですよ」
ギャル先生は、「だってさ、浅川ちゃん。よかったね」と言ったが、浅川は当たり前のように無視をした。
仮にも先生相手なんだから、そこは愛想笑いでもしたらいいのに。
ギャル先生は、気にせず笑い飛ばして、きらりちゃんの似た人の話に唐突に戻った。
「世界にはさ、そっくりさんが三人はいるって言うじゃない? 先生もさ、先生とよく似てる人をテレビで見るもん」
ギャル先生の言葉に、すかさず浅川が割り込んだ。
「それは、先生が寄せているだけでしょ?」
ギャル先生と会ってから最初に口にした言葉がそれだった。やっぱり機嫌が悪そうだ。
「浅川ちゃんは先生に厳しいな~」
そうして謎は謎のまま、活動は終わり、僕らはそれぞれ帰宅したのだった。




