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おさんぽ部ダイアリー 浅川円の内緒事  作者: 黒十二色


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第十四話 突然のバスケットボール

 僕らは制服のまま、バスケットボールをする。


 一対一、ワンオンワン。


 先にゴールに入れたほうが勝ち。


 何かを賭けることもない。勝ったからとてご褒美もない。ただの勝負だ。


「いくよ、大道くん」


 先攻の浅川は、ゆっくりとボールを床に弾ませ続けながら、じりじりと近寄ってきた。


 僕は右利きの彼女が通りやすそうなコースにあえて隙をつくり、誘導しようとする。


 浅川はなかなか誘いに乗らなかった。


 別の場所に隙を作ろうと体制を入れ替えようとした時に、動くふりをしてきた。


 僕は引っかからなかった。


 やがて浅川は、ドリブルを続けたまま、ときどきボールをつく手を入れ替えながら、後ろに下がった。


 勢いをつけて抜き去る気なのだと身構えた。


 浅川は、利き手とは逆の斜めに向かって走った。僕はそれについていった。


 彼女の肩に接触したまま、手を広げ、ついていく。


 問題は、どこまでついていくかだ。


 どこかで切り返して、右手に持ち替えて、ゴール方向に向かうはずだ。


 でも。なかなか中に切れこんでこない。


 僕の圧力に押されて、外に押し出されているのか?


 いや、そうじゃない。


 仕方なく動かされているような動きじゃない。


 右側か、左側か、僕は二択を迫られていた。


 彼女が止まった。


 ――左からくる。


 僕は手を伸ばした。ここで内側にターンするのかと思ったのだ。ターンして、僕からボールを隠しながらシュートをしやすいところに走り抜けるのだと思った。


 ところが、逆だった。また外に持ち出して、左手でドリブルしたまま抜いた。真横から、ゴールに迫っていく。


 どこまで器用なんだ、浅川は。


 やられた、完全に抜き去られた。


 それでも、僕は彼女にいいところを見せたい。


 必死に走って、飛び上がり、腕を伸ばす。


 勝ちを確信して笑いかけている彼女がレイアップしようと差し出したボール、そのさらに上から押さえつけた。


 押し合い、そして横にはじいた。


 空中で浅川はバランスを崩しかけたが、なんとか立て直し、着地を決めようとした。僕が降りてきたところによろけてきた。


 浅川は僕の肩にぶつかって、そして、その衝撃で飛ばされ、三メートルくらい先に倒れこんだ。


「あぅ」


 と苦しそうな声を押しころして、足首をおさえた。


「あっ、浅川ッ!」


 僕は彼女に駆け寄った。


 頭は打っていないように見えた。でも彼女が目を閉じたまま横たわっているので、心配だ。


「浅川!」


 もう一度名前を呼び、身体を抱き寄せて、揺らした。


 苦悶の表情を浮かべていたが、彼女が目を開けたとき、僕と目が合って、真顔になった。


 僕は、目が離せなかった。


 まばたきも忘れて、みとれていた。


「浅川……」


 僕は彼女を、さらに抱き寄せて、もっと近づきたいと思ってしまった。


「こら」


 頬をつねられて、僕は正気に戻った。


 彼女を抱き支える姿勢は解かなかった。急に離したら危ないからな。


 浅川は、困ったように笑ってみせて、僕もつられて笑った。


 こんな至近距離で、浅川の笑顔を見てしまった。とんでもなく悪いことをしている気分になってきた。


 気まずくて、ちょっと目を合わせられない。


 それは浅川も同じようだった。僕から目をそらしながら、彼女は言う。


「すごいのね、大道くん。とっても速かったわ。あゆむじゃなくて、はしるとかに改名したらいいんじゃない?」


「浅川も――」と僕は言いかけたが、悪口しか思いつかなかったのでやめた。


「なによ」と胸を小突かれたときだった。


 抱いている浅川の身体が、こわばったのを感じた。


 浅川の視線の先をみると、


「きらりちゃん……」


 すこし開いた引き戸の向こうに、丘野下きらりが立っていた。


「先輩、何してるんですか?」


 いつもの元気な声ではない。明らかに怒っている。とても冷たい怒りだ。


 逆光なのも手伝って、恐怖を感じさせるような暗い目をしているように見えた。


 僕は、ひどく後ろめたい気持ちになったけれど、まだ何もやましいことはしていないのだ。事実を説明すればいい。


「浅川と勝負していたら、足を怪我させたんだ。保健室に連れていくところだった」


 きらりちゃんは引きつった笑顔を見せながら、


「そっか。めぐる先輩、大丈夫ですか? 立てますかね?」


 浅川は後輩から目をそらしながら、


「ちょっとすぐには立てなさそう」


 と言って、僕の制服の袖を掴んで少しだけ引っ張った。


 ここは逃げよう。そう言っているように見えた。


 僕は、「さっさと保健室で処置しないとな」とわざとらしく言いながら、彼女を抱きかかえ、体育館を飛び出したのだった。


 浅川の携帯がものすごい勢いで震えまくっているのがきこえた。もしかしたら、いや、もしかしなくとも、置き去りにしたきらりちゃんからメッセージが連打されているのだろう。


 保健室に来てみれば、休み期間中で開いていなかった。


「参ったな」


 僕がどうしたものかと頭を抱えたくなっていると、浅川は腕の中で言うのだ。


「私の家、近いよ」


「……え」


 浅川の、家?


 どんな顔でそれを言ったんだろうか、気になったけど、浅川は顔をそらし続けていたので、表情は見えなかった。


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