第六話 事実
「えっ」
それを見て思わず声が漏れてしまった。
「誰だ!!!」
コウヘイがすごい形相でこちらを振り向いた。まずい、外にも出られないしどこにも行くあてがない。俺は諦めて、足早に近寄るコウヘイに謝った。
「ご、ごめんなさい!悪気はないんです、ただ、鍵を渡されて……」
コウヘイは苛立ちと焦りの表情を浮かべながら、俺の顔を睨んだ。
「鍵……ユカさんからだろ?」
「えっ、あ、いやわからない……です」
コウヘイが犯人かもしれないという恐怖のあまり、俺は思わず敬語が止まらない。
「なんで?誰かから貰ったんだろ、ここの鍵を」
「いや、昨日の夜寝ようと思ったら、ドアの隙間からこれを投げ込まれたんです。それで外を向いたら誰もいなくて……」
唾をごくりと飲んだ。
「そうか、この部屋を見たなら少し話さなければいけないな。こっち来てくれ」
俺は扉の中に入ってモニターの近くに寄ると、モニターには誰かの主観映像が映し出されていた。
「お前、自分が誰だか分かるか?」
「え?いや俺はツバサですよ。ただのツバサです」
コウヘイは少し悲しそうな顔をしながら驚くべき事実を告げた。
「俺達は密室に集められた被害者じゃないんだよ」
「じゃあ、何なんだよ」
コウヘイは椅子をゆっくりと回してこちらを向いた。
「いわば、運命共同体なんだ」
「訳の分からないことを……」
そう言って、コウヘイはモニターを指差した。
映像はガラス越しに誰かと話している映像である。
「あなたが、罪をやった事を白状すれば情状酌量の余地はあります」と、ガラス越しの人物は言っている。
コウヘイが操作パネルをガチャガチャと触り、こちらも主観の人物は返事を返した。
「ですから、私は犯人ではありません」と返している。訳が分からない、ゲームか何かだろうか。
「何なんだこれ、教えてくれよ。訳がわかんねえよ!」
「……俺達は、母体の中の人格達なんだよ」
声が出ない。
発汗は止まる事を知らず流れ出る。
「あっ、あっ、えっと……つまり、どういう事なんだ?」
「少し説明をしようか。まず母体とは、俺達が入ってる人間を表している。そんで、ユカはその母体の主人格なんだ。お前はここに来てから一度も食事やトイレをせずにいられる事が不思議だと疑わなかったのか?」
あまりの衝撃に言葉が出ない。思わず俺は、床に座り込んだ。
という事は、俺はその人格の中の一人って訳か。七番目ってそういう意味だったのか、と漸く理解した。
「どうして、教えてくれなかったんだ」
「……すまない、訳は話せない。だが、一つ約束する。俺が生きてる間はお前を死んでも守り抜く」
「それだけで信用なんて今更できないよ」
「だよな……あと、これは確実ではないが裏切り者がいる」
「裏切り者?」
「あぁ、そしておそらくは明日死ぬのは俺だ」
コウヘイは、悲しそうな顔で語った。
「殺されるのか?」
「まあ、そんなとこだ。防ぐ術はない」
本当にそうだろうか。コウヘイの鍛え上げられた体なら、仮にタカシ、サキ、ヨウスケの中に裏切り者がいたとしても負けるはずは無さそうだが。どうやら、そうはいかない事情があるらしい。
「信じるかはツバサの判断に任せる。俺の予想では、おそらく裏切り者は……ヨウスケだ」
「は!?本当に言ってるのか?」
「思い出してくれ、ユカが行方不明になった時のことを」
ユカが行方不明になった時。それは、二日目だったはず。
「ユカは記憶が、あるとか言っていたな」
「そう、それだ。あれは計画では、いなくなった時の記憶は話さないと全員で決めていたんだ。けど、あの日ユカは記憶があると言った」
何でそんな急にユカは計画の変更をしたんだ。……いや、しなければならなくなったという方が正しいのだろう。
となると、ユカは何かに気づいた可能性がある。
「わざと話して、裏切り者の反応を確かめた……とかか?」
「そうだ、あの時裏切り者に気づいたユカはわざと話した。そして、反応を示した者がいた」
「それが、ヨウスケだったというわけか」
「悲しいがそういうことだ」
ヨウスケがあの時、俺の捜索の呼びかけに反応が鈍かった理由がそれだったのだ。
高校生に見えるのに、何らかの手を使って二人を殺害する事が可能なのか?いや、正確には人格の殺害だから普通の殺害とは違うかもしれない。だが、まだ計画というのが分からない以上、コウヘイを信用しきるのは危険だ。
「一応、聞いたということにしておく。計画が分からない以上はね」
「構わない。俺は今、ユカの母体の人格に選ばれてるからここを動けないから、くれぐれも気をつけてくれ」
「ゲンジを殺したのもヨウスケなのか?」
コウヘイは黙りこくって反応を示さない。
「仲間が殺されてるのに、止めなくていいのか?」
コウヘイはそっとこちらを向き直した。
「止める事はできない。絶対に」
「どういう事だ」
「とにかく、最後の一人になるまで事を荒立てずじっとしていてくれ。ツバサが殺されることも絶対にない」
なぜコウヘイは、俺が絶対に殺されないと言い切れる?
事態がイマイチどころか、全て飲み込めない。
「交代の時間が近い。もう広場は戻れ」
俺は仲間外れにされた子供のような気持ちになりながら部屋を後にした。




