ACT.19 力付く
教育委員会・会議室。
七條修一への聴取は、張りつめた空気のまま続いていた。
沈黙。
その中心で、七條は笑っていた。
だが、その笑みはどこか硬い。
「……もういい」
小さく呟く。
視線が横に流れる。
スーツの袖。わずかな操作。
「理論は、証明された」
一拍。
「なら――次の段階だ」
ガチッ。
会議室の照明が一瞬だけ落ちる。
非常灯。
赤い光。
ドアが開く。
重い足音。
無機質で、均一な足取り。
入ってくる。
黒い影。
一体。
その後ろに、さらに二体。
人造人間SP。
三体。
「命令確認」
機械の声が重なる。
「排除」
先頭の一体が、一歩踏み込む。
床が軋む。
速い。
机が弾け飛ぶ。
「伏せて!!」
リリが叫ぶ。
美海、即座に銃を抜く。
発砲。
バンッ!!
直撃。
だが。
止まらない。
「チッ……効きが浅い!」
アニーも動く。
腕の痛み。
無視。
横に回る。
「関節――!」
狙う。
膝。
蹴り。
だが。
硬い。
金属のような感触。
「……人間じゃない!」
SPが振る。
拳。
空気が裂ける。
ドンッ!!
壁が凹む。
「外に出る!」
美海。
「ここじゃあ被害が出る!」
煙。
破片。
三人、走る。
廊下。
警報が鳴る。
「侵入者確認、侵入者確認――」
後ろ。
SPが来る。
一直線。
「速い……!」
アニー、息が荒い。
ガラス扉。
蹴破る。
パリンッ!!
外気。
光。
駐車場。
ガイアドルフィン。
ガイアオルカ。
ガイアツナ。
三台は、緊急展開を想定して会議室棟の前に待機していた。
「乗り込め!!」
ドアを開く。
一瞬の呼吸。
上着を払い落とす。
下にはアンダータイツ。
身体に密着した生地に、神経接続ラインが淡く走る。
「ライズアップ!!」
三人、同時。
ダッシュボードのスイッチが沈む。
キィィィィィン――
車体とスーツが同期する。
装甲が形成される。
視界が切り替わる。
HUD起動。
SPが外へ出てくる。
無機質な動き。
「命令確認。排除継続」
美海が前に出る。
拳を握る。
「来いよ」
リリは横へ回る。
「重機レベルの出力……気をつけなさい」
アニーは息を整える。
痛みは残っている。
でも。
目は逸らさない。
(これは、教育じゃあない。ただの暴力)
SPが踏み込む。
地面が割れる。
空気が震える。
三人が、同時に動いた。
教育委員会・屋外駐車場 。
赤色灯が、アスファルトを舐める。
サイレン。
風。
焦げた匂い。
人造人間SP。
三体。
無機質に並ぶ。
「命令確認」
「“排除”」
同時に、踏み込む。
美海、先行。
低く構える。
「……こいつら、迷いがない」
拳。
叩き込む。
ドンッ!!
SPの胴が揺れる。
だが。
止まらない。
反撃。
腕が振り下ろされる。
ガンッ!!
地面が砕ける。
「だから危険なんですよ!」
アニー。
横から入る。
関節。
肘。
極める。
「“止まる理由”がない!」
リリ、背後へ回る。
「なら――止めるしかないわね!」
蹴り。
「装甲は厚い!」
リリが叫ぶ。
「でも、首元と胸部に制御系が集中してる! そこを潰せば落ちる!」
「だったら――止められる!」
アニーが横から入る。
リリが軸足を刈る。
ガクッ。
一瞬、SPのバランスが崩れる。
その瞬間、美海が踏み込んだ。
「そこだッ!!」
拳が、胸部コアへ叩き込まれる。
ドンッ!!
鈍い音。
SPの動きが止まる。
崩れる。
残り二体。
同時に来る。
アニー、前へ。
「来い!」
一体を引きつける。
フェイント。
誘導。
もう一体が、死角へ回る。
だが。
リリが潰す。
「遅い」
回し蹴り。
首元。
ギィン!!
機構が歪む。
動作エラー。
停止。
残る一体。
その背後。
七條修一。
動かない。
ただ、見ている。
観察。
評価。
SPが、口を開く。
「命令確認」
一拍。
「証明」
動きが、変わる。
より直線的。
より無駄がない。
「……今の」
アニーが息を呑む。
「弟と同じ……」
美海が舌打ちする。
「思想ごと、仕込んでる」
SP、突進。
一直線。
止まらない。
アニーが受ける。
「っ!!」
押される。
力が違う。
(でも)
(止める)
踏ん張る。
一歩。
さらに一歩。
距離を詰める。
「……止まれ!!」
叫ぶ。
意味はない。
でも。
ぶつかる。
美海が横から入る。
「アニー、離れろ!」
アニー、引く。
一瞬。
リリがタイミングを合わせる。
「今よ!」
三方向。
同時。
衝撃。
ドンッ!!!
SPの身体が歪む。
内部から、火花。
そして。
停止。
動かない。
完全に。
沈黙。
その向こう。
七條が立っている。
拍手。
ゆっくり。
「素晴らしい。やはり、“迷い”はノイズになる」
一歩、前へ。
「彼らは、迷わない。それだけで十分なんです」
視線が、三人をなぞる。
「倫理も、罪悪感もない。だからこそ、純粋なんです」
美海、前へ出る。
「それを“人間”って呼ぶな」
低い声。
「ただの道具だ」
アニーは一歩、並ぶ。
「……違う」
視線を逸らさない。
「それ、“壊れてる”だけです」
七條、微笑む。
だが。
わずかに、歪む。
「価値観の違いですね」
駐車場の出入口には、すでに制服警官が展開していた。
七條の逃げ道は、消えている。
リリ、無線。
「対象、確保する」
警官たちが駆け寄る。
手錠。
カチッ。
七條の手首にかかる。
抵抗はない。
ただ。
最後に、言う。
「いずれ分かりますよ。人間は――」
一拍。
「醜い」
美海が、遮る。
「違う」
間髪入れず。
「それでも、止めるのが人間だ」
沈黙。
サイレンだけが響く。
そして。
“迷わない正しさ”は。
ここで、初めて捕まる。
The Next Mission




