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第5話 ルシャギルド

《ガタッ、ガタガタッ》

 都市<累叉(ルシャ)>へ向かう商人馬車の中でムーチーは座り込んでいたので馬車の衝撃がダイレクトに伝わってきていた。


『うっ。体勢変えたいのに兎、今度は膝の上で爆睡してるよ……』

 か、革詫(キョクタ)村への道中を途中から走ってたので疲れたのかもしれない。

『それとも、ただ図太いだけなのかもしれない。』

 起こさないために、今の体勢を保ったまま、マルサさんに用意して貰ったバスケットへ手を伸ばした。

『うひー、ギリギリだぁ。』


 《モゾモゾ》と兎が動きはしたものの、なんとか起こさずにバスケットを取れた。

『サンドイッチとスープだ!』


「ありがとう、マルサさん。いただきます!」

 朝から何も食べていないお腹に栄養が行き渡る感じがした。

森駆(シンク)村の皆が気になる。僕に何も告げずに何処へ行ったのだろう?』


 キョクタ村以外の行き先となると、モンスターに襲われて散り散りに逃げたくらいしか思い浮かばない。

『それでも何人かはキョクタ村を目指すはずなんだ。マーシャルならあの池にいることも考えたのに……。』

 考えても不安が募る……。


「坊ちゃん、狭いけど大丈夫ですかい?」

 商人がムーチーに声を掛けると返事が無かった。

 そっと中を覗き込むと……。


『スー、スー。』

 知らぬ間にムーチーは寝落ちしていた……。

 この日起きてからずっと気を張り続け、お昼ご飯と心地よい馬車の揺れ。そして何よりも膝の上の兎の温もり。


「ふっ、そっとしておきましょうか。いつも通りの一人旅ですね。」

 商人はぼやきながらムーチーと兎の微笑ましい姿に表情は和らいでいた。


 ◆◇

 荷馬車が止まった事で兎は一足早く起きた。

「坊ちゃん、着きましたよ。」

 商人が声をかけると、兎が商人を見つめていた。


「うん~?」

 ムーチーは寝ぼけながら声の聞こえた方を見た。

 商人が思わず緩んだ口元を引き締め、「ルシャに着きましたよ?」

 と再度伝えた。


 寝てたことに気付いたムーチーは起き上がろうとした瞬間、足と腰に激痛がっ!

「いっ、たぁ~。……、ありがとうございます。ちょっと今、足が痺れてて少し待って貰えますか?」

 ムーチーは恥ずかしさのあまり、赤面しながら答えた。


「大丈夫ですよ。兎さん、ずっと足の上で寝てましたからね。横で荷物下ろしているので急がなくて大丈夫ですよ。」

 商人が笑いながら答え、荷下ろしを始めた。ムーチーは少し待ち、足の痺れが治り立ち上がった。

「手伝います!どこに置けばいいです?」

 商人は断ろうとした。

 が、ムーチーの真剣な眼差しに負けて下ろす場所を指示した。


「手伝っていただきありがとうございます。おかげで早く終わりました。」

 商人は嬉しそうに感謝の気持ちを伝え、「この後はどうするおつもりで?」

「とりあえずギルドへ報告に行きます。」

 商人は商店の入り口を出て右手を指さした。

「こちらの大通りをまっすぐ進むと噴水広場があります。そこに大きな建物があるのですぐギルドと分かるでしょう。」


「ありがとうございます。」

 ムーチーは再び兎を抱きかかえながらお礼を言った。

「宿は決まってますか?」


『あっ!……』

「ふふっ。あ、すみません。顔に出てますよ!」

 商人が言った通り、ムーチーはポカンと口を開けて固まっていた。

「泊まる当てがなければ私、ラットンが数日はここにいますので声を掛けてください!」


「ありがとうございます!」

 ムーチーはお礼を言い、ギルドへ向かった。


 ◆◇◆◇

 

 ムーチーは大通りに出ると、想像以上の人込みに戸惑いながらもかき分け進み、何とか噴水広場にたどり着いた。

 広場では美味しそうな屋台や芸をしている魔獣がいて、とても賑わっていた。

『初めて来たけど凄い!さすが都市だなぁ。』


 初めての都市の光景に圧巻された。

『おっと、感心してる場合じゃなかった。ギルドはどこだ?』

 噴水の周りをぐるりと見渡すと左手に一目瞭然の建物があった。

「くすっ。ラットンさんの言った通りだ。直ぐ分かる!」


 思わず笑い、ギルドへ向かった。

 大きな扉は夕方になっていたので冒険者の出入りが多く、開きっぱなしだ!

 もちろん冒険者は見る限り屈強な剣士と魔法職ばかりだ。


 ムーチーは覚悟を決めてギルドの中に入っていた。

「ねぇ、あの小さい子……」

「兎の魔獣?てかちっせぇな、あのガキ」


 ムーチーはまだ小さいのにすぐ目立ち、受付までの道が出来てしまった。

『えっ、注目されてる?』

 小さいのでスルーされると思っていたので、思わず速足になった。


「あ“っ!」

 とムーチーの一言。理由は受付まで続くカーペットに躓いたのだ!

 ムーチーはスローモーションに感じながら盛大にこけ、さっきの叫び声でギルドは静まり返った。

 

 笑う者や心配する者など、更に沢山の注目を集めた。

 『ギルド入るところからやり直したい……』

 と恥ずかしつつ、こけたまま念じた。


「僕っ!大丈夫?」

 願いも虚しく、受付の女性が急いで駆けつけて来た。

『兎を庇うために両手は万歳、顔面強打。大丈夫じゃない……』

 むしろ開き直り、何事もなかったように起き上がった。

 

 ……つもりだった。

「鼻血、出てるよ?医務室行こっか!」

 ムーチーの確認も取らず左手を引っ張り、強制連行された。

「ちょっと医務室連れてくねー!」


 他の受付をしてる人に手を振りながら声を掛けた。

「この忙しいタイミングで?ふざけるなよ!」

 ぽそっと受付のメガネ男子が文句を、誰にも聞こえないくらいの大きさで言った。


 医務室に連れて行かれると「”ヒール”」受付の女性が唱えると治癒魔法で瞬時に治った。

 脱脂綿で顔に付いた血を拭き取ってもらい綺麗になった。

『痛い、ちょっと力強くない?』

 と思いつつも治療して貰っている身なので大人しくしていた。


「はい、おしまいっ。で、今日はギルドへ何しに来たの?」

『この受付の人、グイグイ来るな……。』

「あの、近くのシンク村で村人が僕以外消えちゃって、このギルドの上の人と話したい……。」

 

 事の重大さに気付いたのか、受付の女性は頷いた。

「おけっ!ちょっと待って貰えるかな?」

 と言い残し、さっと医務室を出て行った。


 ◆◇◆◇◆◇


『名札にルルって書いてあったな。』

 待っている間に治療してくれた受付の女性の名札に書いてある名前を思い出していた。

 

《がちゃっ。》

 兎と待ちながら考えていると、扉が開いた。

 先程のルルと冴えないひょろっとした男性、女性騎士が入ってきた。


「この人がギルドマスターのタッコルさんと、騎士団長のギィシャさん。」

「ギルマス、一応このギルドのトップです。」

 ギィシャは会釈程度で何も話してくれなかった。

 

『あ、この人がギルマス?ちょっと不安かも……』

 ムーチーの不安そうな顔を見て、ルルは口元がピクピクっと動いた。

 笑うのを必死に我慢している。


「あの、近くのシンク村のムーチーです。今朝村人が僕以外全員いなくなって……。村長の家には村長の服を着たゴブリンが寝てたのと、ウルキャットが3匹、あとこの兎しかみてないです。」

「それと隣村のキョクタ村への道中は魔物どころか、動物すら見てないです。」

 ムーチーは要点を淡々と伝えた。


 ルルはギルマスとギィシャと共に都市、ルシャ周辺の地図を出してそれぞれの村を指さしていた。

 すると、ギィシャがムーチーに問いかけた。

「少年、ライカークは知ってるか?」


『どこかで聞いた名前……。リーツァ姉さんの旦那さんだ!』

 少し考えた後、思い出せた。

「はい、昨日リーツァ姉さんと村に来ました。」


「まさかライとリーツまでいないのか?」

 ギィシャは目を真ん丸にして驚いて聞いてきた。

 ムーチーは頷いた。

 もちろんギルマスとルルも顔を見合わせている。ギルマスは眉間に皺が寄っている。


『まさか二人ともここで有名なのかな?』

 ムーチーは話の全貌が見えずに、戸惑っていると三人はこそこそと話し出したのだった……。

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