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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第4章「人間は醜い生き物?」

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ACT.18 先生は正しい?

 白い部屋。


 時計の音だけが響く。


 カチ、カチ、カチ。


 録音機の小さなランプが点いている。

 壁際には、少年担当の職員が一人、静かに立っていた。


 少年は俯いている。


 手は震えている。


 だが――


 まだ、どこかで信じている。


「兄は、正しいんです」


 小さく。

 でも、はっきりと。


「みんなも言ってる」


 空気が止まる。


 アニーの指先が、机に触れる。

 わずかに力が入る。


(これが……支え。同時に、檻)


 美海が一歩、前に出る。


 椅子を引く音。


 ギィ、と鳴る。


「じゃあ聞く」


 低い声。


「君、最初に殴ったあと、何を考えた?」


 少年の喉が鳴る。


「続けるしかないと思った?」


 一拍。


「それとも、誰かに止めてほしかった?」


 沈黙。


 呼吸が乱れる。


「……」


 目が揺れる。


 言葉が出ない。


「誰も止めなかった」


 少年が、絞り出す。


「だから……続けた」


「違う」


 美海が遮る。


「止めるべき人間が」


 一拍。


「背中を押したんでしょ」


 その一言。


 空気が割れる。


 少年の肩が震える。


「……っ」


「兄ちゃんが言ったんだ」


 声が崩れる。


「“やってみろ”って」


「“理論を証明しろ”って」


 放課後。


 誰もいない教室。


 西日が、机を長く引き伸ばしている。

 静かすぎた。


 黒板には、半分だけ消された文字。


『人間は醜い』


 その前に、七條修一が立っている。


 背筋は伸びている。

 影が長い。


 少年は、教室の入り口で止まった。


「兄ちゃん……」


 声が小さい。


 七條が振り返る。


 整いすぎた笑顔。


「来たか」


 一歩、近づく。

 ゆっくり。

 逃げ場を潰すように。


「どうだった?」


 問いは優しい。

 だが、逃げ道がない。


 少年は視線を逸らす。


「……怖かった」


 正直な言葉だった。


 七條は、少しだけ目を細める。


「そうか」


 否定しない。


「それが“現実”だ」


 黒板を指でなぞる。


「人間は醜い」


 一拍。


「弱い者は、いずれ壊れる」


 振り返る。


「だから、確かめろ」


 少年の肩に、手を置く。


 温かい。

 その温かさが、逃げ道を奪っていた。


「お前ならできる」


 その一言。


 命令じゃない。


 だが――


 拒否できない。


(信じてくれてる)


 胸が、少しだけ熱くなる。


(兄ちゃんが……)


(認めてくれてる)


 けれど、その信頼は、選択肢を奪っていた。


「証明してみろ」


 七條が言う。


「理論は、言葉じゃ足りない」


「現実で示せ」


 一拍。


「それが教育だ」


 少年の指が、わずかに握られる。


 迷いが消えていく。


 いや。


 消されていく。


 七條は、安心させるように笑った。


「大丈夫だよ。お前はちゃんと分かってる。間違えない」


 その言葉は、救いの形をした拘束だった。


 現在。


 取調室。


 少年の呼吸が荒い。


「……兄ちゃんは……」


「信じてくれたんだ……」


 涙。


 だが、その意味が変わり始めている。


 アニーは少しだけ息を吸った。


「……それ、信頼じゃあないよ」


 声は柔らかい。

 だが、逃がさない。


「断れないようにされた命令だ」


 少年の目が揺れる。


 “信頼”と“支配”が、分かれる。


「でも……おれ……」


 少年の声が震える。


「間違ってた……?」


 アニーは頷く。


「うん」


 優しく。

 でも、はっきりと。


「間違ってた」


 少年の肩が震える。


 アニーは続ける。


「でも、それで終わりじゃあない」


 一拍。


「そこから、どうするか」


 美海が静かに言う。


「やったことの責任は消えない」


 少年が顔を上げる。


「でも、君だけの罪にして終わらせる話でもない」


 静かな部屋。


 時計の音が、また戻る。


 カチ、カチ、カチ。


 アニーがしゃがみ、目線を合わせる。


「今からでもいい」


「“違う”って選べる」


 一拍。


「自分で」


 少年の指が、ゆっくりと動く。


 顔を覆っていた手が、少しだけ下がる。


 涙で濡れた目。


「……おれ……」


 声が、震える。


「兄ちゃんに……止めてほしかった……」


 その言葉が落ちた瞬間。


 “証明”は、終わった。


 黒板の文字。


『人間は醜い』


 その下。


『証明』


 そして、誰もいない教室に、まだその声だけが残っている。


「お前ならできる」


 The Next Mission

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