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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第4章「人間は醜い生き物?」

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ACT.17 完璧な教師

 徳島県警・ガイアスワット本部。

 作戦室。


 アーケロンの大型モニターに、データが流れている。


 中央に、一枚の顔写真。


 七條修一。


 整いすぎた笑顔。


 その横には、医療ベッドで眠る少年の映像が映っていた。

 呼吸は安定している。

 だが、表情は動かない。


「……弟、か」


 リリが低く言う。


 舞の声が返る。


「親族関係の尤度、極めて高値。戸籍情報とも一致。七條修一の実弟でほぼ確定です」


 空気が重くなる。


 モニターが切り替わる。


 アーケロンの分析画面。


 ■七條修一 関連情報


 ・徳島県優秀教員賞、三年連続受賞

 ・生徒アンケート上位常連

 ・保護者アンケート評価、県内最高水準

 ・教育委員会主催研修、推薦講師


「……完璧すぎる」


 アニーが呟く。


 美海は、画面から目を離さない。


「完璧なやつほど、嘘が上手い」


 短く言う。


 アニーが一歩前へ出る。


「アーケロン」


 声が少し強くなる。


「七條の発言と教材を分析」


 一瞬の沈黙。


 画面に数値が浮かぶ。


 ■言説傾向解析

 ・選別思想への傾斜:高

 ・被害者責任論への誘導:高

 ・集団同調リスク:危険域


 無機質な音声が響く。


「授業記録、講演録、教材文書を解析。七條修一の言説には、選別型合理主義に類似する傾向が確認されます」


「……選別」


 アニーが繰り返す。


「教育、じゃあないね」


「管理だ」


 美海が即答する。


 舞が別のウィンドウを開く。


「これ、教育委員会ホール裏口の防犯カメラ」


 映像が再生される。


 夜。

 七條が歩く。


 その前に、立つ男。


 神無月煉。


 小型ケース。


 受け渡し。


 映像が止まる。


「接触は取れたわね」


 リリが言う。


「ケースの中身までは映っていない。でも、偶然で片づけるには出来すぎている」


 舞が補足する。


「人造人間SPの供給ラインに関与している可能性は高いです」


 アニーは画面を見つめたまま動かない。


(弟を……実験に?)


 理解が追いつかない。


「おかしい」


 アニーが呟く。


「生徒からも、保護者からも評価されていて……」


 一拍。


「なんで、こんなこと……」


 美海が言う。


「両立してるんだよ」


 振り向く。


「“良い教師”と“危険な思想家”」


「むしろ」


 一歩、近づく。


「だから成立してる」


 リリが腕を組む。


「子供に“正しさ”を教える立場だからこそ。その“正しさ”を疑われない」


 静寂。


 アニーの手が、わずかに握られる。


(正しいことが……間違う)


 昨日、自分が選んだもの。


(……なら)


 顔を上げる。


「止めるしかない」


 その一言に、迷いはなかった。


 奥から、井上風見の声がした。


「令状請求には、まだ足りん」


 一拍。


「だが――」


「現場はもう動いている」


 画面が切り替わる。


 学校。


 七條の勤務先。


「次に動くなら、あそこだ」


 モニターの中で、七條が笑っている。


 完璧な教師。


 だが、その裏で。


 確実に、“壊す教育”が進んでいた。


 徳島市内・高校。

 正門前。


 カメラ。

 フラッシュ。

 マイク。

 人の壁。


「七條先生! 今回の件について――!」


「弟さんが関与した暴行事件ですが!」


 未成年の氏名は伏せられている。

 だが、ネットではすでに七條の弟だと特定されていた。

 記者たちは、その名前を口にしないまま、関係だけを突いてくる。


 その中心に、七條修一がいた。


 スーツ姿。

 乱れ一つない。


 微笑む。


 角度すら、完璧だった。


「非常に残念です」


 声は柔らかい。

 揺れない。


「家族として、教育者として、痛恨の思いです」


 マイクがさらに近づく。


 七條は少しだけ目を伏せた。


「ただ、現在は捜査中です。私から断定的なことは申し上げられません」


 一拍。


「それでも、彼がなぜあのような行動に至ったのか、私は向き合うつもりです」


 沈黙。


 そして。


「……立派だ」


 誰かが呟く。


「むしろ先生も被害者だよ」


「こんな状況で、あそこまで……」


 空気が決まっていく。


 肯定。


 “守られている”。


 言葉ではない。


 空気で。


 誰もいない教室。


 カーテンが揺れる。


 黒板には、消し跡。


 完全には消えていない文字。


『人間は醜い』


 その下。


 爪で引っ掻いたような、小さな文字。


『証明』


 静かだった。


 だが、確かに残っている。


 ガイアスワット本部。


 モニターには、生放送が映っている。


 アニーは、立ったまま動かない。


 美海も同じだった。


「……綺麗だね」


 アニーが言う。


「言葉も、顔も」


 一拍。


「全部、正しそうに見える」


「だから厄介なんだよ」


 美海が即答する。


「“正しい顔をした嘘”が一番通る」


 腕を組む。


「しかも今回は、本人が嘘だと思ってない」


 アニーは画面を見たまま言う。


「……あの人、本気で言ってる」


「そうだよ」


 美海の声は低い。


「だから止めにくい。悪人なら簡単だった。でもあれは――」


 一拍。


「“正しさで人を壊すタイプ”だ」


 アニーの視線が、黒板の映像に切り替わる。


『人間は醜い』


 一瞬、胸の奥に刺さる。


(……否定できない)


 でも。


『証明』


(だから壊していい、にはならない)


「……行こう」


 アニーが言う。


「直接、見ないと」


「待ちなさい」


 リリの声。


 アニーが振り返る。


「今行けば、“正義の押し付け”にしかならない」


 一拍。


「相手は教師よ。土俵が違う」


 アニーが止まる。


(戦い方が違う)


 舞が口を開く。


「学校内のカリキュラム、解析中。七條の授業、録画データあり」


 モニターに、別の映像が開く。


 教壇。


 七條。


「弱さは罪です」


 教室の生徒たちは、静かに聞いている。


 本部の空気が、さらに重くなる。


 外では賞賛されている。

 教室では、静かに染み込んでいる。


 同じ人物。

 同じ言葉。


 けれど、届き方が違う。


 アニーは、ようやく理解する。


(これは……戦いじゃあない。教育だ)


 The Next Mission


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