第十七話 人ちがい
携帯で地図アプリを起動して、似た場所を探した。
そして、それは、すぐに見つかった。特徴的な建物がボールに描かれていたからだ。
グラウンド、体育館、プール、L字型の校舎、旧校舎。
中学校の敷地内の配置は、似ているようで同じではない。
地図は、僕らの学校の近所を描いたものだった。
僕らの学校の体育館に挟まっていたのだから、まあ妥当な流れである。
正直に言うと、土地勘のある場所だったことに、僕は少しがっかりしていた。未知の場所を、浅川と二人で歩けると期待していたんだけどな。
電車に揺られ、地元の駅に降り立って、まずは僕らの中学校を目指した。
スタート地点が、そこだったからだ。
矢印の通りに歩いていると、僕は住宅街で、ひときわ輝く茶色い髪を見つけた。
五人くらいの女の子の集団の中にいて、いちばん後ろを歩いていた。
「あれ、きらりちゃんじゃないか?」
僕が指をさすと、浅川は冷たい声で言った。
「人違いじゃない? だって、きらりは、今日はこのへんにはいないはず。それよりも大道くん。そっちだと遠ざかるわよ。目的地は、こっちでしょ」
「いや、でも」
浅川は、急に僕の腕を抱いて、
「そういえば、あっちにいいカフェ知ってるの。暑くて、汗かいちゃったな。おなかすいたし、ちょっと休んでいかない?」
僕はそれどころではない。きらりちゃんがいるなら、三人で一緒におさんぽ活動がしたいんだ。もしかしたら、その願望が幻をみせているのかもしれなかったが、もう確かめずにはいられなかった。
「あれはきらりちゃんだ」
「他人の空似よ。というか、全然似てない」
「近くで見てないのに、なんでわかるんだよ」
「大道くんこそ、近くで見てないのに決めつけてる」
「そうだけど、でも、きらりちゃんにしか見えない」
「だから! きらりは、今日は家族で出かけてて、こんな近所にいないの。何度言わせるの」
「でも、絶対きらりちゃんだ」
僕は引かなかった。
走っていって声をかけた。
「きらりちゃん」
五人いたうち、四人の見知らぬ女の子たちが立ち止まって振り返った。茶髪の女の子だけが、肩をびくっと震わせた後、僕に後ろ姿を見せたまま歩き去ろうとしていた。
僕は、止める浅川を引きずるようにして、茶髪の女の子の前に出た。
すぐそばをすれ違って前に回り込む。
「匂いも同じだ」
正面に立つと、なおさら似ている。うつむいていて元気がないだけで、それはどう見ても、きらりちゃんに見えた。
「大道くん、恥ずかしいからやめて。さすがに気持ち悪すぎ」
浅川が不快感をぶつけるように言った。それでも僕は、他人の空似にしたって、あまりに似すぎていると思った。
やがて、少女たちのなかで、気の強そうな女の子が、「この人たち何なの、さーやちゃん」などと言った。茶髪の女の子は、「えっ、いやっ、知らない人」と言いながら、挙動不審になった。
浅川は、呆れたように言う。
「ほら、名前違ったでしょ」
そこで、ようやく僕は引き下がった。
やはり、三人で活動したいという願望が、僕に幻を見せていたようだ。
「ごめん、人違いをしてしまったみたいだ」
僕が彼女に心からの謝罪をのべると、さーやとよばれた少女は言うのだ。
「彼女がいるのに、別の女に声かけるとか、普通にやばいよね」
手厳しい。
でも声もそっくりだった。たぶん、入れ替わられても気付かないくらいに。同じまちに、こんなに似ている人がいる。その天文学的な確率に、僕は思いをはせるのだった。
きらりちゃんに似た少女の一団が去って、少ししてから、浅川は言った。
「あの子の言う通りよ。他の女を見てんじゃないのよ」
「え? 浅川、それってどういう……」
僕の反応に、彼女は慌てた。
「ち、ちがう。そうじゃない。きらりだけを見てろって意味!」
「なんだ。びっくりした」
「あの子、全然きらりと似てなかった。きらりのほうが、かわいいし、元気だし。見間違えるなんて最ッ低」
「確かにな。言われてみれば他の子について行ってる感じに見えたな。きらりちゃんなら同級生を明るく引っ張って、まとめ役になってるタイプだもんな。僕が間違ってた」
「大道くんってさ、いつも間違ってしかいないわよね」
それは言い過ぎじゃないかな、と思ったけど、言い返さなかった。




