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人気俳優 鈴木一馬の家政婦  作者: チーニャン
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ガソリンスタンド

真冬のガソリンスタンドは地獄で冷たい北風が頬を刺すように吹いてくる。洗車も手洗いコースを頼まれれば、凍るように冷たい水が、過酷さを増す。真夏になれば熱射が襲い掛かる。コンクリートの照り返しで頭がクラクラする。去年は2度も熱中症になった。何度も自分に問いかけた。なぜ、辞めない。でも、やめることが出来ず、もうすぐ、3年になる。高校を卒業と同時に長崎から上京して約10年。最初はドックフードの開発・生産を行う会社に入社したが、近年の猫ブームによりペットは犬派より猫派が増え、業績が落ち込み3年前に倒産。寮暮らしだった私は職場と住む場所を同時に無くした。行き場を失った私を拾うように救ってくれたのは、このガソリンスタンドの高齢夫妻。危険物の資格を持つ私を自宅の離れを貸してくれていて住み込みで働かせてくれている。なので、多少辛くても、生活のために辞めることはできない。


「佐々木さん。お店の戸締り終わったら、家まで来てくれる?」


わかりました。あとで、伺います。


旦那さんに声を掛けられ、少し緊張が走った。なんだろう。嫌な予感しかしない。閉店時間が過ぎ、締め作業と、明日の準備をして母屋へ向かい玄関を開けると、奥さんが出迎えてくれた。

「奈菜ちゃん。お疲れ様。寒かったでしょ。

まずは、温まって。」

居間ではなく台所に通されると、汚れた服装でも気にしないで座れるように、ビニールの椅子が置いてある。長年、旦那さんが使用してきた椅子であるだろう。この夫婦には子供がいない。正確には一人息子さんがいたが交通事故で若くして亡くなった。そんなこともあり、奥さんは私を本当の娘のようにかわいがってくれる。椅子に腰かけると奥さんが暑いお茶とどら焼きを出してくれた。どら焼きを頂きながら、奥さんとたわいもない話をしていると、旦那さんがやってきた。


「いやいや。佐々木さん。今日も寒かったね。お疲れ様。実はね、話しておきたいことがあるだ。お店のタンクのことだけど、来月で使用年数が45年になるんだ。それと同時にお店も畳むことにしようと思う。実は家内がね、先月の定期健診でガンがみつかったんだ。残りの時間をゆっくり二人で過ごすために時間が必要かなと思ってさ。俺は、ずっとお店を開けていて、仕事ばかりで旅行にだって連れて行ってない。なんだか、このままじゃ後悔しそうでね。急で申し訳ない。でも、再就職先が決まるまでは、離れを使っていいからね。それが、私からの退職金だからね。」

「奈菜ちゃん。本当に急でごめんね」

「いえ、奥さん体調は大丈夫ですか?」

「今はいいけど、これから薬を使って治療するんじゃないかな?でも、年寄ってガンの進行するのも遅いらしいの。だから、急に悪くなるってことはないみたい。この点は、年齢に救われてるわね」微笑みながら奥さんは私の湯飲みにお茶を注いだ。きっと、不安や心配事もあるのにそういう素振りを見せなかった。


自分の部屋に戻ってきた。ガソリンを貯めておくタンクの使用期限か・・。すっかり忘れてた。もう、古いよね。

消防法により40年から50年たったタンクは油漏れの対策としてタンクの取り換えや、プラスチックでコーティングなど何らかの方法を取らないと使用できない。でも、何より奥さんの事を考えたら、胸が締め付けられる。

二人には、残された時間を大切にしてほしかった。明日からは、職探しだ。


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