出会い
何もない。あれから、3週間探すが、見つからない。どうしたらいい。あと、1週間で仕事がおわってしまう。そとは、寒かった冬も終わり、桜の花が咲き始めている。どうするんだ。どうなる。のループ。通帳を見ては、残金30万円。いつまでも居ていいよ。って言ってくれたけど、甘えるわけにはいかないし。深いため息。とりあえず、明日は休みだから、明日、考えよう。
「奈菜ちゃん。奈菜ちゃん。居る?」奥さんの声と同時に玄関が開いた。慌てて玄関へ向かう。
「おはようございます。」
「おはよう。奈菜ちゃん。明日、休みよね・何か予定ある?」
「何もないですが、まだ再就職先が見つからず職安に行こうと思ってました。」
「あら、ちょうど良かった。実はね私の学生時代から仲の良い友達がいて今回のお店の事とか奈菜ちゃんの話をしたら、住み込みで働いてほしい人を探していたみたい。ちょっと奈菜ちゃんは若すぎるけど、食品科を卒業してる言ったら会ってみたいって言うから、明日一緒に行って欲しいのよ」
「どんな仕事ですか?」
「俳優さんの食事管理と生活全般のお手伝い」みたいな事みたい。明日、詳しく聞かせてくれるって。どう?」
「じゃ、話だけでも」
「決まりね。」
奥さんはいつもにこにこしている。本当に病気をしているようには見えない。とりあえず、住み込みで家政婦のようなものならお金の心配はしなくていい。話を聞くだけ聞いてみよう。これで、だめならまた一から考えよう。
翌日奥さんと私はホテルのロビーにいた。
「奥さん。私、大丈夫ですかね?緊張するんですけど」
「大丈夫よ。奈菜ちゃんは笑顔が可愛んだから、笑ってれば大丈夫よ」
「あ、ありがとうございます」
ホテルの入り口に視線を逸らすと、サングラスをかけた派手なおばさんが勢いよくこっちに向かってやってくる。
「芳江ちゃん。お待たせ。待った?」
「みっちゃん。今日はありがとね」
二人が会話を始めて、この人が紹介者か。仕事が務まるか不安になってきた。
「芳江ちゃん、この子?」
「そうよ」
「あら、ずいぶん若いわね。大丈夫かしら?」
「みっちゃん。前も話したけど、来週にはお店を畳んじゃうから、あまり時間もないのよ。一度、話だけでも聞いてもらえるかしら」
「とりあえず、カフェに入りましょ。一馬ももう少しで来るから」
一馬?一馬って。まさか?
「あ、来た来た。早いじゃない」
胸の鼓動が早くなる。恐る恐る振り向くと、やってきたのは、やっぱり人気俳優の鈴木一馬だ。え、うそでしょ。この人の家政婦になるの?絶対にダメ。無理。
「一馬。この方よ。どう?ちょっと若すぎるわよね」
「初めまして。鈴木一馬です。」
どうしよう。顔をあげれない。芸能人を見たこともないけど、何より、男性なのにこんなきれいな人見たことない。
「あ。はじめまして・・。佐々木奈菜です」
「光江さん。まずは座ってゆっくり話しましょうよ」
「そうね。じゃ、行きましょう」
ロビーに併設されたカフェに入るが、緊張してうまく顔を見ることが出来ない。でも、奥さんは、あまりにもきれいな一馬さんに喜んでいる。
「奈菜さんはコーヒー飲めますか?」
「はい」俯きながら返事をすると、店員に
「コーヒー4つお願いします」
はっきりと話す方だなと思った。
サングラスのおばさんが話し出す。
「奈菜さんは食品科を学生時代に専攻されてて料理が上手なんでしょ。みっちゃんから聞いたけど」
「食品科は食品科ですけど、調理とかではなく食品化学科で化学を専攻していたので、料理よりかは、ハムやパンなど加工品が専門です。なので、希望に添えないと思います」
そう、私には、こんなきれいな方と一緒に一つ屋根の下に住むなんてできない。きっと彼女もいるだろうし、親御さんだって、私なんかを見たら、追い出したくなる。
「あら。そうなの。残念ね。料理ができないなら、仕方ないわね」
なんか、むなしいけど、でも、これでいいのよ。私には出来ない。
「いや。そんなことはない。ちょっと聞いてもいいですか?なますは好きですか?なますはどうやって作りますか?」
「なますですか?人参と大根の入った酢で漬け込んだものですよね」
「そうです。その、なますです」
「私のなますは大根を千切りにして、塩をふりかけ5分ほど置きます。そして力いっぱい揉みます。すると、たくさん大根の汁が出てきます。じゃぱじゃぱになるくらい揉んだら1度水切りをして再度揉みこみ水切りし、人参を軽くゆでて使います。人参は生で食べると、ほかの食材のビタミンを壊す性質があるので、基本的には軽くゆでてから使用します。ただ、この性質も酸に弱いので生でもよいのですが。あとは、調味料を入れて胡麻を足した素朴なものです。大根は揉みこむことによって歯ごたえが良くなります。こんな感じですが・・。
「やっぱり。光江さん。僕が探していたのは料理ができる人じゃなくて、食材の性質や食べ合わせを知っている人が欲しかった」
「奈菜さんが良かったら、僕の傍でサポートしてもらえませんか」
え。どうしよう。どうしよう。私、絶対にうまくいかない気がする。不安になり奥さんの顔を見ると、奥さんは涙を浮かべていた。そして、口を開いた。
「奈菜ちゃんはとても良い子です。私たち夫婦には子供がいません。奈菜ちゃんが本当の娘のようで、奈菜ちゃんが食卓にいるととっても明るくなります。私の誕生日や母の日にはいつも花を買ってきてくれて、主人も毎日、今日の奈菜ちゃんの話をしてきます。うちは、ガソリンスタンドを経営していまして、寒い日も暑い日も大変です。でもね、奈菜ちゃんは泣き言も言わず、いつも笑顔でね。そんな笑顔に何度助けられたでしょう。奈菜ちゃんの為にも、お店を可能な限り続けたかったけど、私が病気になってお店を畳むことになったのに、奈菜ちゃんは私たちを責めるどころか、私の体を心配してくれました。本当にいい子です。
娘を家から出すには勇気がいります。どこの骨かもわからないような人ではなく、しっかりした、この方なら主人も私も安心します。なにより、みっちゃんが見守ってくれるなら安心して治療に専念できる。奈菜ちゃん、一馬さんもこう言ってくれているのだから、前向きに考えたら?」
「奈菜さん。ちょっと、散歩しませんか?」
「は、はい」
「光江さん。いいですよね?」




