第三話 犠牲
昨日いなかったヨウスケは無事だった。しかし、ユカとゲンジの姿が見当たらない。
「ヨウスケ、無事だったのか! どこにいたんだ!?」
「あ……うん、何とか無事だったよ」
「それは良かったけど、どこにいたんだよ! 心配したぞ!」
「良かった! ヨウスケくん!」
特に慌てる様子もなく、ヨウスケが淡々と答える。コウヘイとサキはかなり心配していたようで、ヨウスケへ声をかけた後、そのそばへ寄った。タカシは状況を飲み込めておらず、黙りこくっているようだ。
ヨウスケの無事が確認できたことは嬉しい。だが、今度はユカとゲンジが消えた。また別の問題が増えてしまった。
この部屋といい、今の状況といい、目的はどうであれ、犯人はかなり狡猾で計画的な奴に違いない。
「大変だったところ悪い。ところでもう一度聞くが……ヨウスケ、君はどこにいたんだ?」
「それが……どこにいたのか、記憶がないんです」
「記憶がない?」
「はい。気がついたら、自分の部屋にいました」
かなりまずい状況だ。記憶がないとなると、犯人への手がかりも、この部屋の秘密も何も掴めない。
「どうしても思い出せないか?」
「す、すみません」
「ツバサ、もういい。ヨウスケは一日とはいえ、どこかに攫われていたんだぞ」
コウヘイが止めに入り、広場に一瞬気まずい空気が流れた。
何だこいつらは。犯人への手がかりを知りたくないのか。自分たちがこんな訳の分からないところに囚われているのに。
そんな利己的な考えがよぎったが、俺は言葉を喉で止めた。
「悪い……つい」
そう言うと、ヨウスケは「構いません」とでも言うように、俺へ小さく手を振った。その後、少しコウヘイとサキと会話をしてから、自分の部屋へ戻った。
そして、コウヘイが皆へ集まるよう呼びかけ、今日の作戦会議が始まった。ヨウスケは、あんなことがあったばかりなので、自分の部屋で少し休むことになった。
「さあ、どうしたものか……」
コウヘイが地べたであぐらをかきながら、ため息を漏らした。
「消えてた奴が帰ってきたと思ったら、今度は別の二人が行方不明だ。いよいよ犯人の目的が分からなくなってきたな」
痺れを切らして、俺は強めの口調で皆に呼びかけた。
「そもそも、俺たちは何のためにここに集められたんだ?」
タカシが少しビクッとした後、口を開いた。
「宗教的な何か……じゃないでしょうか」
「どうしてそう思う?」
「身代金となると、複数人を閉じ込めている理由が分かりません。復讐などが目的なら、我々に面識がない時点でおかしい。となると、普通の誘拐とは別の目的があるんじゃないかと……」
「なるほどな」
やはり、何か大きな陰謀があるのか。だが、いくら考えても答えは出ない。
今の俺たちに分かっているのは、出入り口がない以上、犯人が俺たちをここから出すつもりがないということだけだった。
「あの……今夜はアナウンスに従って、大人しくしますか?」
サキが恐る恐る口を開いた。
「ヨウスケくんも帰ってきたし、ユカさんとゲンジさんも、きっと無事なんじゃないかと思って……」
「気持ちは分かります。でも、念のため部屋の捜索はした方がいいと思います。コウヘイさん、タカシさんはどう思います?」
「まあ、賛成だ」
「私も、念のため確認した方がいいと思います」
二人が答えた後、サキも俺の方を見て小さく頷いた。
そうして、昨日と同じように捜索を始めた。
しかし、昨日と同じく、どの部屋を全員で確認しても二人はいない。
小一時間ほど捜索した後、ヨウスケにも声をかけて部屋を見せてもらったが、手掛かりはなかった。
やはり、残るのは侵入禁止の部屋しかない。
「今回も手掛かりなしか。侵入禁止の部屋を見るしかないんじゃないかと思うんですが、皆、どうする?」
「気持ちは分かるが、やめておこう」
コウヘイが俺に強めの口調で返した。
「一先ずは、自分の命を優先だ。破った罰則がどんなものか分からないうちは危険すぎる」
「でも、ユカさんとゲンジさんがあそこにいる可能性もある」
「だからって、勝手に入って死んだら意味がないだろ」
「……死ぬって決まったわけじゃない」
「決まってないからこそ、危険なんだ」
コウヘイはそう言い切った。
「無事を祈るしか、今はできない。アナウンスに従って、明日また朝の九時に集まろう。くれぐれも気をつけて」
コウヘイが皆に促すと、サキとタカシは小さな声で「はい」と返事をした。
俺を含めて、皆、自分の部屋へ戻った。
そして、部屋に戻ってしばらく経った後、昨日と同じアナウンスが流れた。
(各自、部屋に戻り内側から鍵を掛けること。そして、翌朝の九時まで決して自分の部屋を出ないようにすること。)
心のモヤが取りきれない。
今夜は、自分の安全を優先することにした。
俺は横にならず、見えない敵から身を守るように壁を背にして座り、そのまま眠りについた。
――翌朝。
九時になり、目を覚ました。
ちゃんと寝る姿勢ではなかったから、体が幾分か痛む。
ベッドから降り、ドアに手を掛けた。
その瞬間、サキの悲鳴が聞こえた。
「キャアアアアッ!」
俺は急いでドアノブを回し、広場へ駆け寄った。
今日の広場には、サキ、コウヘイ、ヨウスケ、タカシ。そして、床に一人の男が倒れていた。
「……ゲンジ?」
倒れていたのは、ゲンジだった。
「……死んでる」
コウヘイはゲンジの首筋に触れながら、そう告げた。
直後、アナウンスが入った。
(ゲンジさんは、侵入禁止の部屋へ入ろうと試みたため亡くなりました。皆さんも充分ご注意ください。そして、大切なお知らせがございます。)
俺は唾をごくりと飲み込んだ。
(これより、一週間後の明朝にて全員を解放致します。ルールを遵守し、穏便にすることが、皆さんが安全に過ごすための絶対条件です。以降も、アナウンスには従っていただくよう、よろしくお願い致します)
ブツッ。
アナウンスが切れた。
全員がざわつき始めた。
ルールを破った者に訪れる罰則。
それは、死という最も単純で、そして人間が最も恐れる罰だった。




