第3話 村の異変
《ひゅうぅ、 ストンッ》何かがムーチーの顔の上に落ちてきた。
「いってぇ……。」
痛みと共にぼやきながら、目が覚めた。
目を開け、顔に振ってきた正体を見ようとすると、真っ白の毛で目の前一面いっぱいだ!
状況が呑み込めずに固まっていると、両頬に強い痛みと共に顔の上の生き物は顔から降りてくれた。盛大な後ろ蹴りと共に。
『うわっ!』急に光が差し込んできたことで、眩しくて目が開けられない。
先程の生き物がいなくなったことで、高く昇った太陽の日差しが両目の視界を奪った。
とっさに両手で目を抑えて転がると《ゴンッ!》草むらに落ちていた大きめの石に左肘をぶつけた。
更なる痛みと同時に道端で寝ていたことによる体の節々が同時に痛み出した。
一度に沢山の災難と、散々な寝起きでムーチーは頭の中の整理できなかった。そして最初に出てきたのは『えっ?朝……寝坊っ!』
ありえないことに気付き、パニックになり飛び起きた!リーツァがいなくなった日から始めた毎日の日課、一度も寝坊したことが無かったのだ。
そして目の前に広がった光景、そこは布団の上ではなく村の道端だ。
「……。あっ、昨日もっけ送った後の帰り道、謎の睡魔に襲われたんだった。なんだったんだろう?」
少しの間頭を抱えて悩んだ後に過去を思い返したが、急な睡魔など今まで訪れた経験なんて一度もなかった。
不思議な出来事に疑問を抱きつつ起き上がると、目の前に先程顔の上に振ってきた正体が座ってこちらの様子を伺っていた。
「なんだ、兎か…………えっ、蝶ネクタイ?」
なんとその兎の首には黒色の蝶ネクタイが付いていたのだ。
「誰かの従魔?でもこの村の人達にはそもそも従魔を従えてる人なんていないしな。」
新たな謎を他所に兎は黄色の瞳でこちらをずっと見つめてくる。
「誰の従魔かは知らないけど、きっといなくなって困ってるかもしれないから捕まえるか。」
◆◇
「はぁ、はぁ。」
追いかけること30分。ムーチーの腕の中では疲れて眠った兎がいた。
『まるでエヴィーにそっくりだ。』
エヴィーとは村に住む子供の内の一人、まだ6歳のエルヴィルのことだ。リーツァにしてもらったように今度はムーチーが面倒をみているのだ。『まぁ、面倒と言っても今回の様に追いかけっこがほとんどだが……。』と苦笑いした。
「そういえばこの時間なのに村の人、誰も見てないな?」
必死で兎を追いかけていて気づく遅れたが、誰一人見ていないのだ。
大人は宴会で二日酔いの人がいても不思議ではないが誰一人見ていないことが異常なのだ。
急いで村中を駆け回り、家の中を確認したが誰もいない。
『まさか?』と思い自宅も見に行ったが、もっけもマーシャルもいない。
「残るは……村長か。」
ムーチーは最後の期待と、どっきりであると思いたかった。
歩いている道中に自宅を覗いた時の違和感にふと気付いた。
『リーツァ姉さんとライカークさんも見てないんだよな、どこに止まったんだろう?』
あのマーシャルが布団を敷いて用意していたのに寝た形跡もなかったのを思い出した。
不安が広がり、足取りが段々と早くなった。
◆◇◆◇
「そんちょー、入るよ~?」
声を掛けてノックをしても中から返事が無かった……。
少し扉の前で立ち止まったまま、何事もないことを願う。
決意の深呼吸をし、恐る恐る中に入った。
太陽の日差しが外から薄暗い室内に入り、ムーチーの視力は一度奪われた。
薄暗い空間に目が慣れるまで数秒、目を細めて室内を見渡すと……『うっ、何だこの匂い?』
部屋の奥の方からだろうか?腐敗臭ともとれる、きつい匂いがムーチーの鼻にツンっと入ってきた。
臭さのあまり手で鼻を塞ごうとしたところ、自分の腕を見下ろした。『あ、兎……』
ムーチーの腕の中で相変わらず《スヤスヤ》と眠り続けていた。
『フッ、さっきはしゃいでいたからな。でも、兎はこの匂いが平気なのだろうか?』
とりあえず兎のおかげで緊張がちょっと和んだことにより、ムーチーの覚悟が決まった。
匂いのする部屋の奥へゆっくりと進んでいくと……。
「村長っ!」
村長がうつ伏せで倒れていたが、兎がいるため走って近づけない。
仕方なく歩いて近づいていくにつれ、匂いがきつくなった。
更には、村長に何か違和感を覚え立ち止まった。
「嘘だろ?」
一言発した後、目の前の光景に目を疑って固まってしまった。匂いなんて気になんてしていられない。
《ビクッ》
急に兎が反応し、暴れ出した。
逃がさないため、必死に抱え込んで頭を撫でた。
すると少し落ち着いたのか、暴れるのはやめた。が、ずっと村長を睨みつけている。
◆◇◆◇◆◇
兎が警戒するのも頷ける。
村長だと思った正体はまさかのゴブリンだった!
「嘘だと言ってくれ……。でもゴブリンが来ている服は間違いなく昨日村長が着ていた服じゃないか!」
そう、薄暗い部屋と期待だけでなく、服装も一緒だったため村長だと判断してしまったのだ。
『ゴブリンが人の服を奪った?じゃあ村長はどこだ?』
ゴブリンを起こさない様にそっと他の部屋を覗いてみたが、村長はいなかった。
『そんなバカな、村にゴブリン?しかも単独行動?』
謎が増える一方だ。
腕の中にいる兎がずっと警戒しているため村長の家をそっと抜け出した。
そう、ゴブリンから逃げるように。
『村人が誰1人、村にいない事実とゴブリン。』
ムーチーの頭の中で嫌な予感がグルグルと回る。
「いや、もしかしたらゴブリンに襲われて革詫村に逃げたのかもしれない。行ってみるしかないか……。」
革詫村は少し遠いが10㎞弱離れた隣村だ。年1~2回村同士で交流もあり、ムーチーは剣士の修行仲間であるベイキッドへ会うために月1で訪れている。
「とりあえず家に帰って荷物を取りに行くか……」
先程村の入り口に見張りがいないのを見ていたため、『他にもゴブリンがいるかもしれない。』
と警戒しながら自宅まで警戒しながら帰った。
不気味なほど誰とも会わなかった……。『これは幸いと思うべきなのか?』
「ただいま~」
ゴブリンがいないか不安に思いつつも、誰か帰ってきてくれていることを願ってみたが返事は無かった。
もう一度家をくまなく探してみたがやはり誰もいない、もちろんゴブリンも……。
『どーなってるんだ?とりあえず荷物だけ持ってさっさと村を出るか。』
とムーチーは考えながら自分の部屋にある荷物を持った。
「来月誕生日で村を出る準備をしていたのがこんな形で使うことになるとは……。」
そう、ムーチーは来月には15歳の誕生日を迎えるのだった。
扉まで戻り、最後に名残惜しそうに家を見渡した。
『よしっ!』とけじめをつけ、そっと扉を開けた。
すると風と共に家の前を何かが走り抜けた。
『はやい!ゴブリンじゃない?』
扉の隙間から覗くとウルキャットの大人2匹と子供が1匹、計3匹の家族?がいた。
ウルキャットは狼と豹を掛け合わせたイメージでこの村の周辺では見かけない、ゴブリンなんかよりずっと強い魔物だ。
『嘘だろ、ただでさえ強いのに木剣なんかで敵う訳ないだろ……』
レベル差がありすぎるため様子を伺っていたら、口には肉を咥えていた。
食料に満足したのか村から出て行った。
「助かったぁ。」
緊張が解けて一息ついて扉の前に座り込んだ。
腕の中の兎を撫でて気分を落ち着かせて、立ち上がった。
そっと扉を開けて、魔物がいないのを確認し、村の入り口まで慎重に進んで行った。
『まて、いざ戦闘になった時は腕の中の兎を考えなくては……。』
「まぁ、慎重に行くか。いざ革詫村へ!」
覚悟を決めて、育った村を後にしたのだった。




