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特殊警察ガイアスワット  作者: まとら 魔術
第4章「人間は醜い生き物?」

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ACT.16 人間の本質

 徳島市・教育委員会ホール。


 拍手。


 乾いた音が、空間に反響する。


 壇上に、一人の男が立っていた。


 スーツは皺ひとつない。

 姿勢はまっすぐ。

 整いすぎた顔立ち。


 “理想の教師”。


 その言葉が、そのまま形になったような男だった。


 司会が読み上げる。


「本年度・徳島県優秀教員賞――七條修一先生!」


 フラッシュ。

 光が連続で弾ける。


 七條は、ゆっくりと頭を下げた。

 角度も、時間も、完璧だった。


 マイクに手を添える。


「教育とは、人間の本質と向き合うことです」


 柔らかい声。

 よく通る。


「綺麗事ではなく、現実を教えるべきだと考えています」


 会場が頷く。


 誰も疑わない。

 その言葉を。

 その人間を。


 拍手。


 再び。


 その中に、一人だけ、拍手をしていない男がいた。


 神無月煉。


 後方の席。

 光の当たらない位置。


 足を組み、肘を椅子に預けている。

 口元だけが、わずかに歪んだ。


(……“現実”ねぇ)


 周囲の拍手とは無関係に、ただ観察している。

 値踏みするように。


 会場の裏口。

 関係者以外立入禁止のプレート。


 その向こうの廊下は静かだった。


 七條が歩いてくる。

 表情は変わらない。

 穏やかなまま。


 そこに、神無月煉が立っていた。


 壁にもたれ、待っている。


「……いいスピーチだったよ」


 軽い声。


 七條は一瞬だけ足を止める。

 だがすぐに、微笑んだ。


「ありがとうございます」


 目は笑っていない。


 神無月が一歩近づく。


「“現実を教える”か」


 低く笑う。


「いいじゃん。ちょうどいい教材がある」


 七條の視線が、わずかに落ちる。


 神無月の手。

 そこには、小型ケースがある。


 黒。

 無機質。


「……例のものですか」


 声は静かだった。

 だが、少しだけ硬い。


 神無月はケースを軽く叩く。


「人造人間SP。最新版」


 空気が変わる。


「従来より感情抑制が効いてる。恐怖、罪悪感、ためらい。その辺をかなり鈍らせる」


「暴走率は?」


 七條が問う。


「三パーセント未満」


「……許容範囲ですね」


 神無月が笑う。


「いいねぇ。その顔」


 一歩、距離を詰める。


「“教師”の顔じゃない」


 七條は何も言わない。

 ただ、ケースを受け取った。


 重さを確かめるように。


「試験体には、もう入れてある」


 神無月が囁く。


「これは追加分だ」


 七條の目が、わずかに細くなる。


「子供たちに、“現実”を見せたいんでしょう?」


「だったらさ」


 もう一歩、近づく。


「壊れるところまで見せなきゃ、意味ないよな」


 沈黙。


 七條は静かに答える。


「……教育とは、選別でもあります」


 顔を上げる。


 その目は、壇上にいた男とは別人だった。


「耐えられる者だけが、次に進める」


 神無月の口元が、大きく歪む。


「最高だ」


 遠くで、まだ拍手が続いている。


 ホール。

 理想。

 賞賛。


 その裏で、確実に何かが始まっていた。


 その少し後。

 徳島市内、路地裏。


 街灯は一本だけ。

 光は弱く、影が濃い。


 ドンッ。


 鈍い音。


 老人の身体が、地面に叩きつけられる。

 呼吸が詰まる音。

 空気が抜ける。


 その前に立つ、制服姿の少年。


 だが、目が違う。

 焦点が合っていない。


 拳が、ゆっくりと握られる。

 関節が、ギシ、と鳴った。


「……証明だ」


 かすれた声。

 感情が乗っていない。


 老人が、かろうじて顔を上げる。


「や、やめ……」


 拳が振り下ろされる。


 ゴッ。


 骨に当たる音。


 少年は止まらない。


「強いか、弱いか」


 一発。


「耐えられるか、壊れるか」


 二発。


「それだけだ」


 老人の身体が、動かなくなる。

 かすかに胸だけが上下していた。


 静寂。


 少年は、ただ見下ろしていた。


 呼吸は乱れていない。

 痛みも、迷いもない。


「……適応失敗」


 小さく呟く。


 その背後、暗闇の中。

 神無月煉が立っていた。


「いいね」


 軽い声。


 壁にもたれ、腕を組んでいる。


「ちゃんと“教育”されてるじゃん」


 少年は振り向かない。

 ただ立っている。


 命令を待つように。


 神無月が笑う。


「次、行こっか」


 その瞬間。


 遠くからサイレンが聞こえた。


 赤が、夜を裂く。


 三台のガイアマシンが、路地へ向かって走る。


 ガイアドルフィン。

 ガイアオルカ。

 ガイアツナ。


 無線が飛ぶ。


 《徳島市内、傷害事案発生。被疑者は未成年の可能性あり》


 アニーの目が、わずかに揺れる。


(未成年……?)


 美海の声が無線に乗る。


「アニー」


「はい」


「今回、選べるか」


 一拍。


「見せて」


 アニーは前を見る。


「……はい」


 アクセルが踏み込まれる。


 夜が加速する。


 サイレンが、路地に反響する。

 赤が、壁を塗る。


 ガイアツナが急停止した。


 ドアが開く。

 アニーが降りる。


 視界に入る。


 倒れている老人。

 血。

 動かない身体。


 その前に、少年。


 制服のまま。

 拳を下げたまま、立っている。


 動かない。


 だが、明らかに普通ではない。


「……やめて」


 アニーが言う。


 距離を取ったまま。


「もう、終わり」


 少年は、ゆっくり顔を向ける。

 焦点の合わない目。


「……証明」


 同じ言葉。

 同じ温度。


 一歩、近づく。


 アニーの右腕が、わずかに重くなる。

 ガイアブラスター。


(撃てば、止まる)


 一瞬で浮かぶ。


 でも。


「……壊さない」


 小さく呟く。


「君、名前は?」


 声を落とす。

 できるだけ柔らかく。


 反応はない。


 ただ、少年が踏み込んできた。


 速い。

 迷いがない。


 拳。


 一直線。


 アニーは腕で受ける。


 衝撃。

 重い。


「っ……!」


 後ろに下がる。


(強い……ただの子供じゃない)


 背後で、美海とリリが左右へ散る。

 退路を塞ぐ。

 老人への接近も断つ。


 リリは老人側へ回り、脈を確認する。


「生きてる。救急、急がせて」


 だが、正面は空けている。


 美海の声。


「アニー」


 一拍。


「正面は任せる。危なければ入る」


 少年が再び来る。


 連打。

 速い。


(壊す?)

(止める?)


 アニーは、自分から前へ出た。


(止める)


 間合いを潰す。


 拳が頬をかすめる。

 衝撃が走る。


 それでも、止まらない。


 腕を取る。

 手首。

 肘。

 関節を固める。


「……止まって!」


 少年が抵抗する。

 力が強い。


 外そうとする。


「それ、証明じゃない!」


 アニーは歯を食いしばる。


「ただの壊し方だよ!」


 一瞬。


 少年の動きが止まる。


「……壊れる」


 小さく呟く。


「弱いから」


 アニーは即座に返す。


「違う!」


 さらに体重を乗せる。


「弱いから、壊していいわけじゃない!」


 少年が暴れる。

 制御が効かない。


 このままでは、押さえ切れない。


 アニーは右腕を引いた。


 ガイアブラスター。

 至近距離。


 非致死設定。

 鎮静弾。


「……ごめん」


 発射。


 少年の身体が、揺れる。


 力が抜ける。

 膝が落ちる。


 アニーは受け止めるように、その身体を静かに床へ下ろした。


 呼吸が荒い。


(……撃った。でも、壊してない)


 リリが近づき、少年の首元に手を当てる。


「生体反応、安定」


 美海が言う。


「よくやった」


 一拍。


「今のは、ちゃんと選べてた」


 アニーは少年を見る。


 ただの子供。

 ただ、壊されただけの子供。


(守れた……?)


 完全じゃあない。


 でも。


(止めた)


 それは確かだった。


 遠くで救急車の音が近づく。

 老人が搬送される。


 路地裏に、静けさが戻る。


 だが、その裏で。


 確実に、“歪んだ教育”が広がっていた。


 The Next Mission


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