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元・特殊清掃員の怪談師『忌部 骸』が語る、胃の腑が冷える現代夜話  作者: 一 十


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8/16

第8夜:遺言予約

ええ、どうも。


怪談師の『忌部いんべ むくる』です。


……ふふ、そんなに引かないでください。


たしかに、自分から名乗るのも気が引けるほど死体のような名前ですが、

役所に登録されている本名は『佐藤さとう 留吉とめきち』なんていう、

とんだ昭和の隠居老人みたいな名前なんですよ。


あまりに名前がシブすぎて、怪異のほうが遠慮して寄ってこないくらいでしてね。


まあ、私の周りから人がいなくなるのは、

名前のせいだけではないかもしれませんがねぇ……。


さて、今宵は「スマホアプリ」にまつわる、

少々筋の通らない、それでいて底恐ろしいお話をさせていただきましょう。

都内のIT企業に勤める、野口さん(仮名)という男性から聞いた話です。


昨今は「終活」なんて言葉が流行っておりますが、スマホの中にもそうしたサービスがあるそうで。

彼が手に入れたのは『ラストレター』というアプリでした。


自分が死んだ後、指定した相手にメッセージや写真、動画を自動で送信してくれる…… という趣旨のものです。


GPSが長期間動かなかったり、アプリへのログインが途絶えたりすると、サーバーが「死」を判定する仕組みだったとか。


野口さんは、同じ部署の同僚数人と「面白半分」でそのアプリを同期させ、互いに宛先を指定し合ったんです。


「俺が死んだら、エッチな動画の履歴を消してくれ」


なんて、冗談を言い合いながら。

……ところが、三ヶ月ほど経ったある夜のことです。

野口さんのスマホが、ポーンと、間の抜けた音を立てました。

アプリの通知です。


『【ラストレター】佐藤さん(仮名)より、あなたへ遺言が届いています』


野口さんは首を傾げました。

佐藤さんは、昼間まで一緒に仕事をしていた健康そのものの同僚です。


「バグかよ、縁起でもない」


そう苦笑しながらメッセージを開いた野口さんの指が、ピタリと止まりました。


『野口へ。これを読んでいるということは、俺はもういないだろう。すまないな。あの資料室の「隙間」で、俺はある選択を迫られたんだ。いや、選択はできなかったな……。いいか、三段目の棚の裏は、決して覗かない方がいい。……一度見たら……見てしまったら、拒否権なんて……』


「…………え? なんだ?!」


野口さんはすぐに佐藤さんに電話をかけました。

呼び出し音は鳴りますが、一向に出ません。


ただの悪戯にしては、内容が妙に生々しい。


不安に駆られた野口さんは、タクシーを飛ばして会社へ向かいました。


夜のオフィスは、静まり返っていました。

警備員に身分証を見せて、資料室へ向かった野口さんは、そこで見てしまったんです。


三段目の棚の裏。


本来、壁があるはずの場所に、

大人が一人やっと入れるくらいの「不自然な隙間」が空いているのを。


そこから突き出していたのは――。


佐藤さんが常々「これは一生モノの芸術品なんだ」と、うっとりした表情で自慢していた、あの艶やかな、最高級の革靴でした。


磨き上げられていたはずのその靴は、今は不自然な角度で折れ曲がり、隙間の奥へと吸い込まれようとしていました。


佐藤さんの死体は、まるで何かに引きずり込まれたように、その狭い隙間に折り畳まれて押し込まれていました。


検死の結果、死因は「圧死」。


しかし、あんな狭い隙間に人間が自ら入り込み、自分を押し潰すことなど不可能です。


警察は事件と事故の両面で捜査を始めましたが、不可解な点はそれだけではありませんでした。


葬儀の席で、野口さんは佐藤さんの親族に事情を話し、了解を得て、形見となってしまった彼のスマホを特別に見せてもらったそうです。


野口さんが佐藤さんのスマホを確認したところ、アプリに「送信予約」された形跡など、どこにもなかったんです。


それどころか、佐藤さんのスマホには、そのアプリ自体が存在していませんでした。


消したはずのアプリから、本人が死んだ瞬間に、正確に届けられた遺言。


その事実に気づいた瞬間、野口さんの背筋を、氷のような指でなぞられたような、おぞましい悪寒が走り抜けました。


葬儀が終わった日の夜、また野口さんのスマホが鳴りました。


『【ラストレター】佐藤さん(仮名)より、あなたへ追伸が届いています』


震える指で開いた画面には、こうありました。


『もうすぐ、お前のスマホにも「予約完了」の通知が来るはずだ。あれは、インストールした瞬間に、魂のサイズを測るアプリなんだ。お前は俺より少し大柄だから、今度はもう少し広い隙間が必要だろうな。……はは、楽しみだ』


その直後。

野口さんのスマホの画面に、見たこともないポップアップが表示されました。


『あなたの終活をサポートします。

【死亡予定日:明日 23:45】

【死因:不詳(隙間への埋没)】

この内容で予約を確定しますか?』


選択肢は「はい」しかありませんでした。


野口さんはパニックになり、スマホを初期化し、ハンマーで粉々に砕きました。


しかし、翌日の朝。

枕元には、新品同様に戻ったスマホが置かれていました。


……画面には、あのポップアップが表示されたままで……。


……ふふ。

……さて、お話はここまでです。


野口さんがどうなったか、ですか?

さあ……。


ただ、私が以前勤めていた特殊清掃の現場でも、たまにあるんですよ。


「どうしてこんな隙間に、これほど大量の肉が詰まっているんだ?」


と、首を傾げるような現場がね。


皆さんも、アプリをインストールする際は、利用規約をよく読むことです。


……もっとも、規約が「人間の言葉」で書かれていればの話ですが。


おや、お使いのそのスマホ。


……先ほどから、バックグラウンドで何かが「更新」されていませんか?


勝手に始まったアップデート。

それは本当に、OSの更新でしょうかねぇ。


それでは、今夜はこの辺で。

また金曜日の20時にお会いしましょう....。隙間のない、良い夢を……。

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