第七話 裏切り者
ーー広場
「とうとう、知ってしまったんですね」
タカシが俺にポツリと呟いた。広場にはタカシ、サキ……そして、ヨウスケがいた。一番のユカの部屋からは出てきており、円になって俺を待っていた。
「ごめんね、黙っていて」
サキが俺に申し訳なさげに謝ってきた。ヨウスケは何も言わない。
「正直、何が何だか分からないよ。いきなり七番目の人格って言われてもさ。それに、皆最初からこの密室がユカの脳内だってこと知ってたんだな。少し、悲しいよ」
「すみませんでした……理解し難いかもしれませんが、アナウンスのルールだけは守ってください。人格の交代の時に、必ず発生するので」
ヨウスケが白々しく俺に忠告をしてきた。
その言葉を聞いて、俺は一瞬ヨウスケの顔を見た。コウヘイから聞いた話が本当なら、こいつが裏切り者だ。だが、ヨウスケの表情には、俺を騙そうとしているような悪意は見えなかった。
俺はヨウスケどころか今ここにいる全員を決して信用はしない。そう心に決めて、自分の部屋のベッドへ戻った。
そして、少し時間が経った頃。
(全員自分の部屋にお戻りください。午後六時まで内側から鍵を掛け……)
その後は、いつも通りのアナウンスだったので俺は雑に部屋の内鍵をかけた。
ーー午後六時
俺は広場へ行くか、決めかねていた。本当にコウヘイの言う事が全て正しいのなら、もうここでする事は特にない。犯人探しも何もかも。
コンコンッと誰かが俺の部屋をノックした。
「ツバサ、開けてくれないか」
俺は、ベッドから無気力に起き上がり内鍵を開けた。扉の前にはコウヘイ、サキ、タカシがいた。
「少し、話をしたい。中に入れてくれないか」
「……勝手にしてくれ。俺は何も話す事はない」
「そうか……なら、耳だけでも立てていてくれ」
そう言って、全員俺の部屋に入り円になって座った。ヨウスケはいない。おそらく今がヨウスケが人格の番なのだろう。
「タカシとサキには少し話をしたが、ヨウスケが裏切り者で間違いないだろう。おそらく俺が明日死ぬ」
「止められないのね。残念ね」
コウヘイとサキが話し始めた。
「ヨウスケ君は一体何でこんな事を……やっぱり計画に反対だったんでしょうか?」
タカシの口からまた、コウヘイの言っていた計画という言葉が出てきた。
その言葉を聞いて、俺はまた疑問を覚えた。一体、何の計画なんだ。そこから三人がつらつらと話し合いをしていたが、俺はもう何も信じたくないし、何も見たくない。何より、コウヘイが言っている事が本当ではないとしたら俺も殺される可能性は充分にあり得る話なのだ。
そう思って震える手を抑えながら、俺は無理やり目を閉じた。
ーー翌日
コンコンッと扉を叩く音が聞こえた。時計を見ると、まだ九時ではない。一体誰がと思い、扉を開けるとヨウスケが立っていた。俺は思わず警戒態勢を取った。
「あははっ。その様子じゃコウヘイさんから何かしら聞いたんですね。警戒しなきゃって感じが、ビンビンに伝わってきますよ」
そう話すヨウスケはいつもより、いくらか上機嫌に見えた。眠たい目を擦りながら、ヨウスケへの警戒態勢を少し解いた。
「ある程度はね。けど、俺はもう誰も信用しないよ」
「はい、その方がいいと思います。ところでツバサさん、初めて人格の番です。あの部屋へ行ってください」
今更俺に何をしろと言うのだ。だが、拒否をしたら何をされるか分からない。俺は重たい足で、その扉へと向かった。
扉について、昨日の鍵を使いこじ開け廊下を歩く。あぁ、何で俺が七番目に選ばれたのだろう。知らない方が良かったと本気で後悔をした。
昨日、コウヘイがいた部屋についた。
俺はおぼつかない操作で、パネルを触り始めた。意外にも操作は簡単であり、人格として母体の操作をする事にすぐ慣れた。
「受刑番号13666番!起きているのか!」
俺はハッとした。まさか俺がいるのは、いや、ユカがいたのは刑務所であった。
昨日のコウヘイが操作していたガラス板。あれはユカが刑務所にいる事を示していたのだ。昨日は余りの驚きにそんな事気にする余裕もなかったが、よもや犯罪者だったとは。
「13666番!聞いているのか!」
俺は慌てて操作を始めた。はい!と俺は声を出した。
「貴様、何番目だ!また、新しい人格なのか?どうしてこう厄介な事になるんだ……所長に報告せねば」
そう言って看守の人は立ち去ってしまった。
そうして、しばらく操作を続けるうちにわかった事がある。
・ユカは受刑者である
・罪状は放火殺人をしたとして終身刑である
・現在のユカは実年齢35歳
・ユカが多重人格者である事は、外の世界では周知である
まさか、あのユカがそんな事になっていようとは。では、なぜ俺という人格が生まれたのだ。俺はあと死ぬまでの時を新しい人格として過ごさなければならないらしい。そんな事なら、俺という人格が目覚めなければ良かったのに……。
そう思っていると、
「受刑番号13666番!面会だ。サキと話がしたい。代わってくれ」
なるほど、こうしてアナウンスをして人格の交代を行なっていたわけだ。少し、待ってくださいと言って、俺は部屋を後にした。
ーー広場
下を向き、ある筈のない小石を蹴るように扉を開けた。
……そこにいたのは、血塗れのペンを握り締めたサキとその側で倒れるコウヘイ、タカシ、ヨウスケであった。
もう感情が動く事はないと思っていた俺も、流石に動揺を露わにしてしまった。
「サキ……なのか?何をしてるんだよ!」
サキは血塗れの手で、髪をかきあげてニコッと笑った。
「驚いた!?でもね、勘違いしないでね。私はツバサを救うためにみんなを殺したんだよ」
「どういう事?」
「うふふふっ」
死神がいるならきっと彼女の姿をしているだろう。血塗れのペンを死体のそばで握りしめて、うふふふと笑う人間がこの世に存在していいわけない。
「怖いわよね。ペンは捨てるね」
そう言ってサキはペンを遠くへ投げた。
「つまりサキが悪でコウヘイ達は、俺を助けようとしていたんだな」
「んー、何から説明すればいいんだろう。ツバサは、確かに生かされようとはしていたね。……いや、これは殺すのも同然か」
「よく分からない。生かそうとして殺そうとしていたのか?」
「文字通り言うとそう言う事なんだけど。そうだ!ツバサが来る前の話をさせて欲しいな」
「外の人からサキを、呼ぶように言われて放置してるけどいいのか?」
「ほっといて、あんな奴ら」
そう言って、サキは俺が七番目として現れる少し前の話を始めた。
ここから先の話を聞けば、俺がこの場所に連れてこられた理由も、ゲンジが死んだ理由も、ユカが死んだ理由も、全てが繋がることになるかもしれない。そんな期待と不安が入り混じった気持ちを抑えながら、血みどろの空間に佇んだ。




