第二話 アナウンスとメモ
広場に集まっていた人物たちの中に、先ほどまではいなかった男がいる。
「なあ、誰だ? その人は」
寝起きでまだ頭が回っていない俺は、男を指差して尋ねた。
「僕も、目が覚めたらここにいて……あ、タカシと申します」
そう男は答えた。
この男も受け答えからして俺たちと同じく、ここに連れてこられたらしい。だが、出入り口のない部屋にどうやって、いつ現れた? 疑問は残るが、俺は気になっていることを続けた。
「高校生くらいのヨウスケは? どこに消えた?」
「わ、私達もここに来た時には、あの子はいなくて……」
「出入り口もねえのに、どうやってガキは消えて、この親父は現れたんだ?」
サキとゲンジは、互いに顔を見合わせた。
「あの、それで広場にこんなメモが置かれていました」
サキが俺にメモを見せる。非常時とは思えないほど、達筆な字で書かれていた。
これより、アナウンスが定期的に入る。
アナウンスが入り次第、全員直ちに自分の部屋へ戻ること。
その間、再度外出許可のアナウンスが入るまで、自室を出ることを禁ずる。
また、侵入禁止の部屋は今後一切開けようとしてはならない。
規則を破った者には、相応の罰が与えられることを認識しておくこと。
「何だこれ」
「誰かが書いたのか?」
「さあね。よっぽど映画とかを見て、こういうことに憧れを抱いてるんじゃない?」
何か違和感がある。その違和感が何なのかは分からないが、しこりのように俺の胸に残った。
「そうは言っても、ここから出なきゃいけないよな。何日も閉じ込められてたら洒落にならないし」
俺は皆に呼びかけた。そして、さらに続ける。
「罰則が本当にあるとは限らないが、破っていいことはないと思う。ルールを守った範囲でヨウスケを探すのが、まずは一番の目的だよな」
「えぇ、そうね。出入り口も見当たらないようじゃ、時間も無駄にするし。全員で手分けして探しましょう」
ユカが神妙な面持ちで俺に返答をした。
俺たちは消えてしまったヨウスケの捜索を始めた。初めは各自の部屋。それから、隠れられそうな場所はないかくまなく探した。
そういえば、各自の部屋番号はどうなっているだろうか。俺は探している間に、各自の部屋番号を確認することにした。確認したところ、皆の部屋番号はこうだった。
一番 ユカ
二番 コウヘイ
三番 サキ
四番 ヨウスケ
五番 ゲンジ
六番 タカシ
七番 自分
俺より後に現れたタカシが、俺より早い番号なのが気に食わない。だが、部屋番号はどうやらこの順番で決められているらしい。
本当にそうなのか?と疑問は残る。俺たちがここに来た順番と、部屋番号に何か関係があるのだろうか。気になる部分はあるにせよ、今はヨウスケの捜索が最優先なので置いておくことにした。
三十分ほど捜索したが、ヨウスケは見つからなかった。見たところ、隠れられそうな場所もない。となると……あの部屋しかないのではないか。侵入禁止の部屋だ。だが、あそこは入ってはならない。
「私達も、もう夜だし各自の部屋に……」
ユカがそう言いかけたところで、アナウンスが入った。
(各自、部屋に戻り内側から鍵を掛けること。そして、翌朝の九時まで決して自分の部屋を出ないようにすること。)
例のアナウンスがかかった。
「ちょうど、アナウンスが入ったわね。残念だけど、私達もこんな状況だし、ヨウスケの捜索は明日にしましょう」
ユカが俺たちにそう訴えた。
俺もこの一日は何が何だか分からなかった。仕方なく、ユカの言葉に従うことにした。
時計を見つめながら、考え事をする。犯人の目的は何だろうか。身代金か、復讐か、それとも宗教的な目的か。身代金目的なら、俺たちをこんな場所に閉じ込めておく必要があるのか疑問だ。復讐だとしても、俺には誰かに恨まれるような覚えがない。
もっとも、自分では気づいていないだけで、どこかで恨みを買っている可能性もある。だが、それならなぜ俺たち全員なんだ?考えれば考えるほど、分からなくなる。俺はベッドに横になり、目を閉じた。
――翌朝。
九時になり、広場へ向かった。
そこには、サキ、コウヘイ、ヨウスケ、タカシがいた。
「……あれ?」
昨日、確かにいなかったはずのヨウスケがいる。まるで、何事もなかったかのように。
「ヨウスケ?」
俺が声をかけると、ヨウスケはこちらを振り向いた。
「……おはよう」
その言葉に、俺は一瞬だけ言葉を失った。
「お前、昨日どこにいたんだ?」
ヨウスケは答えなかった。その代わり、俺はあることに気づいた。昨日までいたはずの二人がいない。
「……ユカとゲンジは?」
誰も答えなかった。
広場にいる人数は、昨日と変わっていない。
ただし、そこにいる人間だけが変わっていた。




