第4話 助けを求めて
ムーチーは村を出てから、魔物が現れないか警戒をしていた。
腕の中の兎がいまだにぐっすり寝ているのもあるが……。
しかし、いつもより静かな街道(村と村を繋いでいるだけなのでしっかりと整備はされていない。)に違和感を覚えた。
『何か怪しい、急ぐか。』
右手でしっかり荷物を持ち、兎を左腕で抱えるように抱きしめ直した。
いつもの日課で鍛えた脚力を生かし、でこぼこの街道を走り出したのだった。
『兎、この状況でも寝続けれるんだな……。』
兎の図太さに感心しながら走り続ける。
『いつもならリスとかイタチが出てくるんだけどな……。』
走っているうちにさらに疑問が浮き出てきた。
『近くの木から鳥すら羽ばたかない?異常すぎる!』
ムーチーはあまりの異常さにで予定より早く、半分ほど移動し終えたところで一度、街道をそれた。
「確かここら辺に……と、あった!」
探し求めていた小さめの池にたどり着いた。昔母のマーシャルから聞いただけで半ば疑いながら来たが、話は本当だったらしい。
安心して水辺に座り一息ついた瞬間、『あっ!』
兎が急にムーチーの腕から飛び降りた!いつの間にか起きていたらしい。
「待てっ!」
急いで立ち上がり捕まえようとしたが、兎は呑気に池の水を飲みだした。
『うっ……、とりあえず待つか。』
逃げられないように中腰で臨界耐性に入った。
喉が渇いていたのか、なかなか飲み終わらない。
「はぁ、結構寝てたからな。」
苦笑いし、思わず気が抜けた瞬間。
兎が水を飲むのをやめてムーチーを見た。
ムーチーは逃げられると思っていた手前、目線が合うという予想外の展開に思考停止。
そんなムーチーを他所に、兎は《ピョン、ピョン》とムーチーの足元まで移動して落ち着いた。
『どうやら懐かれたらしい。まぁ、いいことか。』
ムーチーは安心し、兎に迷惑をかけない様にゆっくりと座り小休憩をした。
「さて、動くか。腕に乗るか?それともついてくる?」
兎に腕を差し出したが乗ってこなかった。
『とりあえず動き出してついてこなかったらまた抱っこしよう。』
ムーチーは起き上がり、後ろを見ながら街道へ戻っていった。
兎はしっかりついてくる。
「走るぞ?」
街道を走り出したが、しっかり足元をついてくる。流石村で30分も追いかけっこしただけの事はある。
『よかった、これなら大丈夫そうだ。』
安堵しながら革詫村へ向かった。
◆◇
その後も生き物の気配すら感じないまま、目的地まで着いた。
「おいで!」
よその村なので兎を呼び、抱きかかえた後、村の見張りに声を掛けた。
「お久しぶりです。僕の村の人達って……こちらの村に来てますか?」
少し不安になりながら聞いた。
「いや?ここ最近、ムーチー君以外は来ていないよ。」
見張りの人は不思議そうに答えた。『嫌な予感があってしまった……。』
「すみません、急ぎでベイキッドに会いたいのですが。」
「今は家にいると思うよ?」
「ありがとうございます!」
食い入るように返事し、急いでベイキッドの家へ走り出した。
「あんなに急いでどうしたんだろう?ムーチー君にしては珍しいな。」
見張りの人はムーチーの不可解な行動に独り言を呟いたあと、見張りの業務に戻った。
《ドンドンッ!》
「ベイキッド~、ムーチーだ!」
大きくノックをし、呼びかけるとベイキッドが出てきた。
「ムー、どうした?……なんで兎?」
ベイキッドが腕の中の兎を見下ろして、不思議そうに聞いて来た。
「おうっ、ムーチー。稽古はこの前したばっかだろ?」
ベイキッドの後ろから大男が《ぬっ》と表れた。
「おじさん!一緒に聞いて欲しいことがあるんです!」
ムーチーの慌てた形相に何かあると察し、「取り合えず中に入りな。」
家の中に入れてもらい、テーブルでベイキッドとその父、マイラスに村の出来事を伝えた。
◆◇◆◇
「分かった。俺が村人に声を掛けて捜索隊作って森駆村の皆を探す。」
「ありがとうございます。あと、この兎を飼ってたり、従魔にしている人、この村にはいませんよね?」
ベイキッドとマイラスは顔を見合わせ、2人共首を横に振った。
「兎はこの村では食料だから、俺らの知る限りいないな。」
『だよな、そもそもこの村に従魔を従えている人すら見たことが無い。』
ムーチーは予想道理の返事に落胆した。
「父ちゃん、俺も捜索隊に加わる!」
ベイキッドは覚悟を決めた顔で父親を見つめながら伝えた。
「まっ、人数次第かな。ムーチー君はどうする?」
マイラスの質問に悩んでいるといつから居たのだろう?後ろからベイキッドの母親が声を掛けてきた。
「都市<累叉>のギルドへ報告しに行く方がいいと思うよ!」
「ラニサ、どうしてだい?」
マイラスが予想外の回答が返ってきて思わず聞き返した。
「都市から月一の商業馬車がきているからさ!乗せてってもらえるんじゃない?」
商業馬車は都市から物々交換や売買、いろいろなことをしてくれている。
ただ、来てもらう分少し値段は張ってしまうが、馬もない2つの村には重宝されている。
「そうと決まればムーチー、早速乗せてもらうために交渉だ!行くぞ!」
「マイラス、あなたは捜索隊を集めるんでしょ?ムーちゃん、私がついて行くわ。」
マイラスも焦っているみたいだ。捜索隊と言う言葉を聞いて『あっ!』と言う表情をしていた。
ベイキッドも父親の表情を見た後、ムーチーと目が合い互いに苦笑いをしていた。
『マイラスさん、完璧に忘れてたな。でも、ここへ真っ先に来てよかった。』
◆◇◆◇◆◇
都市側の入り口へ向かうと商業馬車が露店を開いていたが、近づいてみると……。
「マルサさん、もう片付けてるよ。」
ムーチーは不安そうに聞いた。
「まだ出てないから大丈夫だよ。話に行こうか?」
「商人さん、この子を都市まで送ってやってくれないかい?」
マルサは直球で聞いた。もちろん商人は声を掛けられたことにより笑顔で振り返った。
しかし言葉の続きで買い物客じゃないと分かるり、振り返るとムーチーの腕の中にいる兎を見て首を振った。
「兎いるんじゃ話にならないよ。食料を乗せているのに動物なんて……。」
『そりゃそーなるよな。』
ムーチーは肩を落とした。
「タダでとは言っていないよ、これでいかが?」
マルサから渡された銀貨1枚にムーチーも、商人も目を丸くした。
「えぇ、そんなことなら早く行ってくださいよ!荷物で狭いですが、許して下さいね。」
商人は両手の指同士を握り合い、感謝の気持ちを伝えながらニコニコで準備を始めた。
「マルサさんっ、そんな大金……」
ムーチーの言葉を遮り、「困ったお互い様だよ。」とニッコリと笑いかけてくれた。
「商人さん、一度家に戻るので出発待っていてもらえますか?」
マルサさんはそういうとムーチーに「すぐ戻るからね?」と言い残し家に帰っていった。
そして商人は荷物を片付け終わり、荷馬車の隅っこに乗るスペースを作ってもらった。
マルサさんが返ってくるとその手にはバスケットが!
「これお昼ご飯まだでしょ?移動中に食べて!また家に寄ってね?」
「マルサさん、ありがとう!」
マルサさんはニッコリとしながら「商人さんを待たせるから荷馬車に乗って!」
と言い、商人さんへよろしくお願いしますと頭を下げていた。
マルサさんの好意と村人の心配が混ざり合い、涙ぐみながら出発したのだった。
『マルサさん、ありがとう……。』
そして商人馬車は都市へ向かって動き出したのだった。




