第十三話 遥か頭上のバレーボール(1)
毎年、前の年より暑いなと思う。
そんな夏休みが、今年もやってきた。
まちあるき同好会の活動は、夏休みには頻度を下げ、合宿なども計画していない。
せめて、もっと人数がいれば、まちあるき技術を伝授する機会として、泊りがけのイベントでも準備したかもしれないが。
そこで、いや、まちあるき技術ってなんだよ。などと心の中、自分でツッコミを入れてみる。
さて、夏休みがはじまって、しばらくが経ったある日、僕は体育館にいた。
着慣れない襟付きユニホームで飛び跳ねていた。
頭上を越えていこうとするボールに触れ、味方の求めている場所に飛ばした。トスだ。一週間限りのチームメイトがボールの上がりはじめを叩き、敵陣に突き刺した。
僕はバレーボールをしていた。怪我をした先輩の穴埋めに、助っ人を頼まれたのだ。
試合は白熱した。相手は近隣の私立中学で、地方大会出場経験もある長年のライバルだ。非公式な対抗戦とはいえ、みんな、絶対に負けられないと意気込んでいた。
助っ人として入る以上は、試合に集中しなくてはならない。
僕は自分の頬を叩き、気合を入れて臨んだ。
接戦の末、負けた。
あと一歩だった。僕のサーブはうまくいったけれど、相手のリカバリーからの速攻がすごすぎた。
僕は俯き、額の汗を拭いた。
周囲を見回すと、体育館の二階にある細い通路に、十人くらいの観客がいるのが見えた。僕らの応援をしていたようだ。その観客団から離れて、ひとり見下ろしている女の子と、目が合った。
浅川が、僕を見ていた。
手を振った僕から視線を外して、顔をそらして、すぐにその場から去った。
「大道の彼女?」
一週間かぎりのチームメイトにきかれたものの、僕は、
「同じクラスの」
そう返して、リストバンドを返却した。
「もうちょっとだった。惜しかったなあ」
しみじみと言うチームメイトの真似をして天を仰いだとき、体育館の天井、その骨組みに挟まったバレーボールが見えた。
そのバレーボールには、何か図形が描かれているようだった。目を凝らしてみても、何かが書いてあるということまでしかわからない。
僕は制服に着替え終えると、チームの打ち上げには参加せず、同好会の部屋に置いてある少し古いデジカメを手に取った。早歩きで体育館に戻った。
浅川を探しながら往復したわけだが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
何回か、浅川がいそうな気配を感じたけれど、たぶん幻だ。
戻った体育館は、もう誰もいなかったけれど、まだ開いていた。僕はデジカメを起動して寝転がり、天井に挟まる球体に向かって、めいっぱいズームをかけた。
スマホのカメラでは寄り切れなくとも、ズーム性能の高いコンパクトデジカメなら鮮明にとらえられる。
ブレまくる画面を見つめながら、古いバレーボールに照準を合わせる。
ようやく何が描かれているか見える、というところで、画面がオレンジ色に満たされた。
「大道くん。何をしているの?」
画面から目を離すと、制服姿の浅川が、レンズをのぞきこむように僕を見下ろしていた。
「見ればわかるだろ。カメラのズームで天井を撮ってる。浅川こそ、夏休みだぞ」
浅川は自分が何の用事で来たのか語ることはなく、僕の横に座り込んだ。
僕も起き上がり、座ったままの姿勢でズーム撮影を続行した。
今日の浅川はおかしい。教室や同好会室にいるときとは違い、やわらかい雰囲気だった。
「意外だったな。バレーできるんだ」
「まあね。身長が他の入部希望者よりは高くないから自信なくて入部しなかったけど、入ってほしいと頼まれるくらいには、って感じかな」
「レシーブもアタックも下手なのかなと思っていたけど」
「どういうイメージなんだよ。運動は得意なんだぞ」
ただ、バレーボールの動きの中で一番得意なのはトスだから、外れてもいないかもしれない。
僕が天井を撮影している間、浅川は暇をもてあましたらしく、体育館内をうろうろと歩き回っていた。
やがて、隅っこの方から、ドムドムと床が弾む音が響いてきた。
この重たい音は、バスケットボールだな。
リズムの良いドリブルの音が近づいてきて、やがて止まった。
「大道くん。バスケ、勝負しようよ」
「望むところだ」




